血の子どもたち

倉木水想

プロローグ① 通りすがりの少年


渋谷のスクランブル交差点で、少年は笑った。


名門高校の学ランを襟まで閉めた真面目そうな子どもだった。

少年はスマホを確認し、先方からやってくる同い年ぐらいの少女を見る。

少女は歩きながら電話していてこっちに気づいていない。交差点を渡りきったところで、手元のナイフを素早く動かした。狙った腹部分は、制服のせいであまり刺さらなかったが十分だった。


信号が青になる。

少年はナイフを胸元にしまい、渡り始めたところで背後から悲鳴があがった。振り返りたい衝動を抑えるように、片手で顔を覆っていると、斜め前を歩いていた通行人と目が合った。仕事の途中だろうか、通行人の薄手のスーツで片手にジュースを持っていた。


女性は少年の胸元を見ている。血のついたナイフを見られたようだ。

少年が舌を出して威嚇すると、女性は青ざめた。そのまま、ジュースを落として足早に去る。

少年は立ち止まった。ちょうど交差点の中心部だった。足元のジュースを容器ごと潰す。

ストロベリーなのか、ジュースはコンクリートが透けないほど濃い赤色をしていた。


笑いが歯の隙間から漏れる。

「は、ははははははは、始まったっ」


空を見上げ。叫ぶ。

誰もが見て見ぬ振りをした。

少年は興奮で震える手を抑え、いつまでも笑っていた。


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