第十三話 仮面の二人組

「――と!」


 ……ん、なんだ?


「はいご飯よ。学校、疲れたでしょう?」


 誰だ、リリア? いやそれにしては雰囲気が……


「この前のテスト百点だったんだってな。偉いぞー」


 テオス? でも今の学校にそんなテストなんて……


「――と」

「――と」


 え……? その名前、もしかして――





 ……はっ!?


 ガタ、ガタ、ガタ。パカラッ、パカラッ。


 馬車の音? どこだここは。


「そのままおとなしくしていろ」


 目の前に槍を突き出される。こいつは、先ほどの黒ローブ集団の最初に話しかけてきた奴だ。


「んん! ……ん?」


 喋ろうと思ったが口を何かで塞がれている。さらに手足は体育座りのような姿勢の上から魔法で縛られているようだ。目以外は自由なところが無い。体も先程の戦闘でボロボロだ。チラっと横目で見ると同じ縛り方をされたセネカが確認できた。そして、おれたちはどうやら馬車の後方の荷物置きのようなところに入れられているらしい。


「てめえもだよ女」


「……」


 すまない、とでも言いたそうな顔をセネカが向けてくる。そんな、巻き込んでしまったのはおれの方なのに。


 おれは……無力だ。

 先生を深く傷つけられ、ラフィや他の生徒たちを巻き込んで怖いをさせてしまった上に、セネカまで。

 カッとならずに冷静になるべきだった。

 先生が捕らえられている時点で相手が強いとしっかり認識すべきだった。

 最初からおれが名乗り出ているべきだった……くそっ。

 ごめんみんな、ごめん先生、ごめん……セネカ。

 


 ――ドカン!!


「なんだ!?」


 見張りの男が叫ぶ。今の爆発音は馬車の前方からか?


「……敵襲だ。全員降りろ」


 前方の席からあのローブを着ていない男の声がする。それに、敵襲?


「お前はそいつらを見張っておけ」


「はっ!」


 ローブ無し男がおれとセネカの前にいる見張りの男に指図した。やはりこいつがリーダー格だったようだ。

 それにしてもここは一体どこで何が起こっているんだ、全く分からない。


 でも……うん、そうだな。横のセネカとばっちり目が合う。どこの誰かは分からないが、この黒ローブ集団と敵対してくれるのならありがたい。隙を突いて逃げることも可能かもしれない。


 ――ドゴン!


「!?」

「!」

「おわあああああ!!」


 その二発目の爆発音と共におれたちのいる荷物置きが横転した。


 いってえええ。思いっきり頭を打った。はっ、セネカは!

 わお、どうやったのかは分からないが体全体で受け身を取っている。そしてセネカが顎をくいっと外に向ける。見張り番が今ので気絶しているからだ。今の衝撃で運よく扉もひらけている。

 チャンスだ!

 セネカは縛られたままうさぎ跳びのようにつま先のみでぴょんぴょん跳ねていき、いち早く脱出した。おれはそれ出来ないよ! ……ださすぎるが横向きにごろごろ転がって脱出した。



 外では激しい戦闘をしていた。黒ローブ集団と敵対しているのは……仮面をした二人組?

 唯一ローブをしていないあの強い男とは仮面をした謎の男性が、他全員とは仮面をした謎の女性が対峙している。

 ローブを着ている者たちも先程とは動きが違う。おそらく「おれ(フレイツェルト)を傷つけるな」などと指示でもされていたのだろう。見れば分かる、これは遊びじゃない。完全なだ。


「!」


 仮面の女性と一瞬目が合う。しまった気付かれたか!?


 ぼふん!


 仮面の女性が下に何かを投げつけ、瞬時に彼女の周りに煙のようなものが立ち込める。

 

「なんだ前が見えないぞ!」

「おい光魔法かなんか使え!」

「今すぐに!」


 黒ローブ集団が混乱している隙に仮面の女性が駆け寄ってきたかと思えば、そのままおれを抱え込んでその場を走り去る。攻撃を加える気配はない、味方なのか? いやそれより!

 首をぶんぶんと大きく横に振り、目で必死に訴えかける。


(あっちにまだ! セネカが!)


「?」


 しゅた!

 仮面の女性が霧の中を走っていると仮面の男性も合流してきた。勝ったのか!? あの男に!? と思ったが、


「逃げんじぇねえ!」


 と遠くで聞こえるのでおそらく巻いてきたのだろう。ボロボロになっているが、あの男を巻けるだけでもこの仮面の男性も相当強いことがうかがえる。


「ごめんね」


 そうささやくように告げられ、目を布のようなもので覆われる。

 これは……体が……動かない。そうゆう道具か……?

 

 おれを抱えてかなりのスピードで森を抜けていく二人組。くそっ、セネカの事は伝わらなかったか! 頼む、どうか、どうか無事でいてくれ!

 何か出来るわけではないがなんとかして暴れようかとも考えた。しかし体が動かない上に、ここでもし奴らにもう一度見つかりでもしたら次こそないだろう。今はセネカの無事を願うことしか出来ない。彼女は強い、きっと大丈夫だ。そう信じよう。


 そしてこの二人組もまだ安心できると決まったわけではない。

 常に警戒はしている。しているのだが、不思議と彼らから危険や嫌悪感は微塵みじんも感じない。というよりむしろ……。それに昔どこかでこんな光景があったような。



 混乱する中でおれを抱えた仮面の二人組は森を駆け抜けていった。

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