第2話 永遠少女、現状を知る
「え、えっと……?」
突然国王に魔法師団への入団を希望された私は正直よくわからないとしか思えなかった。確かに前の世界の技術を持っているとはいえ、普通入団試験をさせるべきじゃないの?
「急に話を進めてすまない。汝のもつ能力は現代では桁外れの力。それを手元に置いておきたいという単純な希望なんだ。嫌ならば辞退して構わん」
正直私はなんでもよかった。だから私は
「まぁ、私でよければ。ただ、入団試験を受けさせてほしいのですが……」
「それは一般希望の場合だけだが……まぁ汝には今の魔法の技術を知る機会になるだろう。次の試験のときに汝も一般枠で入れておこう」
「ありがとうございます。それで、日程は——」
この後、日程などを聞き、私は王城を後にした。
あまり人の多い道を歩きたくなかった私は路地裏を伝って宿へ向かうことにした。すると、前の世界でも同じく等しく、こういう輩が出て来るものだ。
「ヤァ、お嬢さん。俺たちと遊ばないかい?」
そう。チャラ男系のバカだ。
「ごめんなさい。あなたたちに感けてる時間が鬱陶しいので」
そうやって断ち切るのが普通、と思っていたのだが……。
「おいおい、そうやって逃げるのはなしだろ」
そう言って男は私の手を掴む。1発魔法を見舞ってやろうかとも思ったが、誰かに見られたらそっちの方が面倒だ。
「やめてください。あなたについて行く理由が私にないので」
「俺みたいないい男に靡かない女なんていないんだよ。早く言うことを聞けよ」
もはや面倒になった私は、その場を『テレポート』で逃げようとしていた。そのとき、
「私のご主人様に手を出さないでください」
俊足の蹴りが炸裂した。一応気配察知にはある程度長けているつもりだったが、全く近付いている気配は感じなかった。
……いや、違う。そもそもこの少女に気配がないのだ。それだけを聞いたら私もよくわからないが、少女からは全く気配が感じられない。もはや空気と等しく感じた。
「よ、よくも俺さまを蹴ったなぁ!?」
「あなたがご主人様をいじめるからでしょう?ご主人様は嫌がってます。それを強制して何が楽しいんです?」
「……ちっ。興が冷めた。もうどっか行ってろ」
男は負け惜しみのように捨て台詞を吐くと、路地裏から出ていった。
「助かったよ。ありがとう……で、君は誰?」
「私ですか?私はクラテル・S・カプリティンです。貴方の従者です」
え、従者?国王から全くそんな話は聞いてないんだけどなぁ……。また行くときに聞いてっみよう。
「私の名前は——」
「オリヴィアさん、ですよね?国王から伺ってます」
「あ、うん」
自己紹介でもしようかと思っていたが、もうある程度情報は掴んでいるようだ。
「と、とりあえずここで話すのもなんだし、私が今借りてる宿にいこっか」
「え?ご主人様用のお家を用意しておりますのでそちらに」
「だから私国王にそういう話をされてないんですけどぉっ!?」
もはや突っ込まずにはいられなかった。流石にひどい仕打ちだ。そう言うのが用意されているなら言って欲しかった。
「それでは行きましょうか、ご主人様」
「あ、うん。行こっか」
私はクラテルについて行くことにした。
「こちらが邸宅です」
「う、うわぁ……」
もはやちょっと引いていた。昔のお城よりも大きいんじゃないか、と思ってしまうような大きさ。前の世界の住民からしたらもはやこの規模は一国の城と言っても過言ではなかった。
「私含めてオリヴィアさんの従者は十数名います。私はそのまとめ役です」
「あ、そうなんだ……」
屋敷に圧巻していた私はあまり話を聞いていなかった。
クラテルはそんな私に不満げに頬を膨らませ、ジトーと見てくる。そんな様子に全く気付かずやはり私は感心していた。
前時代とは明らかに変わっている建築方式、色調が鮮やかになったことで変わる清潔感。それらが——。
そんな思考になり始めていたとき、
「オリヴィアさん、話聞いてますか〜?」
耳元にそんな声が聞こえ即座に意識は現実へと戻された。
「ふぁ、ふぁい!」
「……その様子だと聞いていなかったようですね。まぁ特段覚えておくものもなかったですけれど」
「あはは……ごめんなさい」
私は素直に謝った。
「別にいいですよ。あとどうせですしもう中に入りましょう?」
「確かにね。部屋選びもしなきゃならないし」
そう言って私とクラテルは邸宅へと入ることにした。
内装と同じく室内も白色系で統一されていた。
「流石国が用意した屋敷だな……私なら選ばないよ、こんな家……」
そうボソッと呟いていると
「「「「「お帰りなさいませ」」」」」
「あぁ、ただいま……って、なんかいろんな声混ざってなかった?」
声が聞こえた方向に首を向ける。すると、そこにはいかにもメイドな格好をしている人たちがずらりと並んでいた。
「こ、ここにいる人たち全員……私の従者?」
「どちらかと言えば侍女ですけれど、大体そうです」
こんな量の人と一緒に暮らすのか……。人混みとかが嫌いな私はもしかしたらの可能性に少々嫌な予感をしていた。
しかし存外そんな心配をする必要はなかった。十分一人一人部屋を使えるほどの広さと部屋の量があり、私は気兼ねなく一部屋もらうことにした。
「まさか森暮らしから豪邸暮らしに変わるなんて……」
そう感傷にまたもや私が耽っているところにまたクラテルが部屋に入ってきた。
「オリヴィアさん、お手紙が届いてました」
「あ、ありがとう。内容はもう読んでたりする?」
「いえ。嫌疑的な貴族からの手紙でない限り勝手に開いてみることはないです」
そう言うものか、と勝手に解釈しつつ私は手紙を受け取った。
「えっと何々……『俺が開催する茶会にぜひ参加してほしい』……?なんでまた私が……?」
「オリヴィアさんは今貴族界では少々有名なのです。謎の少女として」
「え、なにその面倒な状況」
心からただただ嫌に感じた。貴族はどこの世界でも大抵見栄しか考えていないから私みたいな平民思想の人からすればバカバカしく感じるようなものでしかなかった。
「この世界では十分名誉なことですよ?貴族社会で名の上がることなんて滅多にないですし」
「そうなんだ……でも逆にとればこれから引っ張りだこになるってこと?」
「まぁ、例外なくそうなるでしょうね」
「……面倒極まりないいですけどぉ」
そう呟きつつも、招待されたからには参加しないとそっちの方が後々面倒なことになることはわかっていた。だから私はなくなく茶会への準備をすることにした。
数日後、茶会の参加日になった。手紙に開催地が書かれていなかったため迎えを待っていると、案の定馬車がやってきた。
「乗ってください。貴方は確か……オリヴィア様でしたか?」
「はい。この馬車はお茶会へのものですか?」
「そうです。公爵様が自らお呼びになるほどの方ですから、貴方はそれほど貴族社会ではいい地位なんですか?」
「いえ……私もなぜ呼ばれたかがわからないのです」
馬車を進める人からの質問に優しく応答しつつ、馬車に揺られること数分。これまた豪華そうなお屋敷に着いた。
「着きましたよ。エズリシア公爵家の屋敷です」
「お運びいただいてありがとうございます」
そう礼を告げ、私とクラテルは屋敷の敷地内に入る。
「にしても庭広すぎ……手入れ面倒そう」
「やめてください。貴族はこう言うもので自分の権力を見せつけるので、そう言うことを言って仕舞えばどれだけ恨まれることか……」
「……やっぱりどの時代でもそうやって貴族は面倒なんだな……」
前の時代に私にしつこかった貴族を少し思い浮かべながら道を進んでいると、
「やぁ。君がオリヴィアかな?」
そう声をかけられる。意表をつかれたような感じで声をかけられ少し驚く。
「は、はい。私がオリヴィアです。この度はお茶会にお呼びいただいてありがたく存じます」
とりあえず公爵らしいから下手な態度は取れない。だから私は謙った態度で今回は過ごそうと思っていたのだが、
「堅苦しいでしょ?もっとラフに話してくれていいよ?」
「は、はい……それで、私はなぜ今回お茶会に呼ばれたんですか?」
「もっとラフでもいいのに……まぁいいや。今回君にきてもらったのには他でもない理由があるよ」
「それはなんです?」
「君にどれだけ魔法の才能があるのか。それを確かめたくてね」
そういえば国王が魔法師団の団長はエズリシア家の長男だとかなんだとか言ってったっけ。私が急に入団するって話でも噂で流れているのだろうか。
「それはまた。でも私は魔法なんて知らないですよ?」
「そんな謙虚にならなくていいよ。本当は特別枠で入団できたんでしょ?」
どうやら情報は回っているようだ。流石公爵の長男とでも言うべきだろうか。情報網はかなり手厚いようだ。
「はぁ……そうです。どこから情報が漏れたかは知りませんが国王が配慮していただいたのを私の願いで一般枠でのものに変えていただきました」
「やっぱりね。君にはまた一つ伝説があるしね」
まだあるようだ。聞くには私がギルドに行った時換金したものは今では取れることはないようなものらしく、それの競売でギルドは儲けが出たらしい。
「そのアイテムを得た経緯も知りたいしね。それでなんだけど、俺と勝負しないかい?」
「勝負、ですか?」
「そう。互いに魔法を打ち合い戦闘不能にした方が勝ちってルールで。簡単でしょ?」
「そうですね……まぁお茶会前の腹ごなし程度でよければお相手させてもらいます」
「ありがとう。じゃあ、それ用の会場に行こうか」
「会場?」
……話が進みすぎていないか?そう私は違和感のようなものを感じたが、あまり気にすることなく着いて行くことにした。
会場に着くと、そこには観客がいた。しかもそれは服装を見る限り貴族のようだった。
「オリヴィアさん。彼は〈魔法の申し子〉と呼ばれるほどに魔法の才能を持っています。貴方がどれほど強い魔法師であるかは知ってますが、油断はしないでください」
「勿論。どんな戦いでも決闘なら手を抜かないのが私の流儀だし」
そして私は会場に入る。
もうエズリシア公爵の長男は杖を構えていた。
「来てくれたね。じゃあ決闘といこうかい?」
「わかりました……ただ私がもし買ってもあの貴族の方達に恨まれないような処置は施してくださいね?流石にそんなリスク背負ってまで戦いたくないので」
「わかった。観客の全員に告ぐ!もし仮に俺が負けてもこの少女を恨むことなどせずにたたえるのだ!もし讃えぬものは俺の名にかけて鉄槌を下す!」
「……すごい宣言」
お願いした手前なにも言えないのだが、そこまでしなくてもいいのにな……と感じてしまった。
「それじゃあ、決闘を今度こそ始めよう」
「わかりました。じゃあ『
私の創作魔法である『神速の隕弾』を無詠唱で打ち込む。追尾性能に特化した対人用魔法だ。元々こういうことを夢見て作った魔法だから、この場で使えたことに喜びを感じていた。ただ、私の計算では錯乱する程度のはずだが……反撃が来ない?
エズリシアを見ると、白目を剥いていた。
「え、えぇ……?」
「勝者、オリヴィア!」
沈黙が会場に広がる。そこに拍手がパチパチと聞こえる。それを引き金に歓声が響く。あれ、私にとっては全然まだ不完全燃焼なんだけれどな……。
そうは言ってもどうにもならないことはわかっていたからとりあえず起きるかなにかしらの処置が来るまで私は見守ることにした。私の責任でもあるし。
彼が気絶してから数分。やっと意識を戻した。
「いてて……もうちょっと手加減してよ……」
「え、あれでも十分遊ぶ程度の威力だけれど」
「は……?」
彼は唖然としている。あれ、もしかしなくとも私が思ってるよりもこの時代は魔法への耐性がない?
「ま、まぁ……それじゃあ茶会に行こうか。俺の父も参加するらしいしな」
「わかった」
とりあえず私は着いて行くことにした。これまたクラリスが頬を膨らませていたが、気にしないようにした。あまり気にしない方が、私の身のためだと察したから。
茶会会場は豪華絢爛の言葉に尽きるような会場だった。壁もどこも全部金でできているような空間だった。言ったら申し訳ないが私にとっては少々目がチカチカするようなものだった。
「今回は私が開催するこの茶会に足を運んでくれて感謝する。様々な品を用意するから存分に楽しんでいってくれ」
周りの女性がどうしてもスタイルが良くて正直見劣りしていた。成長期真っ只中で私の不老不死が発生したせいで幼児とまではいかなくとも正直身長が低い。15才のクラリスと比べても大体同じくらいだった。
「はぁ……」
「ため息つかないでください。その身長でも可愛いですよ?」
「成長できる人には辛さがわからないだろうね……」
私がそうしょげていると、
「あら、どうしたの?」
「……いえ、なんでもないです」
私がさっきまで見ていた女性が声をかけてきた。高身長で羨ましいな……とそんなことを考えていた。すると、
「まぁ楽しんでいきなさいな。お茶会でため息をつくのは貴族社会ではタブーよ?」
そう言われ私はまぁ最後まで適当に過ごそう、と感じた。
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