師匠、いなくならないよね?<Ⅰ>

 ハツシ村から旅立ち、エンリはリリアに魔法の基礎を始め、様々な物事を教えながら各地を訪れた。


 村では使う機会もなかったことから、リリアの魔法に対する知識も技術もからっきしだったが、しっかりと学んでいき、徐々に基礎は覚え、使うことができるようになった。


 旅立ちの際、リリアには私と同じようなフードを身に纏わせ、左目には魔法陣があしらわれた眼帯をつけさせた。これらには隠匿系の魔法をあしらっており、違和感のないように存在をぼかしている。


 リリアの髪の毛の一部と左目は【森人類エルフ】の特徴が出ているが、特に左目には【森人類エルフ】の力が凝縮されているのか、魔法を使うための力である魔力が集まっており、まだ幼いリリアの体から漏れ出している。


 そのため、眼帯には隠匿魔法と共に魔力の噴出の抑止魔法をかけている。これをつけていないと普通に生活する分には問題ないが、実力のある人や、鋭い神経の獣には気づかれてしまうからだ。


 【真人類オリジン】の街や村にはよく訪れた。魔法の指南はもちろんのこと、リリアに人と交流する機会を与え、その地方特有の文化に触れさせたりした。


 それ以外の種族の生活域にも行ったことがある。【真人類オリジン】以外は生物としての性質上森の奥深くや洞窟の中、乾燥している地域など、局所的な場所でしか生活ができなかったりする。これも、【真人類オリジン】に比べて繁栄が少ない要因だろう。


 【森人類エルフ】の村にもいくつか巡った。そこで自分の師匠が【森人類エルフ】の中でも一番偉いことを知り、リリアが放心したこともあった。【森人類エルフ】の人々にはリリアのことを説明し、受け入れられてる。幼いリリアのことを我が子のように可愛がる人もいた。


 長の仕事として、【真人類オリジン】以外の7種族の会議にもリリアを連れて行ったこともある。最初は宿で待たせようかとも思ったが、これも勉強のうちだと思い参加させた。


 結果的には失敗だった。他の種族のものからは、「幼い見た目なのに【森人類エルフ】の長と一緒にいるのはなぜだ」と奇異な目で見られ、リリアに勝負をふっかけようとする輩もいた。リリアも怯えてしまい、それ以降の年の会議にはリリアを連れていくことはなくなった。


 森や山の奥や、洞窟や謎の遺跡を巡り、魔法の実践と称して危険な獣との実践も体験させた。自分で食べ物を手に入れる術を教え、自然での生活の方法を伝えた。まだ幼いながらも、駆け出しの冒険者や狩人が苦戦するような相手にも勝てるようにはなった。


 様々な所に連れて行き、いろいろな物事を教え、体験させた。時々、このままリリアを連れ回すだけで大丈夫かと不安になることもある。リリアは村での経験から自分の意思を表に出せてないだけで、本当は迷惑なのではないのか、と。


 それでも出会った頃に比べ、少しずついろいろな表情を浮かべ、話したいことを自分から話すようになってきている姿を見るに、そんな疑問は杞憂だと思うことにした。


 そんな日々を過ごしながら、約3年の月日が流れた。

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