六月の花嫁は二度死ぬ~快楽の報酬~
藤英二
1. 売られた花嫁(1)
行くか行くまいか直前まで迷った。
・・・お金がない。
山際さんに借りようか。
「亡くなったお爺さんが大富豪で、山ほど遺産をもらったらしいわ」
同級生の女子たちが、彼の噂をしていた。
でも、それは嫌だ。
同級生に借金なんかしたら、いやらしく迫ってくるにちがいない。
いや、いつも遠くから切れ長の目でこちらを見て微笑む山際さんは、真面目な優等生で学内のチャペルの日曜礼拝にも欠かさず出席している。
・・・彼は断じてそういうタイプではない。
だが、同じ古代史学科でありながらほとんど口をきいたことがない。
教授はどうだろう?
いつも、大した用でもないのに研究室に呼びつけて、いやらしく迫ってくる。
「夏休みにユカタン半島の遺跡の発掘ツアーに同行してくれないか」
と、つい最近も誘ってきた。
行くつもりはない。
・・・でも、教授の推薦で出版社に就職の内定をもらっていた。
あと一年で卒業というのに、両親がそろって大病で入院した。
病院の払い、前期の授業料、来年同じ大学をめざす妹の補習塾の費用、マンションの契約更新料などなど、・・・支払いが待ったなしだ。
バス停で降り、交差点の信号を渡り、くねくねと曲がるゆるい坂道を登った。
道の両側の柳が生温かい風にそよいでいた。
これから起こることを考えただけで冷や汗が背中を伝う。
その冷や汗がブラウスの背中に張り付き、不快な気持ちがいっそう募る。
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