第3話 永遠少女、恋愛を見失う
私は令嬢の人達が各々で公爵や、子爵などの人へアプローチをしている様子を見てうんざりしつつ静かに過ごした。
正直特段何か問題があったわけでもないし、そもそも私は結局冒険者。この場にいることの方がおかしいはず。そう思って私は隅でワイングラス片手にボーッと過ごしていた。そんな時だった。
「オリヴィアさん……ちょぉっといいでしょうか……?」
「ど、どうしたの?クラテル」
ちょっと眉間を寄せた形相で近寄ってくるクラテルに少々怯えつつ私は問いかける。
「あのですね……私という従者が居ながら他の方と話さないでくださいな」
「え、えぇ?」
衝撃発言に私は開いた口が塞がらないでいた。え、待って待って待って。クラテルってかんなだっけ。
私がそう焦っていると詰め寄られていく。反射的に私は後ろに下がる。それを繰り返しついに私の踵にカツッという音が響く。壁まで寄られていた。そして私は壁ドンされる。
……人生初めての壁ドンがこんな展開なんて。
そんな呑気なことを考えていたが、私は焦ってもいた。こんな場所で何かしらし始めたら多分もう歯止めが効かなくなる。
つまり今しか止める術が存在しないのだ。というか私の貞操の危機な気がする。このままにしておいたら。
「一回落ち着こうかクラテル。場の雰囲気に疲れたのはわかったから一回落ち着こう?」
「何を言ってるんです?私は今正気でこんなこと言ってるんですよ?」
私は察した。察したくないが察してしまった。クラテルは、ヤンデレだ。多分私が思っているよりも遥に愛が重い。嬉しいことでもあるのだがいかんせんここまでになるともはや恐怖しか残らない。
「私は従者の身ですが、だからこそ貴方を愛する権利だってあると思ってますよ?」
クラテルの言葉の嵐に私が辟易していると、
「あ、あの!」
「……は、はい。なんでしょう?」
面識のない男性が声をかけてきた。私にはもちろん婚約者などこの時代にいるはずもなく何用かと思っていると、
「貴方に一目惚れしました!是非僕の婚約者になってください!」
「……え?」
「成程、命知らずな方だこと……」
「一回その目線と言葉の刃はしまおうか」
結構驚愕していたがクラテルの危険な発言のおかげで速攻で冷静になることができた。
……なんとかしないとな、クラテルの欲求不満、かな?を。
「それで、僕の婚約者になってくれますか?」
「申し訳ございません。私ではなれません」
「……理由を聞かせてくれないかな」
「そもそも私とは地位が違うんです。そもそも私はただの冒険者です」
「ならなんでこの茶会に参加しているんだよ!」
声を荒げ始める。正直耳障りだとは思っていたがキッパリ断っておかないと後々ストーキングだのなんだのとてつもなく面倒なことになることは請け合いだった。だから私は事実をただ述べることにした。
「私にもわかりません。私がいることで不快になられたのであれば申し訳ありませんでした」
「い、いや。僕の方こそ声を荒げてしまって悪かったね」
「いえ。それではこれで」
私はその場を離れる。適当にワインか何かを入れてこようか、と考えていた時。
「……オリヴィアさんはモテて羨ましいです」
「十分クラテルも可愛んだから……」
どうやらヤンデレっぽくなってるのは誰かからの愛が欲しい。そんな欲求の成れの果て、とでも言及するのだろうか。
「か、可愛い……エヘヘ……」
一応褒め言葉として言ったものはクラテルの気を落ち着かせるのには効果的たっだようだった。とりあえずはその場凌ぎになっただろう。
そう、なってほしくてこんなことを言ったのだが——。
「俺と婚約を結んでくれ!」
「結婚してください!オリヴィア様!」
「こんな奴らよりも私こそが真にふさわしい男です!さぁ、私と新世界へと向かいましょう!」
……原因はわからないがなぜか男たちに婚約を結ばれるため詰め寄られていた。さすが貴族は女心なんてものは考慮しないようだ。
「あ、あの……」
「それより何故貴方ほどの方が舞踏会などに顔を出されておられていられなかったのです?参加していたのであればその場を支配できるほどの美貌をお持ちであるのに……」
私の狼狽など全く目にくれず、勝手に考察を始める。こういう男に限って金銭面やその人よりも可愛い人とかを見つけると浮気をするんだろうな……と偏見丸出しなことを頭に浮かべていた。
「お嬢様がお困りになられていますのでここのところは退いていただけないでしょうか?」
私がどうしようか困っているのを様子をみて察してくれたのかクラテルがそう言う。だがしかしその提言は虚しく
「従者如きが口を出さないでくれないかな?」
「ぐ……申し訳ありません」
「……」
私は『従者如き』と吐き捨てた男に対し睨みの視線を向ける。だがその男は私が好意の視線でその視線を向けていると勝手に勘違いされ、
「ん?俺を選ぶのか?やっぱり見る目があるな……」
そう告げているが私は一言も聞いてはいなかった。この世界の貴族はポエム吐きが多すぎる。今の女性はポエムさえ履いていればおちるとでも思われているのだろうか。
「……ちょっとこっち来てください」
少々気が荒れ始めて口調がいつもの口調になりかけ始めているがなんとか食い止める。一度胸に手を置き深呼吸する。そして私が言った通り私の近くにきた男に対しこう言う。
「……今からたとえ何が貴方に対して何かが起きても私を罪に問わない、これを約束できますか?」
「?……わかった。我が家名に誓ってグフゥッ⁉︎」
契約が完全に決まったようだったから私は身体強化の魔法と硬化の魔法で男の顔面を心地よいくらいの勢いで殴り飛ばしてやった。
「私への悪口とか陰口なら別になんだっていいさ。好きにポエムを吐き散らしてくれたらいいさ。貴方たちに無関心なことに変わりはないから。ただ……私の大事な人に『従者如き』?舐めてるの?本来はあの場で静粛のために頭を吹き飛ばしてもいいんだから」
「ひ、ひいぃ……」
先ほどまで威勢のあった男は今は毒気が抜かれてもはや恐怖に顔色が染まっていた。
……私の大事な人、仲間をひどく言うからだよ。
私が薄暗い場所から戻るとさっきのあいつ以外の男が根掘り葉掘り聞こうとしてくるのが先ほど同様面倒臭く感じ、さっきの男のところに行ったらわかります、とだけ言ってあげた。そしてその刹那。ちょっとした息を呑む音が聞こえた。また私を追いかけてどう言うことかを問いただそうとしてきたが結局私はあいつに聞けばわかるとだけは言ってやった。
その甲斐あってか私にあいつらは関わってこなくなった。これで普通にゆったりと過ごせる、と思っていたが。
「ど、どうやってあの4人衆の興味をそらしたの!?」
「あの人たちはとんでもない執着で有名なのに……」
今度は女性の参加者に囲まれてしまった。
……お茶会くらい、誰か私に安息を与えてはくれないのだろうか。
「ただただ離れていってくれただけですよ。まぁ私に魅力がなかったd」
「恐怖制裁ですよ!一人に制裁を下してそれを見せつけてムグゥ」
「……せっかく穏便に済ませようと思ってたのに!クラテル喋りすぎっ!」
周りの顔色を伺ってみる。すると明らかに畏怖した表情を浮かべている人が大半だった。だが、
「あなた、それほど強いのかしら?」
できるだけお茶会で貴族社会の中に関わりを作っておこうと思っていたが失敗したな……と落胆している所にそんな声がかかった。その女性に対して周りの人の視線は『何をしてるんだ?』と言うような視線が多かったがそんな視線を知らないふりをするかの如くその女性は私に話しかけてきた。
「ま、まぁ……人並みの実力があるかと」
「……嘘を、ついてるわよね?」
少々肩を跳ねさせる。確かにそうだ。多分この時代では私の力は異常だ。だがそれをバレたらそれこそ貴族社会にいられないだろう。だから私はこの嘘を隠し切らなかければ——。
「知らないかもだけど、私魔法師団の副団長なの」
「なら隠す必要ないですね……なんですか、私の気の引き締めは意味なかったじゃないですか」
国王から団長と副団長あたりには私のことは話しておくと言われていたから一気に肩の力を抜いた。私の実力は国王とクラテル、魔法師団の団長と副団長しかしらない。だから私は周りにはバラすまいととりあえず外に出ることにした。
……勿論結界は張らしてもらうが。
「それで私に何かようで?」
「いえ?私や彼が指揮する魔法師団に異端な入り方をしようとした人がいたらどんな人か気になるでしょ」
「そういうものですか……」
「そういえば自己紹介していなかったわね。私の名前はメディリス・S・クローテルよ」
「メディリスさん。ですね。私の名前はオリヴィアです」
「オリヴィア、ね。よろしく。あと私のことはメディでいいわよ?」
「わかりました、メディさん」
「……オリヴィアさん」
「……何?クラテル」
「こう言うときは敬語を外すのが暗黙の了解ですよ」
「え、そうなの?……」
よくわからない習慣のようなものに若干戦慄しつつ私はごめんなさいと謝罪を挟みつつ、私は談話をした。魔法師団入団には何が必要なのか。どんなものを求められるのか。
山の奥で私がいたった領域と比べたら天と地ほどに違いがあったが私は——
「どう?試験は」
「……やってみないとわからないことには変わらないけどギリギリかな」
そう言っておいた。
私の実力は必要な時加減を挟みつつその制約の中出し惜しみなく発揮させるものである。
「まぁ私は期待してるわ。貴方のような本当の実力を持った魔法師は大歓迎よ」
「私のできうる限りは尽くしますよ」
「それならいいわ。精進しなさい」
そういうとメディはまた茶会に戻っていった。私はあの雰囲気に今戻ったら何を話していたのかを聞くための弾丸が飛んでくることは容易に予想ができていたから私はすぐには戻らなかった。
「……人気者ですね」
「人気者が『もっと人目につかない生活がいい』って言ってる理由が若干だけどわかる気がする……」
「作用ですか」
「……クラテル、何か怒ってる?」
声色に若干怒気が混じっていたような気がしたから私はそう問う。だが違うと言われて仕舞えば私には何もいえず、黙って納得しないといけなかった。
(もう少し素直だったら、クラテルももう少し人懐こくなれたのかもしれないのにな……)
なんとなくクラテルの素質はあるのに宝の持ち腐れになってるところが少し残念だなと感じつつ私は柵にもたれかかった。
……久々にこういう会場を見るとやはり昔を思い出してしまうのは、やはり過去を忘れられないからなのだろうか。
もし私の親友も不老不死の体を持っていたら。それを考えたことは多くあった。私が魔法を覚えようと決心した理由の一つに彼女の蘇生が可能なんじゃないかと思って始めたのもある。
結局どれだけ領域を掻い潜れど人類の蘇生ができるほどの魔法の技術はなかった。
「……彼女、今天国で何してるんだろう」
つい傾き始めた日を見つつそう思う。
「彼女、とは?」
「私の親友。別に隠すことでもないから話してもいいよ」
私に暗示をくれたあの謎の存在。それがもし私を見ているのであれば……
(私に、彼女のような存在と思える人が現れたその時には不老不死を与える力を1度だけでいいから、与えてくれたりはしないだろうか……)
叶うことのない願い。それは私の中で反響しては空虚に薄れていくのだった——。
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