第四章 叡学園編
第四十二話 リベルタへ
朝、目を覚ます。
当基地は地下内にあり、朝の陽ざしを浴びることが出来ないのは少々寂しいが、ベッドの寝心地が良くすっきりとした朝だ。
コンコン。
「はーい」
目覚めて早々、寝室のドアをノックする音が聞こえる。誰だろうか、早いな。
「起きていたか、おはようフレイ」
「おはよう、テオス。随分と早いね」
ガチャリと音を立てて寝室へ入ってきたのはテオスだ。
「すまないな、突然だが後で大事な話がある。一時間後、会議室に来てくれ」
「……わかった」
「では、後で」
伝えるべき事だけを残すと、テオスは早々と去っていった。総指揮様、朝からお忙しいのかもしれない。
それにしても、大事な話とは? おそらく今日からのおれの活動について、といったところだろうな。そうゆうことなら、さっさと準備しますか。
「おはよう、セネカ、リリア」
「ああ、おはようフレイ」
「フレイちゃん! おはよう。そこに朝食あるわよ」
着替え等を済ませ、家族での食事スペースに顔を出すと、すでにうちの女性陣がいた。……セネカのパジャマが新しい。リリアに貰ったのだろうか。寝起きの姿なんて見慣れているはずなのに、少しドキドキする。落ち着け、落ち着くんだ。
「……ふぅ」
「どうした、まだ体調が優れないのか」
「い、いや、なんでもないんだ、ははは……」
心を落ち着かせるどころか、席に座ると距離が近くて
なんとか心を落ち着かせて、サンドイッチのようなものを手に取る。朝からリリアの手料理とはなんと豪華な。
「そういえば、さっきテオスに呼ばれたんだけど、何か聞いてる?」
「……ああ、ワタシたちも呼ばれているぞ」
「ええ、そうよ」
「ふうん」
家族
朝食を済ませ、三人でテオスの元へ行く。なんとなく、リリアもセネカもあまり喋らないような……まあ朝だし、こんなもんか。
「入るよー」
会議室をノックし、そのまま入っていく。テオスはすでに来ていた。そして隣にはファーリスさん。ファーリスさんも関わってくるのだろうか。
「三人とも、そこに座ってくれ」
テオスに促されるまま、おれたちはそれぞれ席に座る。どんな話が始まるやら。
「早速だが……良いだろうか」
いつも通り、テオスから今日の会が始まる。だが、目線を見る限り、テオスが了承を求めたのはどちらかといえばリリア・セネカの女性陣二人だ。何か事前に話がいっているのだろうか。
「フレイ」
「は、はい!」
急に来たので、つい畏まってしまう。真剣な面持ちで一体どうしたっていうんだ。
「お前が眠っている間、私たちはフレイのことについて色々考えて話し合ったんだ」
「うん……」
「それで、これは私からの提案だったが、二人からの賛成ももらえた」
「何の?」
テオスは一息ついた後、おれとしっかり目を合わせて切り出す。
「フレイ、お前には“リベルタ
「え!?」
聞き間違いか!? リベルタ叡学園ってあのテオスの日記に出てきたやつ? テオスとセネカが通っていたっていう。
リベルタ叡学園。そこでは数年に一度しか卒業生が出ないと言われる中で、テオスはそこの伝説的な卒業生であり、その事実と器からこの総指揮という立ち位置にいると言っても過言ではない。大陸最高峰の学び舎とまで言われる叡学府、勧めるのはわかる。でも、おれには別の理由がある気がしてならない。それは……
「おれに、逃げろってこと?」
リベルタ叡学園が建つ“リベルタ中立国”は、その名の通り“中立国”だ。他のどの国の味方をするわけでもなく、逆に敵でもない。国の面積は小さいものの、叡学園をはじめとして魔法や軍事が発展している国であるため、侵略傾向のあるこの国―――ヴァレアス帝国―――すら
ヴァレアス帝国が隣国―――マナスヘイム―――に攻め入った時も、半ば仲介の役割をしたとまで言われている。つまり、常に不穏な雰囲気を
「それは違うぞ、フレイ」
「……」
「フレイ、確かにこの提案はお前が眠っている間に話し合って決めたものだ。だがな、一緒に戦うと言ってくれたお前の覚悟も
「なら、どうして!」
「言い方はあまり良くないが、事実としてお前はここの最高戦力の一人だ。私が不甲斐ない今、戦力的な面でも頼りにしている。だが、お前には子であるがゆえの未熟さ、危うさがまだ残っている」
ぐっ、それは……。
「そして、何より……お前の力は
ぐぬぬ、正直わかる。言っていることは正しいと、すごくわかる。でも、なんていうか……
「なんだ、ワタシがどうかしたか?」
えっ、あれ、今おれ自然にセネカを見つめてた?
「……ふーん、なるほどねえ。わかるわ、わかるわよ、フレイちゃん」
リリアがうんうんと
「な、なにが?」
「寂しいんでしょっ。セネカを離れることが」
「えっ!! ち、ちち、違うよ!」
急に何を言い出すんだ、うちの母親は!
「……違うのか?」
ぐっ! セネカが少し悲しそうな目で見つめ返してくる。これは反則だろ。
「ち、ちが……わない、わけじゃ、なくも……ないけど……」
思わず視線を逸らす。手で顔を覆っていないと、とても平静でいられない。顔が沸騰しそうだ。
「ふっ、まったく。どっちなんだそれは」
呆れながらも、少し嬉しそうにふっと息を吐いてセネカがおれの前まで来る。
そうして、おれの頭に手をぽんと乗せた彼女は言葉を続ける。
「ワタシも、一時的とはいえお前と離れるのは寂しいに決まっている。ずっと一緒だったわけだしな。だが、それと同じぐらい、いやそれ以上に、お前にはもっと成長してほしいと思っている。テオスの言う通り、お前はこんなものじゃない。ワタシの知るフレイツェルトって奴はもっと、もっともっとすごい奴なんだ。また成長した姿を見せてくれたら、それこそワタシは泣いて喜ぶだろう」
その頭に乗せられた彼女の手に、思わず両手をそっと重ねてしまう。
「ふっ、この甘えん坊め。寂しいのならさっさと力をつけ、早々に帰ってこい。それこそ、テオスのようにな」
「……わかった。おれ、頑張ってくるよ」
突然の提案に、正直今は戸惑いや困惑の方が大きい。
でも、おれたちがこうして再会出来たからといって、実際にはおれたち以外の事は何も解決していないのだ。この国の事、レイヴンに対しての事、まだまだやるべき事は山積みだ。それに備えるため、おれはさらなる力をつけなければならない。テオスがそう言いたいのは表情や言葉の裏から読み取れる。本当に、一体どこまで見据えているんだろうな、この父親は。
「フレイちゃん」
「うん」
「再会したばかりであなたには酷かもしれない。それでも、フレイちゃんにとってもこれが最善の選択のはず」
「わかっているよ。成長した姿を、すぐ見せにくるから」
「ええ。あなたは本当に賢い子ね。いつまでたっても、どこにいても、応援してる」
「ありがとう」
そう言われると、いつものようにぎゅっとされる。恥ずかくないと言えば嘘になるが、これがしばらく無いと思うと、おれは素直に身を任せた。
「フレイ」
「はい」
「お前は昔から出来る奴だ。行ってこい」
「テオスも、くれぐれも気を付けて」
「ああ」
◇◇◇
荷物をすべて持って、ファーリスと共にリベルタ行きの馬車へ乗り込んだ。
「フレイ……これは持っていくか?」
「これは」
テオスの日記だ。寝泊まりしていたところから持ってきていたのか。
「持っていくよ。これは、おれの覚悟の印だ」
「私としては少し複雑だがな」
テオスはぽりぽり頬をかいている。
「元気でな」
「フレイちゃん、何かあったらすぐ手紙で書くのよ」
「うん」
「フレイ」
「はい」
「無事に帰ってこい」
「はい!」
こうして、おれとファーリスを乗せた馬車はリベルタ中立国へ向かって駆けた。
ソミシアという大都会を抜け、外に広がるは森林・草原など、見る者を釘付けにする様々な大自然だ。窓を開ければ気持ちの良い風が、まるで新たな場所へ向かうおれを歓迎しているように吹く。本当に、行くんだな。
始まりはテオスからの急な提言。先程までは戸惑いこそ多かったが、今となっては興奮が抑えられない。ここ数年、体の成長による体力の向上や、魔法を磨くことなどはあったものの、新たな魔法・新たな知識を身に付ける事は出来ていなかった。
考えてみれば、おれは元々魔法を研究するのが大好きだった。幼かった頃、転生してきたばかりの頃、魔法に関するありとあらゆるものが夢のようで、毎日の楽しみだった。そんな童心が心の奥底から
リベルタ叡学園、一体何が待っているのだろうか。楽しみだ。
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