第二十一話 戦いの末に

「けっ、のろけやがって」


「のろけてない!」

「のろけてなど!」


 あ。

 νニューの一言に同じ反応をしてしまうおれとセネカ。お互い見つめ合ってまた笑う。本当に取り戻したんだな。

 それにしても、


「お前の目的は何だったんだ?」


 νニューに投げかける。

 

「さあ、な」


 そう言うとνニューは倒れているバーラの元に寄った。


「許さん、許さんぞ……! νニュー、貴様……!」


「なあ、もういいんじゃねえか」


「何がだ!」


 バーラは倒れ伏しながらもまだ立ち上がろうとする。


「……ありがとうな」


 え? νニューが何かをぼそっと言った気がしたけどよく聞こえなかった。


「なんだって?」


「おちょくってんのかてめえ! 二度と言わねーぞガキこら」


 相変わらず怖いよ。でも悪いことを言われたわけではなかった気がする。




 それからこの黒ローブ集団の総意であるバーラの目的をνニューから聞いた。

 こいつらの目的は【レイヴン】。そう呼ばれる、特定の人物を消すことを目的とした組織を潰すこと。だがいつどこでどんな人物を殺すのか、組織の実態、など多くの事ははっきりと分かってないという。


 黒ローブ集団は元は普通の人間の集まりであり、共通するのは。しかもその多くが彼らの子どもである。黒ローブ集団のボス、バーラもその一人であり、そういった人間を集めた結果、今のこの黒ローブ集団が出来上がった。そしてこのνニューは幼い頃に両親をレイヴンによって殺されている。その後、行く当てを失ったνニューを拾ったのがバーラだったのだ。


 黒ローブ集団が子どもをさらっていたのは、レイヴンに殺されるかもしれない子どもを、今までの傾向や特徴をかんがみてあらかじめ保護していたためだった。だが、レイヴンに対する憎悪は年を重ね人員が増えるごとに膨れ、段々と子どもを保護することから、奴らの邪魔をしたいがために乱暴な手段に走るようになってしまった。それこそ大義名分たいぎめいぶんを掲げて。


 今回おれことフレイツェルトを狙ったのは、レイヴンを追う上で”神権術”という単語に辿り着き、それを扱うと風の便たよりで聞いたことから始まるという。おれを先回りして捕まえることでレイヴンが姿を現すのでは、と考えたそうだ。


 そしてここからはおれの予想でしかないが、νニューの目的。それは、暴走してしまったこの集団を止めることだったのではないかと思う。話を聞いている限り、口は悪いが所々バーラに対する想いを感じる。幼くして両親を失ったνニューにとって、バーラは母親同然だったのだろう。暴走して変わり果てたバーラを止めたくて、最後こちら側として戦ってくれたのだとしたら納得もいく。魔法を使えなくさせてしまった事を、今になって悪いことをしたなと思うのはおれが甘すぎるだろうか。


「ガキのくせにくだらねえこといってんじゃねえぞ」


 その事を謝ったらそう言われた。もう二度と言わねーぞじじこら。




 ひと段落つき、


「ガキどもはあと数人いる。向こうの部屋だ」


 νニューが後ろにさらに続く通路を指す。仮面の二人組はすぐに動いた。


「フレイツェルト君」


「なんですか」


「我らのことが憎くないのか。君の親族を捕らえ拘束し、君自身にもひどく損害を与えたはずだ。君には私を罰する権利がある。セネカさん、あなたにもだ」


 ようやく落ち着きを取り戻したバーラがそう口にする。


「……分からないです。とにかくセネカを取り戻すのに必死だったから」


「フレイが良いのであればワタシからも何もない」


 あんな話を聞いた後でこれ以上この人たちを痛めつけようとか、そんな感情は沸いてこなかった。


「ばかな! 最悪の場合死んでいたんだぞ!」


「でも死ななかったから。誰も死ななかったから、きっとこれでいいんです」


 激しい戦闘で向こうにもケガ人はいるものの、死者は出なかったそうだ。


「君たちは、どこまで……」

 

 そんなことを話している内に仮面の二人組が子ども達を連れて出てくる。何か急いでいる様子だ。


「話は済んだか! そろそろ脱出しなければここは崩れる可能性がある!」


 そうだ、さっきまでの激しい戦闘であちこち壊れている。


「さっさと逃げよう! みんなも! 早く!」


「……お前たちは行け」


 バーラはその場を動こうとしない。


「私はもう疲れてしまった。君に、いや君たちに会えて良かったよ」


 そんな、と思った矢先、


 ぼこっ!


 んな!


νニュー……?」


 バーラはνニューに殴られた頬を抑えながら、驚いた顔でνニューを覗く。


「てめえが逃げなくてどうする! 俺たちは! てめえを失って、残った俺たちはどうしろっつんだ! 最後まで責任持ちやがれ! ……うぐっ」


 νニューがバーラを抱え持つ。νニューもボロボロだろうに、おそらく人一人抱えられる体力は残っていないはず。バーラを抱えた彼は足元がふらついている。


「僕がこの方を持つよ。君は—―」


「るせえ! さっさと歩きやがれ!」


 νニューは仮面の男性の提案を拒否する。子ども達もいるんだ、こうなればさっさと脱出するしかない。




◇◇◇




 研究施設がガラガラと音を立てている。本体は地下にあるため外から視認することは難しいが、崩れている様子はその地響きと音で感じ取れる。


 脱出後、黒ローブ集団はすぐに姿を消す。人数もいたからか、その様子を全く見れなかったわけではないが、あえて見て見ぬ振りをした。確信は無いが、もう乱暴なことはしないように思える。これもおれが甘すぎるのかな。


 なにはともあれ、おれはセネカを取り戻し、仮面の二人組は子ども達を救出した。一件落着だ。



 そうだな、あとは——。

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