第46話 チート発動!

 田中さんと二人で走って教室に戻ると、タクマはもちろんのこと、心晴さん、アーヤ、陰山、そして雪村先輩まで揃っていた。


「どうしたの、鈴木くん。いきなり連れていかれたからみんな心配してたんだけど」

「詳しい説明はあとだ。タクマ! 貴船さんが連れさらわれた! どこに行ったか調べられないか」

「貴船さんが!? どういうことですか!?」


 同じ生徒会の後輩が拐われたと聞き、雪村先輩が動揺する。

 しかしタクマは冷静に鞄からタブレットを取り出して操作し始めた。


「時間は?」

「ついさっきのようだ」


 タクマのタブレットには学校のあちこちの場所が写し出されていた。

 学校の各所に隠しカメラを仕掛けているのだろう。

 女子トイレとか更衣室はないみたいだから多めに見てやろう。


「いた!」


 録画分を巻き戻して確認していると、校舎裏でラチられる貴船さんの姿を見つけた。

 更に連れ拐われる場面を数ヶ所発見することが出来た。

 それを時系列的に並べて足取りを辿ると、グラウンドの端に繋がった。


 慌ててみんなで移動したが、当然そこに貴船さんやバスケ部のエースの姿はなかった。


「ここから学外に逃げたのか」

「どうしようっ……」


 もう一人のメンタルケア人、田中舞衣さんは絶望で青ざめていた。

 学校の裏手は藪になっており、ここから足取りを探すのは困難だった。

 このピンチを救ったのは意外にも陰山だった。


「この辺りで人を監禁する場所なら心当たりがある」


 やけに物騒なことを言って草を分け入っていく。


「ここ」


 五分程進むと目の前に蔦が絡まる倉庫が現れた。


「昔この辺りを探索してて見つけたの」


 足音を殺して近づくと中から人の気配を感じた。

 恐らくここにいる。

 親指を立てて「ナイスだ、陰山」と感謝を告げた。


 そしてふと思い出した。

 ここはかつて陰山が闇落ちした際に僕を監禁した場所だった。

 そして陰山以外が利用したところを見たことがない。

 陰山が仲間としていてくれなかったらここに辿り着くことは出来なかっただろう。


「貴船さん、大丈夫ですか!」


 責任感の強い雪村先輩は中の確認もせずに飛び込んでいく。

 しかしその判断は結果として正しかった。


 バスケ部のエースはナイフを振り上げ、今まさに貴船さんを絶命させようとしているところだった。


「やめなさい!」

「うるせぇ! 止めるな!」


 ナイフを持った相手に一瞬怯んだ雪村さんだったが、相手も驚いている隙に飛び掛かった。


「離せよ、こら!」

「きゃあっ!!」


 しかし相手は身長190cm近くの巨体だ。

 呆気なく振り払われてしまう。


「ちょ、鎧亜がいあ! なにしてんのよ!」

「ア、アーヤ」


 アーヤが怒りに震えた顔で近づいていく。

 どうやら二人は顔見知りのようだ。

 鎧亜と呼ばれた彼は明らかに動揺していた。


「女の子に暴力振るうな!」


 アーヤは怒鳴りながら鎧亜の股間を蹴り上げた。


「ぬぉおおっ!」


 端から見てても痛そうな一撃だった。

 鎧亜はその場に崩れ落ちる。


 その隙に心晴さんは貴船さんを救い出していた。


 こうして間一髪、僕たちは闇落ちヒーローの暴走を食い止めることが出来たのだった。



 警察がやって来て鎧亜が連行される。

 騒動に紛れて僕と田中さんと女川先生は

 学校近くの公園に移動していた。

 警察沙汰になってしまったけど惨劇は回避できたので時は巻き戻されずに済むそうだ。


「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」


 田中さんは何度も僕に頭を下げる。


「僕はなんにもしてない。全てはがしてくれたことだよ」


 謙遜でもなんでもない。

 文字通り僕はなんにもしていないのだから。


「しかしすごいわね。負けヒロインや嫌われキャラを駆使して世界を救うなんて。まさにチートね」


 女川先生はあきれ半分、感心半分で笑っていた。


「とにかくこれで全て終了したわ。お疲れ様」

「え、じゃあ?」


 僕と田中さんは緊張しながら女川先生の顔を見つめる。


「ええ。元の世界に帰れるわ」

「やったー!」


 僕と田中さんは抱き合って喜ぶ。

 まともに会話したのはつい数時間前だけど、僕たちは何年も共に戦った仲間のような絆が生まれていた。


「それじゃ元の世界に帰るわよ」

「え? 今すぐですか?」

「ええ、そうだけど?」


 お別れのひと言も言わずにこの世界を去るのは、あまりにも寂しかった。

 先生も僕のそんな心中を察してくれているようだった。


「残念ながら自動に元の世界に戻ってしまうわ。もう止めることはできない。お別れが言いたいならすぐに伝えてきて」

「分かりました!」


 僕は慌てて駆け出し、みんなが集まっているところへと戻る。



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 次回、最終回です!

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