第5話初めての発情期(side 伊織)  ※※※

 獅子堂司を初めて見たのは、獅子堂学園のパンフレットだった。

 見事入学試験に合格し、その証として段ボールで届いた真新しい制服を大喜びで取り出していた時、一緒に入っていたものの一つだ。

 僕は何も考えることなく、その存在に気づいて思わず手に取ってしまった。

 表紙には学園の代表として、現生徒会長であろう生徒の写真とその生徒の名前が端に記載されていた。

 そう、どの学校にもあるような、普通の学校紹介パンフレット。

 なのに、無知だった僕は手に取ってしまい、それが後悔することになるなんて、思ってもいなかったのだ。

 獅子堂司。

 僕は彼の写真と名前を認識した瞬間、異常なほどに胸の動悸が激しくなり、急に身体全体が熱を持ち始めたのだ。

「な、んだ……、これ……」

 僕は自分の身に何が起こったのかわからないまま、急な発熱で頭がぐらぐらとなり、眩暈がしたかと思うとその場でドンッという鈍い音とともに座り込んだ。

 ずっと持っていたパンフレットに、思わず力を入れる。

「ぁん……、んん……」

 思わず口から声が漏れる。

 僕の部屋から聞こえた物音に異変を感じた母が、僕の所に飛んできたことにさえ気づかないほど、何も考えられなかった。

「伊織? どうかしたの? 大丈夫? ……もしかして、発情期?」

「そう……み、たい……」

「……わかったわ。私は非常食とかタオルとか必要なもの用意するから、伊織はベッドで寝てなさい」

 状況を察した母は落ち着かせるような声で言い、僕をベッドへ誘導した後、潔く部屋を出て行ってくれた。

 その時が僕の初めての発情期だった。

 僕は病院から既にオメガであることを診断されてはいたが、発情期が全く来なかったために、本当はベータではないのか、と自分の第二の性に疑問を持っていた。

 しかし、それは間違いだった。

 だって、こんなにも……、僕の身体は熱を持っている。そして、その熱を冷ますための何かを、誰かを身体が欲しているのだから。

「うぅ……、んん……」

 僕は我慢できなくて、自分のモノに手をかけた。

 適度に処理はしていたが、いつもとは比べものにならないほど熱を持っていた。

「……ぁ、……あぁ」

 手を少しずつ動かし始める。

「……んん、……んぁ……」

 僕は無我夢中で手を動かした。

 だんだん硬さが増してきて、手の動きも大胆になり、やがて限界が来た。

「ああ……あ、あんっ……ん……んん」

 限界がきて先っぽを擦った瞬間、そのまま精を吐き出してしまった。

「はぁ……、はぁ……は」

 一瞬すっきりはしたものの、僕のモノはまだ熱を持っていて、硬さも取り戻していた。

「いやだ……、やだ、こんなの……。僕、変だ……」

 なぜか悲しくなって涙が零れた。

「だ…れか……。誰か、助けて……」

 その後も僕は泣きながら、誰にも届かな助けを求めて、初めての発情期を自室で過ごした。

 発情期は一週間も続いた。



 

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