夢に翔ける
みやぎ
第1話
絶対ぇ、無理。
注文を受けたその場から。注文ついでの言葉の端から。
何の迷いもなく楽しそうににっこにこしながら次々と花を選んで。
するするするー。
くるくるくるー。
で、あっという間に、花束の出来上がり?
いや、無理。絶対ぇ、無理。一生できる気がしねぇ。
やっぱ妖精だよ。
花の声が聞こえるって言ってたしな。
妖精だからできるんだよ。
そうだよ。うん、そうに違いねぇ。
「しょーちゃん、あの、すっごい邪魔なんだけど」
間近でガン見する俺に、邪魔だってば!!って、花の妖精さん…………いや『甲斐生花店』の店主、樹さん、
「………はい」
すごすごと退散する俺は、花の専門学校に通う不器用なアルバイト、
何でか昔から花が好きだった。
お前がかよ?似合わねぇよ!その不器用さでかよ!?
ツレにも親にも弟妹にも言われたよ。
そんなの自分が一番知ってるよ。
でも好きなんだ。好きなんだから、しょーがねぇ。
何とか親を説得して、2年制の花の専門学校に通い始めた俺に、運命の出会いが待っていた。
家から通えなくもないけど、通うにはちょっと不便で、入学してからどっか近くにいいとこねぇかなって見つけたのが、一階がテナントの昭和なハイツ。
何回か見たことあった。
テナントは感じのいいおじさんおばさんがやっていた花屋。
昭和ちっくで安くて小汚いこのハイツに決めた理由がそれだった。それがなかったら多分違うとこ選んでた。
だってその花屋の花はいつもおじさんおばさんの愛情をいっぱい浴びてて、どっかのでっかい花屋の花とは違って見えたんだ。
なのに引っ越してきたらシャッターは閉まってて開く気配ゼロ。
自分のタイミングの悪さに正直腹が立った。
もっと早く引っ越して来てれば!!って、何度言ったか分かんねぇ。
でも、花の神さまは俺を見捨てなかった。
しばらく振りに開いたシャッターの向こう。
そこにこの。
超絶美人で天才フローリストの樹さんが居たんだからな!!
樹さんは先代『甲斐生花店』の息子さん。
30才って言ってたような気がするけどそうは見えねぇ。
薄い茶色の髪にゆるーくパーマをかけてて、黒目がちな優しい目。キレイに通った鼻筋。何でかちょっとエロく見える唇。頭ちっさくて手足長くて、背は俺と同じぐらいだけど、雑誌やテレビから出てきたモデルみてぇ。
その樹さんが長年続いていたこのお店を継ぐって。
俺はそう聞いたその日に雇ってくれと頼み込んだんだ。
樹さんはとにかく美人。超絶美人。男だけど。
『甲斐生花店』の売り上げは、樹さんのファンによって成り立ってる。
と、俺は信じてる。
「しょーちゃん、配達して欲しいって。伝票記入してもらって」
「あ、はい」
樹さんはキレイ。樹さんは天才。
本当はこんなちっぽけな生花店で働くような人じゃねぇ。
でも。
居て欲しい。
居てくれなきゃ、困る。
「しょーちゃん、伝票~」
俺は不器用な専門学校生。
樹さんとの年の差実に10才。
「樹さん、俺今日カレー食いてぇ」
「しょーちゃん、今仕事中!!」
「はーい」
『甲斐生花店』2階、ハイツの隣同士に住む俺たち。
小幡翔太。男同士が何のその。
ただいま樹さんに、猛烈アタック中。
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