第5話

「テッド、あのくそガキ、もう連れてくるなよ」

「なんで?」

「何が『縁起の悪い』だ。てめぇ、何様のつもりだっていうんだよ」


 カウンターで一人、後から出された紅茶にジャムをたっぷり入れていたテッドは、ほがらかに笑い始めた。


 傾いた日が店の中に長い影を伸ばす。客は他になく、女店主は明日の準備にと、タマネギを刻んでいる。その小気味よい音が薄衣のように会話を包み込んでいた。


「あれでもマシな方だと思うよ」

「イシリアンテの慣習か。目を合わせただけで、吐きそうな顔をしていたヤツもいたっけ」


 苦笑が広がる。ふわぁっと黒猫があくびをかみ殺した。


「厄落とし……か。そんなこと言ったか?」

「ああ。……こうしてまた話ができるんだ。ある意味『ヤクオトシ』できてたんじゃないか。ソーイチ」


 黒猫は体に顔を埋めた。


 女店主が店の奥に入ったのを見計らい、テッドはささやいた。


「決まったよ」


 黒猫が耳を動かした。


「もう人選もだいたい終わった。同盟国出身のヤツもいるよ」

「国籍変えて、忠誠誓わされて……。ご苦労なこった」


 ピクリと持ち上がるひげは、あざ笑うかのように見える。黒猫はカウンターに体を横たえながらぐっと伸びをする。窓に見えるのは発射台。そびえ立つ鉄骨が、空に向かって手を伸ばしているように見える。


「仕方ない。表向きには開かれているけど、軍の一部だ。機密もれは困る」

「ふん……。後々の処理が簡単だもんな」


 背を向ける黒猫に合わせるように、テッドもまた、日を受けてきらめく発射台に目をやった。

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