長いメール

「ふおおおおお、幸せですぅ……」


 人様が作ったキャラ弁の写真がたくさん掲載されている本を見ながら、ソファの上へと倒れこむ。

 ソファに立てかけるように置いたトートバッグの中には、図書館で借りてきた本の他、書店で購入したキャラ弁の本も入っています。幸せの塊です。


 隣のページに載せられたレシピの内容は、料理の腕が皆無な私には難しすぎてさっぱり分かりません。けれども私は、写真が見られるだけで幸せです。眼福です。


「ああ、こんな素敵なものが、私にも作れたなら。作れたなら……」


 某CMなら、この後に『作れます』と続くのですが。残念ながら、私の人生においては、多分そうはなりません。残念。


 大きくため息をつく。その時、スマートフォンから通知音が。あー、少し机がここからだと遠いですね……。

 それでもぐいぐい、と手を伸ばして机の脚を引っ張り、物理的に机を自分の近くに近づけます。よし、これでスマートフォンに手が届きます。


 『古池琢磨(弟)』という表示を見て、思わずげんなりしてしまいました。タクマは私の弟です。今は、教師の仕事をしています。話によると、生徒にはあまり好かれていないようです……。


 タクマの琢という字が豚という字に似ていることから、『フルトン』と小学生の時はからかわれて、気にしていました。今は、眼鏡をかけたブタの絵を描いて、自分のアイコンにしているようですが、姉としては成長したとみるべきなのか、どうなのか……。


『愛良姉さん、今日、荷物が届くのでちゃんと受け取ってくださいね』


 メールにはそれだけ書かれていました。古池愛良。それが私の名前です。それにしても、荷物とは……?


 頭の上に疑問符が、一つ、二つと増えていきます。誕生日はまだ先ですし、私への誕生日プレゼントというわけではなさそうです。そもそも彼、私に誕生日プレゼントなんて、くれたことがありません。まぁ、私も彼にあげてませんけど。


「あら……? まだ下にスクロールできますね……」


 メール本文欄がまだ下へとスクロールできる……。つまり、まだメール本文は終わっていないということです。下へ下へとスクロールを続けていると……。


『姉さんが忘れていた時のために、伝えておきます。今日届く荷物は、元旦に、家族でババ抜きをした際に、姉さんが負けた時の罰ゲームのものです』


「あ……」


 書かれていた文章を見て、思い出しました。元旦、家族で集まった際、みんなでババ抜きをしたのです。最終的に、私と弟の一騎打ちになったのですがその時、タクマはこう言いました。


『姉さんが負けたら、今度発売のゲーム、一緒にやってもらいますからね』


 あの時は冗談だと思っていましたが……、どうやらタクマは本気だったようです。

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