霧ノ國 時の往来〈短編〉
ミコト楚良
壱 霧の中
春になると
地上に筍が頭を出さぬうちに、土をそっとわけて傷つけぬように掘るのだ。
なかなか筋が良いらしく、この季節は頼りにされている。
その日も朝から、筍を掘りに山へ入った。
すると、急に辺りが霧に包まれた。
こんな濃い霧に遭遇するのは、はじめてだ。
楓花は大きな木の根元にかがみ込んで、霧の晴れるのを待つことにした。
「……さまぁ。……えもんさまぁ」
誰かが誰かを呼ぶ声がした。
だんだんと近づいてくる。
そして、霧の中から楓花の前に現れたのは、博物館にあるような
向こうもこっちを見て、びっくりしている。
「娘、
刀に手をかけてる、おい。
たしかに春休みのたわむれに
「仲間とはぐれた。お
こんな小僧が、まだ何人かいるのか。
おじいちゃんが言ってた。
最近、勝手に山に入ってくる若者が多くて困ってるって。
サバイバルゲームっていうの?
この子は、〈新しい分野〉の人かな。
「見かけぬ」
のっかってみた。
「……その、頼みがある」
「なんでござる?」
悪ノリ。こういうのキライじゃない。
「水を……、できれば
「じん? 食?」
食料?
(もう~。山には、ちゃんと食料確保して入ってよ。天気だって変わりやすいんだから)
楓花は保温水筒からキャップになっているコップを外して、それに温かいウーロン茶を注いだ。
あとリュックから、クラッカーを出した。
「薬草茶か?」
「ござるよ」
丸いクラッカーも、
どんだけ、お腹空かせてんだ。
「
(いや、君のほうが)
ふたりは、大きな木の根元に腰かけていた。
霧は、まったく晴れてこない。
おじいちゃんは、そぐそこにいると思うんだけど。
この霧に足止めされているのか。
「あぁ、早く、
連携プレー、地味に大変そう。
「娘、
地べたに座り直して、礼をする。
世界観、徹底してる。
「行かねば」
この霧の中を?
「危険じゃ」
楓花は口調を真似てみた。
「したが、追手が。みつかれば、八つ裂きじゃ」
敵チーム、容赦ない。
「どうしてもと言うなら、木につけた目印を
楓花たちは、やみくもに山に入らない。
木の枝に古いセーターをほどいた毛糸を結んでは、帰る手がかりを残していた。
「
「ごう?」
「共に、こたびの密命を受けた……」
「ここに参じましてございます、
そのとき。霧の中から現れたのは、おじいちゃんだった。
地べたに片膝立ちになり、
いつの間に、サバゲ―参加した?
「
甲冑少年は震える声で、おじいちゃんに駆け寄った。
「――われの知る
「面目ない。老体を
何、この世界。
何、見せられてんの。
やっと、おじいちゃんが私に目を向けた。
「
いや、知らんがな。
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