楽しい旅行の行き先は

羽弦トリス

魔の高速道路

社会人6年目の神埼学は、ゴールデンウィークを後輩の中川いずみと温泉街に旅行に行く事になった。

神埼が強引に中川を誘ったのだ。

ホンダのFITを運転して、いずみの待つ駅に寄る。


「おっはよう」

「神埼さん、おはようございます。荷物はどこに?」

神埼は車を降りて、トランクを開けてキャリーバッグを乗せた。

「下呂温泉まで3時間かかるから、こまめに休憩しながら向かうね」

「はいっ」


車は岐阜方面の高速に乗った。

「神埼さんは、ホントに私で良かったの?」

「何で?」

「神埼さんは女子社員の間では、イケメンのトップレベルなんですよ。私みたいな田舎者にはもったいないです」

「僕は、いずみちゃんと一緒に行くのが楽しみだったんだよ」

「どうしてですか?」

「可愛くて、面白い子だから」


初めのパーキングエリアに寄った。2人ともトイレに行き、ソフトクリームを食べた。

それから、神埼はたばこを1本吸って再出発した。

それから、30分ぐらい高速を走っていると、悪魔が襲いかかる。


グノワッ!


【どうしよう、うんこがしたい!はあはあ、ソフトクリームが原因か!落ち着け、落ち着け、あと15分でサービスエリアがある。いずみちゃんの前だ!ここで漏らしたら、嫌われる。確実に!】


「神埼さん、顔色悪いですよ!」

「はあはあ、だ、大丈夫!」

「冷や汗かいてますよ!運転代わりましょうか?」

「つ、次のサービスエリアまでは走るから、グワッ!」

「神埼さん。もしかしたら、トイレ行きたいの?」

神埼はウンウンと頭を縦に何回も振る。


【だ、ダメだ!そうだ!ガス抜きをしよう。屁を出せば多少楽になる。ウインドウをひらいて、そ~らよ】


グジュッ!


「あわわわわ」

「うわっ、神埼さん。くさい!もしかして、漏らした?」

神埼は余裕な表情で、次のサービスエリアに到着した。

神埼は着替えを持って、トイレに向かった。

ちょっと、実が漏れていた。

もう何も出ないくらい、トイレに籠り、着替えた。


「神埼さん。大丈夫ですか?」

「ま、旅にハプニングは付き物さ」

「私、神埼さんがうんこ漏らした事は誰にも言いませんから」

このサービスエリアから、中川が運転を交代した。

途中、ハプニングはあったが下呂温泉街に到着した。

古ぼけた旅館に入ると、外観とはうって違い内装はモダンであった。

女将に部屋を案内してもらった。

「こちら、かえでの間になります。ご夫婦でご旅行ですか?」

神埼はニヤニヤしながら、

「ち、ちがいますよ。会社の友達」

神埼は、女将にチップを渡した。


「いずみちゃん、ここ混浴だって!」

「へ、へえー」

「早速、温泉行こうよ!」

「……その前に、神埼さんにお話しが」

「あっ、うんこの件?」

「ち、違います。じ、実は私……」

「オイオイ、告白なら僕から言うよ」

中川は泣きそうな顔で、

「私、性別、男なんです」

「な、なんですって!冗談はヨシ子ちゃん」

「私、トランスジェンダーなんです」

「あ、この前、会社で研修したよ。でも、どう見ても女子だよなぁ」

神埼は部屋の露天風呂に入る事にした。

「君の性別に興味はない。いずみって人間が好きなんだ、さ、露天風呂入ろう」


中川はバスタオルを胸から巻いて湯船に浸かった。

19時から食事だった。

2人とも、酒を飲みに飲んだ。

今日は色んな事があったけど、人生は充実していると、神埼は思った。

だが、これからどうすればいいのか?分からなかった。


くそは漏らし、挙げ句いずみが男性だった。

しばらくは、僕ら2人だけの秘密にしようと思う。

こんな事が普通に受け入れる会社ではない。

研修して、何となく理解したけど、当事者同士は深刻なんだ。まずは、時を見よう。



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