第十四話 安全地帯
……どのぐらい走っただろう。途中何度か、おそらく後ろの警戒と休憩を兼ねて止まったりはしているが、仮面の二人組は基本走りっぱなしだ。それもかなりのスピードで。ちなみに二回目の休憩で黒ローブ集団による縛りの魔法は解いてもらい、簡単な回復魔法も施してもらった。今はこの二人組によって目に巻かれた布のようなもので動けないだけだ。
ここがどこで、今からどこへ連れていかれるのかは分からないが、心の中で不安は一切なくなりすでに安心しきっている。抱えられている間すごく心地が良いんだ。
「行きましょう」
ここでしばらく振りに仮面の女性の声を聞いた。仮面の二人組は警戒を込めてなのか、おそらくアイコンタクトと仕草のみでコミュニケーションをとっていて、ここまでほとんど口頭での会話をしていなかった。
さて、いよいよこの二人組の住処かか何かに着いたのだろう。仮面の男性の方は何かを準備している音がする。
「ちょっと待っててね」
そう言われそっと布のようなものを外される。準備は終わったのだろうか? とにかくこれで晴れて自由の身だ。今更この二人組から逃げようとは思わないけどね。
「しっかりついてくるのよ」
手を握られ仮面の女性のぴったり後ろをついていく。そうは言ってもまだ周り一面森じゃ……、
すっ。
え? あれ!?
ある木と木の間を通り抜けた瞬間景色が変わった。ここは……簡易的な住居か?
さっきまで森に居たはずが……突然目の前が木とワラで造られた家になる。
「疲れたでしょう、ここが今の私達の家よ。森の中に特殊な方法でしか侵入できない“安全地帯”を作っているの。小さくてごめんなさいね」
「びっくりさせてすまなかった。君はあの連中に誘拐されていたんだろう?」
「は、はい……。あ、あの、あなたたちは……?」
仮面の二人組と初めて会話をする。どこか懐かしい雰囲気をもつ男性と女性だ。それにしても仮面はまだ外さないんだな。
「僕たちはただのしがない旅人だよ。安心していい、子どもの味方だよ。ここ“禁忌の森”を出歩いていたら厄介な連中の馬車の音がしたんでね。あいつらはここらでは有名な、森を
やはり悪い連中だったか。それとさらっと気になるワードがもう一つ飛び出した。さっきの場所改めここも“禁忌の森”なのか。
は! そんなことより!
「あの場所には僕ともう一人仲間がいたんです! 見ていませんか!」
「……」
二人組が目を合わせる。お互いに首を横に振る。
「ごめんなさい、気付けなかったわ。あのときの抵抗はそれを指していたのね。いつも子どもを助けるときは暴れられるからこの布を被せて少し我慢してもらっているの。私がもう少し周りを見ていれば……」
「いえ……」
命を助けてもらっておいて「なんでセネカも助けてくれなかったんだ!」と怒鳴ることは出来ない。そうか、それなら
「命を助けていただきありがとうございました。ではおれはこれで」
おれが助けに行くしかない。セネカなら大丈夫だ、もう一度あの場所にさえ戻れればきっと助けられる。
「それは許可できない」
仮面の男性に阻まれる。
「どいてください、おれは家族を助けに行かなくちゃ」
「無駄死にしにいく子どもを放ってはおけない。それに君ではあの森は正確に戻ることさえ出来ない。あの森は……」
「どいてって言っているんです!」
ぼおっ!!
感情に呼応するように体から炎が
「!」
「!」
くそっ、くそっ、なんでおれはいつもこうなんだ。命の恩人に向かって何をやっているんだ。けど! けど今は!
「外に出なさい」
「何をするんです?」
「鍛えなおしてやる」
「そんな時間は!」
「出なさい」
―――
「外に出なさい」
! これは……そうか。あっちの世界でおれがまだ小さかった時、いじめられてる子を見て見ぬ振りをしてしまった時の記憶だ。その後父さんにその事を知られて「喧嘩の仕方を教えてやる」とか言われたんだ。後日、結局いじめっ子にはボコボコにされちゃったけど、いじめられていた子を守ったことで父さんには褒められて、その子とも友達になれたんだっけ。
―――
なんで今更こんな記憶を。
……あんな事があっても親は親なんだ。そう簡単に忘れるものでもないのかもしれない。まあ今そんなことはいい、ここは昔の父さんに免じて受けてやるとするか。
「手加減しないよ? 絶対に通してもらうから。おれは家族を助けに行く!」
「喧嘩の仕方を教えてやる」
! ったく、ほんっとうにどこまでも!
―――――――――――――――――――――――
~後書き~
“禁忌の森”については『第三話 この世界で』で少し触れています。気になる方はぜひ読み返していただけると嬉しいです。
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