Ⅱ章
どうやって街に行くつもりなの? <Ⅰ>
太陽が昇り、深い森の中にも光が差し込んで来た。わたしは服を木に掛けて、川で体を洗っていた。水魔法を使っても良いが、元々水がある方が魔力の消費も抑えられる。
川から上がり、服を着ようとするが、ふと気になり匂いを嗅いでみる。……少し匂うか。そう思い、改めて魔法を使い服を洗浄する。少し付いていた汚れも落ち、匂いも気にならなくなったところで服を着た。
深呼吸をしながら全身に魔力を行き渡らせる。その後、右足のみに力を集中させ、その力を左足へと移動させる。その後に胴、右手、左手、頭へと魔力を循環させる。それを繰り返す。
「……行こう」
日課を済まし、森の出口の方向へと歩き出す。
あれから8年の時が過ぎた。基本的にはこの森の中で生活し、週に一回は近くの街に向かい情報を仕入れたり、服の替えを購入するために取ってきた薬草や獣の皮などを売ったりして過ごしていた。
それなりに大きな街だが、特に街に入るための関所もなく、部外者であるわたしのことも邪険にせずにしてくれていた。
髪の毛の長さは定期的に切っているため変わっていない。身長は伸びたが、街で見たようないわゆる「大人なボディ」というのには遠く、貧相な身体である。
街の停留所につき、乗り物を待つ。一週間後、ディラの街で魔法使いの試験が行われる。ここからは遠いが、5日ほど乗り物に揺られながら進めば到着する。
六本足の獣が乗り物を引いてやってきた。あの獣はババンガという名前だったか。乗客が降りるのを待ってから乗り込む。ここ8年間は利用していなかったが、乗り方が変わってないことに少し安堵する。
3日ほど過ぎたある日、乗り物が急に止まった。何が起きたかと乗客が戸惑っていると、御者から
「乗客の方々。大変申し訳ございません。ここから先の高原で、リタームが通ったことによって道が荒れてしまったとの連絡を受けました。着きましては、別のルートを巡回して次の街に向かうため、到着まで少しお時間をいただきますことをお伝えいたします」
リタームというのは、家三軒分くらいの大きさがあり、体が細長い獣だ。地面を掘りながら進むため、こうやって通行の邪魔になることから業者などに嫌われており、たびたび討伐依頼が出ているらしい。
さて、このままだと遅れてしまうな……と考えていると、乗客の一人が御者に言い寄っていた。
「そんな……このままだと遅れてしまいます……!どうにかなりませんか……?」
見た目はわたしと同じ十八歳くらいだろう。わたしより身長は高く、豊満なものを持っている。甘栗色の髪の毛が腰まであり、おさげにした三つ編みを結っている。魔力が込められている腕輪をしているが、魔法使いだろうか。遅れると言っていたが、もしかしてわたしと同じ目的か。
「お嬢ちゃん、そんなことを言われても、こればかりはねぇ」
「そ、そんなぁ……」
落ち込んだ彼女はトボトボと元いた席に戻っていく。「どうしよう……」とブツブツ言っていた。わたしもこのまま遅れてしまうのは困るので、御者の方に話をすることにした。
「すみません。お金は払うので、ここで降りてもよろしいでしょうか?」
「別にいいけど……ここで降りても前の街も先の街も遠いよ?大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫です」
と言い、お金を払おうとする。しかし、先ほどの彼女のことが気にかかり、話しかけることにした。
「ねえ。突然だけど、もしかしてあなたもディラに向かう予定かしら?」
「え……あ、はい。あなたもですか……?お互い気の毒ですね……間に合わないなんて……」
「いえ、そうでもないわ。もし間に合いたいのなら、わたしと一緒にここで降りない?」
「……へ?」
とぼけた顔をしながらも立ち上がる。わたしと彼女は御者のところへ向かい、次の街までのお金を払って降りることにした。彼女は律儀にディラまでの賃金を払っていた。
バスを見送り、目的地の方向を確認する。3日もあれば、街に着いた上で消費した魔力も回復するだろうかと考えていると、
「ねえ……あなたに言われて降りたけど、私はどうすれば……」
と彼女が声をかけてきた。確かになんの説明も無しに降ろしてしまって申し訳ない気持ちになった。わたしは彼女の方に振り向き、
「じゃあ、今から移動するから掴まって。大丈夫だと思うけど、舌だけ噛まないように気を付けて」
「掴まってと言われても……」
と言いながらも彼女はわたしが差し出した手を取る。それを確認し、改めて向かう方向を定める。そしてわたしは魔法を使用した。
下の方からそよ風が吹き、徐々に体が浮き始めた。急に足元の地面の感覚がなくなると、
「えっ……!?ちょっと待って……!」
と彼女は慌てる。高度が上がり怖くなったのか、わたしの体にしがみつくように体を寄せた。移動するのに弊害が出る訳では無いので構わないのだが……。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
さすがに一直線で向かうとはいえ、速度はある程度出さなければ間に合わない。速い速度で飛ぶのは初めてなのか、彼女は悲鳴をあげている。
「ごめんなさい。でも、こうしないと間に合わないから我慢して」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
……彼女自身の悲鳴でこちらの声は届いたのだろうか。そう思ったが、深くは考えずに飛ぶことに専念した。
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