第十二話 黒ローブの集団
「神権術を扱うフレイツェルト・ユングってのはどいつだ? そいつを渡せば全員解放してやる」
おれ!?
なんでおれなんだ、おれが何をしたっていうんだ、いやそれよりも……
「フレイツェルトさん! 言うことを聞く必要はない! 静かにしていなさい!」
ヒューゴ先生がわざと学校内に響き渡るような大きな声で叫ぶ。やはりだ、先生も気付いている。目的がおれなのはわかったが、こいつらはおれのことを詳細には知らず、どの生徒かを識別出来ていない。男がどいつだって言っているのが何よりの証拠だ。
「ちっ、こざかしい真似しやがって」
「……」
ローブの男と先生が睨み合う。しかし圧倒的にこちらが不利だ。たとえおれの事がバレていないとはいえ人質を取っているのは向こう側だ。
何か、何か無いか……! あれは!
セネカの剣先だ。開いた学校の扉付近でこちらに伝わるように少しだけ見せている。それもちょうど集団の背後。これで同時に仕掛ければ挟めるかもしれない。
「わかりました。では僕が代わりに人質になるのはどうですか? 強い方を人質にした方がそちらとしても……」
「動くんじゃねえ!」
両手を上げながらヒューゴ先生が歩いて行き、おれたちの少し前方まで来たところで男に止められた。
! 先生の後ろ帯に隠しナイフ。先生もおそらくセネカの剣先に気付いている。チラッとラフィの方に目をやると彼女も向こう側には気付かれない程度に頷く。
意見はまとまった。こちら側と集団の背後のセネカで一気に奇襲をかける。タイミングはほんの一瞬だ。同時に襲い掛からないとおそらく何もさせてもらえない。
……出来るか? いや、出来る。というよりやらなければならない。人質にされている他の生徒を巻き込んでしまったのはおれのようだしな。
セネカがすっと姿を現す……今だ!
低位神権術 <強化魔法>“身体強化”+<風魔法>“追い風”
おれの最高速で集団に突っ込む。
「そのまま突き進みなさい!」
ヒューゴ先生だ。その言葉を聞いて集団の先頭の二人を
「なっ!?」
「なんだ!」
おれがその先頭の奴らを躱すのと同時にそいつらは緑色の輪に縛られた。
先生の<束縛魔法>だ。
ほぼ一瞬で集団の真ん中に到達した。考える暇は無い。
自然と体が大魔法の中で最も使い慣れたものをぶっ放す。
中位神権術 <凍結魔法> “
「しまっ」
「ぐっ!」
二人捕まえることに成功。集団の背後から飛び出したセネカは同時に一人斬り倒している。よしこれで、
「そこまでにしとくんだな」
! しまったもう一人いたか!
そこにはローブを被っていない男が立っていた。
「あんたのその魔法すげえなあ。
先生とラフィが緑色の輪に縛り上げられていた。
これは……先生の<束縛魔法>!?
「今の動き、間違いねえ。お前がフレイツェルトだな」
「まさかもう一人いたとはね」
セネカが歯を
「ガキ、さっさとこっちにくるんだな。こいつらがどうなっても良いなら・・・な」
ボキっ!
「せんせえっっ!!」
その男はヒューゴ先生の腕を簡単にへし折った。叫んだのはラフィだ。
まずい、こいつさっきまでの奴らとは明らかに違う。人を痛めることに全く躊躇がない。
「大、丈夫、です……、フレイツェルトさん。こっちにきては、いけない……」
「先生はだまってろな」
ボキキっ!
「ぐあああ!!」
男が先生のもう片方の腕もへし折る。
「先生!」
その瞬間何かがおれの中でプツンと切れた。
こいつ! 許せない。許せない、許せない!
ぼお……
自然に体全体から炎が滲み出る。
ラフィと先生はおれが助ける。
「お、いいねえ。こっちとしても喧嘩が領分なんで……ね!」
「バッ、冷静になれ! フレイ!」
セネカの声が聞こえた気がしたがもうおれには届かない。
その男は先生とラフィを横に放り投げて突進してくる。
おれも“身体強化”+“追い風”で剣を拾うのと同時に距離を一気に詰める。だが、
ッ! こいつ、早い!
ちょうど中央でぶつかり合い、おれの剣と男の拳が交差する。待てよ、この展開どこかで……
「“放電”」
男がニヤリと笑みを浮かべ、そう
「うぐ……ぐっ!」
咄嗟に<電撃魔法>“充電”で相手の”放電”を体内に押し
「ぐわあああ!!」
全く抑えることが出来ず体中に電気が走る。その隙を男は見逃さない。
「がはっ……!」
脇腹に一発、続けて右足で蹴り飛ばされ、その勢いのまま壁に激突する。
「貴様ぁぁぁ!」
セネカが男に襲い掛かる。男は手刀で容易にセネカの剣を
「悪いな嬢ちゃん。その綺麗な顔を傷つけたくはないんだ。どいてくれるか?」
「誰がっ!!」
二人が戦闘している音が学校内に鳴り響く。セネカが必死に斬りかかっているのに対して男は依然涼しい顔のままだ。
このままセネカが勝てるとは思えない。
もうほとんど動かないボロボロの体を必死に起こす。セネカが稼いでくれている時間を有効に使わなければ。
おれは炎を溜める。
男の打撃にセネカがよろめき、男が決めにかかる。
動いてくれ、おれの体……! 最後の力を振り絞って跳ぶ。しかし、
「バレバレだぜ? ぼっちゃんよお」
男は一瞬でこちらに体勢を向けそう言った。だがもう関係ない。これで終わりだ!
着弾! 勝っ……
「“
しゅん。
なんだ、何が起こった?
指先一つで吸収されたのか?
おれの最大火力を?
そんな低位魔法で?
「お疲れさん」
「フレイツェルトーーー!!」
その幼き少女の声が聞こえた次の瞬間、おれの意識は途切れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます