初名を追いかけて

 思いのほか、初名は直ぐに見つかった。

 なのだが、

「どこに行こうとしてんだ?」

 果樹棟へ向かう途中、初名を目撃したのは学校内から出て行くところであった。

「あの先は、『樹界公園』ですわ」

『ラタトスク』の報告にあったコクーン発生場所だ。

 初名はその『樹界公園』へと行く。

(......まずい)

 香輔はそう思った。

 呼び止めようにもここからじゃ届かないだろう。

「香輔......」

 杏が香輔の袖を掴む。

 彼女は不安げな表情だ。

「僕が行く。みんなは講堂に戻って下さい」

「おいおい。突然なんだよ」

「念のため『ラタトスク』にも言っておいて下さい」

 それだけを言って、初名を追いかけようとした時、肩を掴まれた。

「待て。何をそんな急いでいるんだ?俺たちも一緒に行くぞ」

「ダメです。戻って下さい」

「だから、どうしてお前なんだ?今なら誰にも見つからないうちに早く行った方がーー」

「何をしているんですか?」

 唐突に女性の呼び止めがかけられた。

「「「「げっ」」」」

「......何ですか、その『一番会いたくない人』て言う声と顔は」

 垣原南女史が腕を組みながら立っていた。

「や、やぁ。南ちゃん!き、奇遇だね!」

「まず私は三木君の明らかな動揺に問いただしたいのですが」

 ジト目にされて、更に動揺する三木。

「それで、何しているんです?生徒の皆さんは待機のはずですが」

 見つかってしまっては素直に答えるしかないと香輔は思った。

『ラタトスク』の人員を呼んでくれるかもしれないが、事を急がねばならない。

直ぐにでも初名を追いかけたい。

「あの、僕達は梅咲さんを探していたのですが、『樹界公園』の方へ向かって......」

「梅咲さんが、『樹界公園』に?」

 少し険しい顔をしながら考えるそぶりをする南。

 意外な反応だった。彼女なら「ど、どうしましょ!」と慌てふためく様子を想像していたが、そこはやはり教師なのか落ち着いていた。

 一拍、間を置いてから、

「分かりました。私が連れ戻しましょう。貴方達は講堂に戻って下さい」

「 ......南ちゃんが?」

「やめて下さいその顔。私は教師なんですからもうちょっと頼りにしてもいいじゃないですか」

「南ちゃんだと、迷子になる未来しか視えない」

 流石にその言葉にムッときたのか、南は顔を真っ赤になって。

「し、失礼な! じゃあいいでしょう。私が頼れるところを見せてあげます!」

「ちょ、お待ちください!」

 杏の声も届くこともなく、暴走してしまった。

 このままでは垣原南(女児化)が第二の遭難者になってしまうと四人は悟った。

 ここで動きがあった。

 香輔は懐からあるものを取り出す。

「香輔、それは……」

 杏が驚くそれはフィーリネだった。

 香輔は翡翠色のオーラを纏いながらフィーリネの豊穣術を使う。

 すると、ついさっきまで騒いでいた南が虚構を向いて大人しくなってしまった。

「おい、何をしたんだよ。怖いほど大人しくなったぞ」

「興奮状態を抑えました。あくまで、感情をなくしただけですから」

 さらっと、とんでもないことを言う。

 垣原南は空虚を見つめ、棒立ちとなっていた。本当にピクリとも動かない。魂のない人形のように。

「あなた......また使いましたわね」

「咄嗟の思いつきなんだ。これぐらいなら、なんともない」

「何だよ。つまり、南ちゃんは大丈夫なのか?」

「一時的に放心状態にしただけです。でも、すぐに目を覚ましますから、その間に梅咲さんを追いかけましょう」

「え? 垣原先生をこのままにするの?」

 正誓の言う通り、この状態にしておくとおっかない。また香輔を連れ戻しに来る可能性がある。

「だったら、俺が残って南ちゃんを説得しておく」

「……本当ですの? あなた、このチャンスに何かいやらしいことを……」

「俺をなんだと思ってるんだ!? そんなことするわけがないだろ!!」

「その必死さが逆にあやしい……」

「ま、まぁ。ここは三上くんに任せてもいいんじゃないかな?」

 正誓に促されて、渋々了承する杏。

 香輔たちは、初名の跡を追うこととなった。

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