第13話 絢爛豪華なランチタイム


(何この状況……)


 オリビアは目の前に広がる光景を前に心の中で呟いた。


 レオンに連れてこられ辿り着いたのは学院内の食堂……の中の一角だった。


 ただでさえ貴族向けのこの学院は一般生徒用のエリアも充分豪華だが、案内された一角はそれ以上に絢爛豪華で、オリビアは行ったことはないがまるで王宮のようではないかと着席するのを尻込みしたくらいだ。


 しかし、遠慮のない護衛が女子たちを引き連れさっさと席についたので、自分も仕方なく席についた。


「いやあ、ここめっちゃ豪華っすね!」


「そう? 王族専用エリアなんだ。今年は僕しか使わないから、こうして君たちと賑やかに過ごしたいなと思ってね」


 エリア内をキョロキョロと見回すジョージと女子たちに、レオンが爽やかに微笑みオリビアの隣の席に座った。


 オリビアはほんの少し、ごくごくわずかに体をレオンのいない方へ逸らした。本当なら席を立ち、一般エリアへ駆け込みたい気持ちだった。


「オリビア嬢、緊張しているみたいだね? ここは気に入らなかった?」


 ほんの数ミリの動きを察知したのか、レオンの口調には何か含みがありそうだった。オリビアは慌てて社交辞令の笑顔を貼り付け「いいえ」と答えた。


「そう、よかった。ここの調度は全て王宮と同じものを使っているんだ。気にってもらえて嬉しいよ」


「まあ、王宮と同じものを? なんだかここで過ごすのが恐れ多くなってしまいましたわ」


 オリビアは明日以降は誘わないでくれという意味を言葉に込めた。しかし、レオンは微笑むだけで返事をしなかった。

 そして、彼はジョージの両隣の女子に声をかけた。


「君たちも気に入ってくれたかな?」


「「は、はい!」」


 女子たちは頬を赤らめ声を揃えた。それを見たレオンは満足そうに目を細め、今度はジョージに話しかける。


「気に入ってもらえてよかった。ヘマタイト君、初日に誘うということは、彼女たちは君のお気に入りかな?」


 ジョージは「はい」と答え、左右を向いて女子たちに目配せをした。


「彼女はマイラ・ハウライト伯爵家令嬢、んで彼女がソフィー・トルマリン男爵家令嬢。昨日パーティーで知り合ったばかりですがお二人とも可愛らしくて優しい素敵な女性ですよ」


 紹介された二人は、レオンとオリビアに一礼して改めて自己紹介を始めた。


「マイラ・ハウライトと申します。殿下、クリスタル様、どうぞよろしくお願いいたします」


「ソフィー・トルマリンと申します。殿下、クリスタル様、男爵家の身分でありながらこのような場にご招待いただき、感謝いたします。どうぞよろしくお願いいたします」


「マイラ嬢、ソフィー嬢、僕たちは同じクラスの仲間だ。そんなにかしこまらずに気軽にしてくれてかまわないよ」


 自己紹介をしたマイラとソフィーがレオンの気さくな対応に嬉々としている間、オリビアは笑顔を貼り付け頷きながら、考え込んでいた。


(最近、貿易商として名を上げているトルマリン男爵家と、貴族院で王都の店の出店許可などの権限を持っているハウライト伯爵家の令嬢……。やるじゃない、ジョージ)


 王都での商売をするにあたり、縁があると都合のいい家の令嬢を連れてきた部下を心の中で褒めながら、オリビアは彼女たちのある態度に気づいた。


(……待てよ。今、私、レオン殿下と連名で挨拶されてない? まずいんじゃない?)


 明らかに誤解されていることを悟り、オリビアは慌てて彼女たちの誤解を解くべく挨拶した。


「マイラ様、ソフィー様、私は辺境の伯爵家の者です。殿下と連名なんて恐れ多いですわ。どうか私のことは気軽にオリビアと呼んでくださいませ」


 オリビアが深々と礼をしてから顔を上げると、マイラとソフィーは揃って目を丸くして驚いているような表情を、オリビアと隣にいるレオンに向けていた。


「え? お二人は婚約されているのではないのですか?」


 マイラが首を傾げ、ソフィーは質問に同意をしているらしく激しく首を縦に振っていた。オリビアは負けじと首を横に振り二人からの恐ろしい問いかけに全力で否定した。


「とんでもない! 婚約なんてしていません!」


 途端にソフィーの首の動きがぴたりと止まり、振り乱れていた赤みがかかった茶髪も重力に従い彼女の肩についた。マイラは首を傾げたまま「まあ」と言ってかから首を元の位置に戻し、頭を下げた。


「失礼いたしました。昨日のパーティーですっかりその噂が持ちきりとなっておりましたのでつい……」


「ええ、あまりに息ぴったりのダンスだったので、日頃からお二人はお会いしてダンスをするような仲だと思っておりました」


 ソフィーもマイラに合わせて頭を下げている。


「二人とも、顔を上げて。僕たちは気にしないから」


「「殿下……」」


 二人はレオンの言葉で顔を上げ、うっとりとした表情で彼を見つめた。オリビアは「僕たち」という言葉に思わず眉をひそめてしまう。


(なんなの、さっきからこのバカ王子……。嫌がらせかしら)


「オリビア嬢、何か不満なことでもあったかい?」


 オリビアの考えを見透かすかのように、レオンの視線が刺さる。


「いいえ! ただ、レオン殿下との事実無根の噂が広まってしまっていることを申し訳なく思いまして」


「気にすることないのに。君たち、この通りオリビア嬢は真面目なんだ。噂話はほどほどにしてあげてね。話したのもダンスをしたのも昨日が初めてさ」


 レオンはマイラとソフィーに微笑みかけた後、オリビアに「ね」と言って王子様スマイルを炸裂した。

 オリビアは改めて作り笑いで「ええ」と応戦する。

 すると、彼は少し細めていた目を開き、さらに口角を上げて毒のある笑顔をオリビアにだけ向けた。


「これからのことはわからないけどね。数ある噂のうち、どれかは本当になるかもしれない……なんてね」


 マイラとソフィーが「キャア」と揃ってレオンの言葉に今後の展開をおそらく自分達の都合のいいように予想し歓喜している。オリビアは不快感を伴う寒気が止まらなかった。


「僕たち王族や貴族は、何かが決まれば公に発表することになっている。だからそれまでは噂として話半分でいてくれるかな? 僕のことに限らず、どんな話でも……ね」



>>続く


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