あなたの秘密

春嵐

第1話

 聞いてはいけないことだと、思った。

 彼の身体には、いくつも、傷がある。ひっかいたような跡。何かで切ったような傷。丸くつぶれたあざ。

 気付いてないふりをして。ここまで、一緒にいる。

 彼は、やさしい。分け隔てなく、誰にでも。わたしがいちばん近くにいるからといって、わたしだけにやさしいわけじゃない。いちばん近くにいるから、やさしくされる回数がいちばん多いだけ。頻度一位でも、優先順位一位では、ない。たぶん。

 そんなことを考えながら、彼との日々を過ごす。

 彼は、何者なのだろう。

 ときどき、いなくなる。最初は、捨てられたと思った。やさしい彼に、わたしは見合わなかったんだ。そんなこと考えて、しょぼくれてるうちに、彼は帰ってきた。

 彼は、いなくなっている間のことを話さない。わたしは、彼がいなくなっていた間のことを喋る。何を食べたとか、面白かった動画のこととか、そういうことを。

 彼は、嬉しそうに、それを聞く。なぜか、わたしがそれを話しているときは、とても嬉しそう。日常のことを話しているだけ、なのに。


 また、彼がいなくなった。

 彼が戻ってきたときのために。

 また、動画いろいろ見たり。美味しそうな料理に挑戦してみたり。しようかな。

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