永遠少女、災厄を再体験する
第11話 永遠少女、魔族と対峙する
私とアウリカ、アルギアの3人で買い物に行った後、私だけで外に出歩いていた。いつもならアルギアに問い詰められるのだが、今日に限っては寝たふりをしていた。
……あの視線に気づいていたのだろうか。
あの視線、それはストーキングされている気配があった。私がわざと人目につかない場所に寄ってみると案の定距離を縮めてくる様子が見れた。
そして今も敷地外ぎりぎりで監視をしているようだ。
結構距離自体は離れているからか、監視からは私が動いたことは全くもって気づかなかったようだった。好都合だ。
「誰ですか?あんた」
背後に無音で忍び寄り、そう声をかけた。すると当の本人は肩を跳ね上げさせて逃げようとする。無論その人を何もなしに無罪放免なんてしてやるものか。少なくとも話は聞かせてもらわなくては。そう思って、即座に拘束した。
「は、離せ!」
「とりあえずはあなた誰?別に名前は言わなくてもいいけど、私達を尾けてた理由くらいは聞かせてくれない?」
「……私は“とある方”からあなたたちを監視して欲しいと言われて尾けてました。ただ誤解して欲しいのは今貴方達と言いましたが、監視対象はオリヴィアだけで……」
なるほど。誰かはわからないけれど、結局私の実情的なものを知りにきたって言うのか。やっぱりこの世界の貴族は碌でもない事ばかりしてくる。
「勿論、その“とある方”の正体を話す気はないよね?」
「えぇ。それが条件で引き受けたのですから」
「……それで、何かようなの」
「何がです?別に貴方のような暗殺者グループに渡す情報は——」
私はそこで幻影のナイフを顕現させ、首元に這わせた。形こそないけれど物体にそれが通れば一刀両断するような代物だ。
危険を第六感で察知したのか、頬を引き攣らせた。
「私が、そのオリヴィアだけど。何か用かな?別に、犯罪とかを全くしてないけれど」
「いえ、そう言うことではなくて……」
その言葉を聞いて、私はナイフを下げた。
私に変な疑いがかけられてないのなら別に噂を流せばいい。勝手にほざいていればいい。嘘の情報ほど身を焦がすものはない。
「……っ」
監視者はそそくさと逃げていった。
「全く。私に何があるんだか」
疑問を抱えたまま私は自分の家へと戻っていった。
翌日。私が学園で一人魔法の創作に勤しんでいると突如教室が騒然と揺れた。
「今日、かの有名なイリス様が訪れるんだって?」
「えぇ!このクラスかはともかく、教師陣がそう言っているように聞こえたわ!」
「マジかよ、この世界で誰も勝つことは叶わない魔法使いであられるイリス・フォーリアー様のご拝顔を肉眼で見れるなんて……」
「“誰も勝つことが叶わない”、か……」
正直興味なんてものは微塵もなかった。どうせ人間の身だ。せいぜい言って100年程度の魔法の努力だろう。
こちとら数万年なのだ。生きている年数、年の功が違う。そう思っていたのだが——。
「——我輩がイリス・フォーリアーなのである」
「……え?」
どうせしょうもないんだろうな、とお昼寝モードに入ろうとした時だった。明らかに人間とは違う異質な雰囲気を感じて顔を上げると、そこにはれっきとした魔族がいた。
「今日は我輩の特別授業だ。ありがたくうけたまえ」
「わかりましたっ!」
……みんな、よくそんな雰囲気で取り組めるな。
私の内心疲れ切った心などいず知らず、時間は時々刻々とすぎていって、質問時間のような時間になった。私はどうせ何を聞いたって意味ないだろう、と黙って外を見ていたのだが……。
「おい、そこの端の席のもの。我輩のことが気にならぬのか?」
「……えぇ。どうせ魔法使いでしょうし」
「……、……い」
はぁ、とついついため息をつくが私は即座にそれを引っ込めて消音魔法でもかけようかな……。と考えていたら。
「面白いな、そこのもの!名はなんという?」
「名前、ですか。オリヴィアです」
「オリヴィア……。ああ、我輩が前まで入団していた魔法師団の期待の新人か!」
どうやらこのイリスさんは元々魔法師団特級隊長だったらしく、それなのにどこかへと姿を眩ましたことから有名になったらしい。
そんなこと知らない、と言えたなら簡単なのだがクラスからの注目を浴びる始末。流石にこの環境下で逃げるなんてしたら殺されかねない。死なないけれど。
「それで、結局私に何かようなんですか?」
「いーや、全くを持ってないよ?どうせこんな環境で私と会話なんてしたくないだろう?」
「……確かにクラスメイトから忌避の視線を向けられている気分が絶えないですしね」
「あはは、違いない」
比較的友好的に話しているこのイリスという人、この人にはどうしても拭えない、そして勘違いとも言い難い違和感が漂っていた。
圧倒的に魔力量が多いのだ。
人間の中にも魔力量が異常に多くなる症状は見られる。私もそのような症状を持っていた。しかし彼女の魔力量はそれに当てはめるには膨大すぎていた。
まして、そもそもあの量は成長と共に増えたとしても最初の量から増える魔力は生まれた時の魔力量で変わってくる。
あんな馬鹿げた魔力量になるには私くらいの年月を過ごすか、もしくは……。
人間から魔族へと成り代わるか。
前の時代では魔族とは畏怖の対象だった。主に成り代わった人間は暴走するか、凶行に走るかだった。だから魔族は殺されてきた。
まして魔族にならなければ制御できずに命を落としてしまうのがタチが悪い。私の場合は微弱な副反応にとどまっていたが。
家に戻っても彼女の正体が気がかりで仕方がなかった。だから私は小屋から持ち出していた、自筆の書物を一冊取り出す。
魔族の生態。
そのことについてわかることだけでも、と綴ったことがきっかけで魔獣の特徴から推測されることを書き綴ったものだ。
「えーっと、確かこのページに……」
私はとあるページを探していた。そのページしか、今回は必要ない。
~魔族の生態特徴~
「あった!」
「うわびっくりしたぁ!?」
いつの間にか後ろにいたアウリカにある程度ちゃんと返事を噛ませつつ、私はそこに書かれているものを見て、確信した。
『それで、私に話があるとはどういう要件を持ってきたんですの?』
「アルギア、魔族ってまだこの世界に存在するの?」
『魔族?魔族ならごくわずかながら生き延びていますわ。元々は人間だったのになんであそこまで凶暴になるか興味があるんですの』
「なら……、この都市内に魔族が潜んでいる可能性って大体何%?」
『……正直な話を言いますわ。その可能性は0.1%もないといって過言はないですわ』
そうか。ならやっぱり彼女は魔族だな。
後日、朝早くに教室に入るとイリスがそこにいた。
「お、奇遇だな。我輩は今日も担当させてもらうから——」
「——イリスさん。あなたは、人魔ですよね」
そういうと前みたいな話している時の笑顔はスッと消え失せて私を疑うような目で見てきた。
「……どうして、そう思う?」
「私の知っている特徴に合っているんですよ。間違っている可能性もありますがその食いつきようは少なくとも心当たりがあると思って良さそうですね」
そういうと失言だったこに気づいたのか、ため息をついた。
「確かに私は人魔だよ。にしてもよく気づいたね。我輩今まで生きてきてバレたことが一度もなかったのに」
「私だって、人魔だからですよ……。もっとも、とっくにそんな種族は捨ててしまいましたが」
まだ、まだ人である能力でしかない魔族。それを人魔と呼ぶのであれば。
私は人間でもない、魔族でもない中途な種族だろう。別にいい。こんな生物私以外にいないだろうから。
「どういうことだ……。この世界にはとっくに人魔など滅びて——」
「やっぱりですか。この世界にはもう人魔なんて絶滅危惧種にまで下がっているんですね」
「なんだ、その口ぶり……。まさか私よりも長生きなんて訳はないだろうな!」
「——残念ですが、あなたよりも私は想像以上に生きているんでしょうね。それも、想像ができないはるか、そのまたはるか先の過去から……」
イリスは完全に唖然としていた。まあそれが普通の反応と言えるのだろうか。私だってそんなこと言われても一回で信じれる自信なんてものは一個も持っていないのだから。結局そういうことだ。
「我輩も、今年で2900才はいくはずなのだが……。それでも我輩は負けておるのか?」
「はい。これでも数万年は生きていて——」
「数万年!?それは誠か!?」
とんでもない食いつきようだな、この人。
「まぁ。そんな意外ですか?3000年くらい生きてるくらいなんですからそこまで意外性はないはずですけど」
「確かに、それはそうだ。だが……。1万年前、その頃の記録なんてものは全くを持って残っていない。なんでかはわかるはずだろうな?」
「……えぇ。あの隕石のような——」
「隕石?何を言ってるんだ?」
「え?」
私は頭を抱えた。イリスは私の言った世界が終焉を迎えた理由に納得がいってないようだ。目で見た私だからこそ、そう思っていたのだが——。
「神魔の頂点。【アポカリプス】が暴走したんじゃないのか?」
「【アポカリプス】?なんだそれ」
「……本当に、君は何者なんだ?我輩でさえも知っているものを知らないくせに知識を多く抱えていて……」
「【アポカリプス】か……。一体何者なんだか」
『アポカリプスと言ったかしら?懐かしい名前を口にするにものね。彼女もこっちの世界に降りて来ていたのかしら?』
「いや、人魔の人からその話を聞いてさ……ってうわっ!?」
背後にいつの間にか尾いていたアルギアに驚きつつ、【アポカリプス】について何か知っている様子のアルギアに聞いてみた。
「それ、その【アポカリプス】、だっけ?何者なの?」
『私の部下にあたる、闇聖霊の名前よ。彼女に久々に会いに行こうかしら。貴方もついてくるかしら?』
「どうせだし、行ってみようかな。この世界に降りたことがあるかどうかも聞いておかないと行けなさそうな雰囲気だし」
私とアルギアは精霊界のその上、聖霊界へと向かうことへとなった——。
「彼女、我輩のために踊ってくれるだろうか……」
彼女、オリヴィアは嘘にも隕石が落ちたと嘯いた。そして私よりも実力が上と言い張る。一度静粛しておかなければ……。
「我輩の世界、魔族社会をまた再建させるためにも……。君はとてもと言っていいほど邪魔なんだよ……だから」
星の輝かない黒く沈んだ夜空に浮かぶ霞んだ月を見上げ、
「我輩のために、排除させてもらおう」
その声とともに、咆哮が宵の空へと響き、霧消していった。
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