師匠、いなくならないよね?<Ⅱ>

 ある日、森の中で先ほど狩った獣を食べ終わり、私はいつものように授業を始めた。


「では、改めておさらいだ、リリア。魔法の属性は八種類ある。全部答えるんだ」

「炎、水、土、風、雷、鋼、光、闇。きほん的にだれでも全ぞくせいの魔法を使うことができるけど、しゅぞくによって向き不向きがあるんだよね……?」


エンリはこくりと頷いた。


「そうだ。例えば私やリリアの祖先の【森人類エルフ】は【風属性】の魔法を得意としてきた」

「うん、ほかには【炎ぞくせい】であれば……」

「それ以降は今は言わなくても大丈夫だよ。それよりも次のおさらいだ。魔法は属性以外にも2つの区分がある。それを答えなさい」


覚えていることを全部言いたかったリリアは少し不満そうな顔をしながらも答える。


「……【強化魔法】と【放出魔法】だよね。【強化魔法】は名前のとおりじぶんやなかまの体の強化や、ぎゃくにあいてにたいしてのじゃくたいかがおこなえる。【放出魔法】は体のそとに魔法をだしてつかうんだよね」

「あっているぞ。それじゃ次は……」

師匠せんせい……そんなかんたんなことじゃなくて、そろそろおーよー?だったっけ……新しいことを学びたいよ」


とリリアはさらに不満げな顔をした。出会った頃に比べ表情のバリエーションが増えたことの喜びと、少し反抗的なことを言うようになった一抹の寂しさの二つの感情を抱きつつ、リリアにデコピンをしながら話をする。


「いたっ」

「基礎あっての応用だからね。しっかり復習して疎かにしちゃいけないことなんだよ。……まあ、ここまでしっかり覚えていることだし、これからは応用の授業に入ろうか」

「……いまのデコピン、ぜったいひつようなかった」


 おでこを抑えながらジト目で睨みつけてるリリアをなだめながらこれからの話を始めた。


「そうだね……今後に向けて、より実用的な魔法から順番に覚えていこうか。もちろん、今までしてきた基礎魔法の復習は忘れずにね」

「じつようてき……!そらをとぶやつや、体をかくしたりするやつだよね……!」

「うーん……まずは【強化魔法】の応用として【付加魔法】から学ぼうか」

「【ふか】……このふくや目のやつにあるやつ?」

「そうだ。これから服や眼帯を綺麗なものに変えることもあるだろうし、自分の身に付けるものから順番に学んでいき、それを徐々に他のものにも使えるようにして行くことから始めよう」

「……ねえ、師匠せんせい


と、リリアのほうから話を始めた。


「どうしたんだい?」

師匠せんせい、今までもいろいろ教えてくれたよね……けど、なんだろう……なんか、みたい……」


と言われ、少し面をくらった。しかしすぐに、


「大丈夫だよ」


と訂正した。しかし、リリアの表情は少し不安げだ。


「だって、わたしに村の人とのかかわりをさせたり、森とかでけものをたおして食べるほうほう教えたり……いまだって、師匠せんせいがいなくてもわたしだけでもふくとかをじゅんびできるようにしてるように聞こえて……もしかして、師匠せんせい……いなくなったり……」

「大丈夫だよ」


ともう一度言った。安心させるように、優しく。


「確かに、一人で生きて行くための術を先に教えてるのは事実だ。けど、そうしてるのはリリアがこれから私と離れて一人で旅をすることになったとしても大丈夫なようにしているだけだよ」

「……!!っそんなことしないっ!!」


とリリアが強く否定する。その言葉に少し微笑みながら、話を続けた。


「そう言ってくれるのは嬉しいよ。けど、私と別れて独り立ちする時がいつか来るかもしれない。遅かれ早かれ直面する事柄だ。それだったら早め早めに教えておいたほうが良いと思うんだ」

「でも……」

「ふふ、安心して。すぐにとは言わないさ。そうだね……やはり、自分の【魔法使い証明書】を手に入れるまではまだまだかな」


 【魔法使い証明書】とは、簡単に言ってしまえば「通行証明書」のことだ。大きな街や歴史的価値のある場所など、無料で入るための通行証明が必要になって来る地域がある。その人が「トラブルを起こさない安全な人」かを証明するために発行されている。それの魔法使い用ということだ。これを持っているだけで入れる建物とかも変わって来るので、見聞できる範囲が増えるということだ。


「まだ、いっしょにいてもだいじょうぶ……?いなくなったりしない?」

「ああ、いなくなったりなんかしないよ。教えたいことはまだたくさんあるからね。むしろ、音を上げずについてこれるかな?」

「ねを……あげる?」

「ああごめんごめん。つまり、これからもたくさん大変なことが起こるかもしれないけど、逃げ出さないかなってことだよ」

「だいじょうぶ……「どんとこい」ってやつだよ……」


土人類ドワーフ】がよく使っている単語を得意げに言う姿を見て私はまた微笑み、魔法の話に戻った。

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