第一章 春に嵐を

第1話

 ふわぁっ、とあくびをかみ殺す。


 空は今日も雲一つない。こうあまりに表情がないと、眠くなる。乾いた大地が巻き上げる砂埃に鼻をくすぐられ、くしゃみを一つ吐き出した。


顔中の筋肉を動かし、もぞもぞと鼻を調えたとき、視線の先に二つの空色の影を見つけた。白髪が交じり始めた方は常連だ。もう片方のは見かけない顔だった。


 色素の薄い金色の前髪に、顔を隠すようにうつむいている。慣れていないのだろうか、しきりに顔の周りをはたき砂埃をよけている。ちらりと顔が見えた。眉根を寄せ、キュッとつぐむ口。落としぎみの視線は、砂埃を嫌っているだけではないことが容易に想像できた。


 意味ありげにひげを上げると、黒猫は屋根からひらりと飛び降りた。

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