(二)-17

 ダイニングで席について頭を抱えていると、玄関ドアが開く音がした。続けて「ただいま」という夫の声が聞こえた。

 私はあせった。どうしよう。夫と顔を合わせて、何を話すのか。竹浦さんの奥さんとのことを尋ねるのか。それとも間接的に何かを聞く? 例えば隣の三川さんの奥さんのことを持ち出して。いや、それだと秘密にするという約束を破ってしまう。ではなんて聞く?

 いや、仕事場で何をしていたかなんて聞くわけにはいかない。黙っていよう。何も見ていない、何も聞いていない、何も知らない。隣の部屋で起きたことはなにも知らない。そう、何も知らないフリをすればいいのだ。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る