第三十六話 安らぎ
! これは――!!
「
「わかってらあ!」
中位神権術 <大地魔法>“
「“
おれと
ファントムの魔法は見えなかった。だが、
「へえ、やるじゃん」
! ぐッ! なんだこれは! 目に見えない魔法の……波動? おれと
今は防ぐしかない……だが! これ以上はッ――!
「
ドガァァァァ!
ファントムの魔法が通った所がはっきりと分かるように地面が
危なかった。
「おい! どうした!」
サポート部隊の一人が倒れている。躱しきれなかったか?
「あら、一人受けちゃったかあ。僕の“
安らぎ?
「その人、もう目を覚まさないんじゃないかあ」
「なんだと!」
「うーん……ま、どうせみんな死ぬし教えちゃおっか。僕たちレイヴンは
そう言うと、ファントムは右手に黒の炎を
炎を体外を出せるのならば必然的に炎の扱いに
「この黒の炎からは一人につき一つ、
炎の三原色の理から外れた黒の炎。例外というのは気になるが、ローゼもこの黒の炎から魔法を生み出していたのか。あの薔薇の不吉な黒色、どうりで。
「そして僕の魔法は<安寧魔法>。少しでも浴びたら最後、目を開けることはない。そうなれば僕に殺されるのを待つのみさ」
<安寧魔法>だと? 既存の魔法からは想像もし得ない名だ。まさに
「黒は全てを染める。赤も、緑も、青も、関係なく。でもね、一つだけ邪魔な存在がいるんだ。君のそれだよ、“神権術”とかいうやつ。それがどうにも
――来る!
≪黒く塗り潰すんだ≫
「どうすんだ! これじゃいつまで経っても近づけねえぞ!」
おれと
「ぐああああ!!」
「うわああああ!」
くそっ、一人、また一人と倒れていく。不幸中の幸いというべきか、おれを含む主力四人が奴の魔法を浴びていないため戦線はなんとか維持できる。でもこれではジリ貧だ、いずれおれたちもやられるのは目に見えている。
「なぜこんなことをする! キサマの目的はなんだ!」
怒りが頂点をとっくに超えているバーラがファントムに向かって叫ぶ。
「バーラさん、だっけ。あんたが一番良い例じゃない? 人はみんな生きているだけで疲れちゃうんだよ。“安らぎ”が必要なんだ。それこそ永遠に眠っちゃうぐらいのね。僕はそんな人たちを救いたくて各地を回ってる」
言っている事がめちゃくちゃだ。
「ここに来る人なんてまさにそうだよね。日々の疲れを癒そうと綺麗な景色を見に来る。そんな人たちを救ってあげているんだよ。むしろ褒めて欲しいよ。ね、偉いでしょ?」
「ねえ、そろそろ飽きちゃった。神権術だっけ? “あのお方”がどうしてそんなに警戒してるのか知らないけどさあ、結局僕の前にはそうやってひれ伏してんじゃん」
ファントムの手と共に球状のものが段々と降りてくる。
≪安らかに眠りなよ≫
「「
「バーラ様!」
「セネカ!」
「な!」
「お前たち!」
ファントムの放った球状のものが着地した瞬間、今までおれたちが居た場所が
おれがセネカを抱え込み、サポート部隊の者たちは力の限り
「あちゃあ。これは死体も見えないかなあ」
上空から右手で日を遮るように頭に当て、穴を覗き込むファントム。
「ハァ、ハァ」
「……」
バーラは息を乱しながら、焦点も合わずその大きな穴をただひたすらに見ている。対して
……限界だ。これ以上人を失うのを、おれは見ていられない。
「フレ、イ……?」
すっと立ち上がるおれに、不安の声を漏らすセネカ。
ごめん、これが最後かもしれない。
おれたちの目的はあくまでテオスとリリア。
でも……ここでセネカを失っては意味がないんだ。
「《黒真珠》ファントム」
「なんだい?」
「
「え? はは、……あっはははは! 急に立ち上がって何を言うかと思えば、君はバカなの?」
「本気だ」
ファントムの話では神権術が邪魔な存在と言っていた。だが、神権術はその性質上多数の魔法を扱えるとはいえ、全て元より存在する魔法には変わりない。ゆえに現時点では、どれもこの黒の炎による圧倒的な力には及ぶとは思えない。
だが、神権術が唯一他の魔法と違う点とすれば、
あれは確かにオリジナルだが、元はテオスの話から完成させた魔法だ。同じく神権術の使い手であるテオスから。
確信はない、でもおれの予想通りであれば。
『あらゆる魔法を駆使して型に
これこそ、神権術の本来の仕様なのではないか?
剣を抜き、おれは静かに魔法を唱える。
低位神権術 <強化魔法>“筋力増強”、“身体強化”、
中位神権術 <強化魔法>“硬質化”、“
<付与魔法>“属性武装”、
“
中位神権術 <回復魔法>“精霊の加護”、“
現状持ち得る全ての強化魔法で自らを「
中位神権術 <神権魔法>“
「あのガキ、何してやがるんだ……?」
「フレイ、その目は……。やめろ、やめるんだ……我を失うな。お前が変わってしまう」
全てを調和するその魔法を、
当然、その魔法はおれの全てを調和しようと体を貪り続ける。
それを、先程の強化魔法・回復魔法を放出し続けることでギリギリで
これでおれの周りを、調和の魔法が
「へえ、こりゃすごいや。炎がなんなのかは知らないけど……それ、君の体の方がもつのかな?」
ファントムの言う通りだ。
おれは現在進行形で十三もの魔法を全力で出し続けている。加えて、一瞬でも気を抜けば調和の魔法がおれを覆い尽くし、魔法が使えなくなるだろう。今のおれの調和の炎の威力、下手したら一生魔法が使えなくなる、なんてこともあるかもしれないな。
そしてその時点で戦線は崩壊、あえなく全員死亡だ。だが、数ある魔法の中でも唯一勝てる手段がこれしか思いつかなかった。
おれも成長しているとはいえ、かつてのあの試練より厳しい状況だろう。さらに、あの時の“生命力の源”のようなアイテムも無い。
自分でも分かる、今のおれは冷静さのカケラもない。視界には奴しか入っていない。
勝利か死か、この短期決戦で全てを決める。
「いくぞ、ファントム!!」
「きなよ、フレイ君」
「フレイッ!! フレイツェルトーーー!!」
遠くで叫ぶセネカの声は聞こえども、すでに頭には入ってきていない。
セネカを失うぐらいならば……このファントムを
―――――――――――――――――――――――
~後書き~
ファントムの炎を出したシーンについて少し補足を。
第四話にも似た説明がありますが、「炎を体外に出せる=炎の扱いに長けている」ということになります。
「神権術は炎を出せることが前提なので敷居が高い」というだけで、炎を出せるものが全員神権術を学ぼうとするわけではありません。
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