第2話

『お前』


「ああ」


『いつも、そう、なのか?』


「ああ」


 彼女には、何も、話していない。


『身体の傷は?』


「気付いてない」


 というより、気付いていないふりを、してくれている。


『正義の味方が』


「ああ」


 正義の味方だからといって、それを誇ることはない。ひとに知られることもない。

 激烈な任務に身を投じ、しにかけて、戻ってくる。その繰り返し。

 人生の意味とか、戦う理由とか、そういうものとは縁がなかった。

 ただ街のために戦い、そして、いつか、しぬ。それだけの自分。

 だから、彼女が自分のことについて話しているとき、なぜか安らぐ。彼女が料理に挑戦したとか、彼女が見てた動画のこととか。ほとんどが、意味のない、どうでもいいこと。そういうどうでもいいことを楽しそうに話すから、彼女のことがとても好きだった。


「どうせ、すぐ死ぬ」


 そうやって、生きてきたから。彼女の存在は、心地よいものだった。

 だからといって、彼女のもとへ戻ることが、目的にはならない。今はまだ。そこまで彼女に認めてもらってないから。

 彼女に、訊かれるまでは。彼女にとって、自分は。他人。


『お前が死ぬ未来は想像できないけどな』


「そうか」


『さあ。任務だ。狐を祓うぞ』

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