第42話 完全勝利!?

「生徒会長がストーカーとか前代未聞だな。ネットに流してやろうか?」

「やめて」

「雑誌社に売ろうかな?」

「やめなさい」

「やっぱ警察か?」

「ふざけないで! こんなもので警察は動かないわ!」

「だよなぁ。じゃあこのまま屋上から写真をばら蒔くか」

「や、やめてぇえ! それだけはっ!」


 雪村先輩は地面に落ちた写真を奪われまいと地面にしゃがんで覆い隠す。

 はからずも土下座をしているような格好になる。


「そんな数枚守っても仕方ないですよ、先輩。写真はまだまだ山のようにありますから」


 ポケットから写真の束を取り出すと雪村先輩は僕の脚にすがり付いた。


「やめて。やめてください。お願いしますっ……ごめんなさい」


 ようやく少しは反省したようだ。

 少し可哀想な気もするけれど下手に情けをかけるより今は徹底的に反省させるべきだ。


「こんなことしても賢斗はあなたを愛したりはしない。なんとか服従させたかったんだろうけど逆効果だ」

「でも、どうしても振り向かせたくて……」

「やり方が180度間違ってるだろ。そんなことも分からないのか?」

「分かってる。分かってるけどっ……」


 強がっていても初戦は高校三年生の女の子だ。

 一度崩れると途端に弱気になっていく。


「いつも自分で『高校生として恥ずかしくない生活を』とか『節度のある行動を』って言ってるだろ。自分が実践できなくて、誰がついてくるんだよ」

「はい……すいません」

「ほら、いつまでもそうしてないで」


 手を貸して立ち上がらせる。

 いつも背筋をピンとさせている彼女とは思えないほど猫背になってうつ向いていた。


「やっぱりこのことは先生や賢斗くんに報告するの?」

「やめて欲しい?」

「はい。お願いします」

「甘えるな。先輩は今までどれだけの人に自分の正義を振りかざして傷つけてきたと思ってるんだ」

「ごめんなさい……」


 雪村先輩は僕に叱られてビュクッと震えている。

 もはやすっかり牙を抜かれた獣だ。

 心を鬼にして威圧的に最後の仕上げに向かう。


「もう二度と行き過ぎた正義でみんなの自由を奪わないと約束できるか?」

「……はい」

「声が小さいっ」

「は、はいぃいっ!」


 雪村先輩は可哀想なくらい怯えて背筋をピンとさせる。


「じゃあ今回だけは見逃してやろう」

「ほ、ほんとうに?」

「ただし反省が見られない場合はネットにばら蒔く。学校の裏サイトはもちろん、巨大匿名掲示板にもな」

「そ、それだけは」

「心配しなくていいよ。約束を守ればしないんだから」


 不気味なくらいにこやかに伝えてやる。

 これだけ脅せば反省するだろう。

 優理花の肩を持つ訳じゃないが、校則にばかり縛られていては高校生活が窮屈で仕方ない。


 もちろん雪村先輩の反撃だってあるかもしれない。

 タクマには更なる弱みを握れるネタを探してもらおう。



 教室に戻るとタクマと優理花が待っていてくれた。


「大丈夫だった? ごめんね、私のせいで」

「優理花が人に迷惑をかけて反省するなんて珍しいな」

「失礼ね。私だってよく人に迷惑かけちゃったかなって反省してるよ! 滅多に謝らないけど」


 最後のオチに三人で笑う。


「まあ心配するなって。ちゃんと生徒会長も分かってくれて反省してたから」

「えー、うそ? あの人が? いったい何したのよ!」

「それは秘密。な、タクマ」

「うん。これは言えないよね」

「なによ、男子二人で! 私だけ仲間はずれ?」


 優理花が悔しがる姿も面白い。

 ここ最近の綱渡りのような毎日に訪れた、ちょっとした安らぎのひとときだった。


 ──

 ────



「ねぇ脱ぎ脱ぎブラックジャックしよう!」


 アーヤの唐突な提案に麦茶をぶほっと噴き出す。


「なんだよ、それ」

「ルールは簡単、ブラックジャックをして負けた方が一枚づつ衣服を脱ぐの」

「却下だ、そんなの」

「分かったよ。じゃあ脱ぎ脱ぎポーカーね」

「脱ぎ脱ぎの方が問題なんだよ」


 今日はアーヤのターンの日。

「たまにはまったりお家デートしたい」などというからやって来たらこの調子だ。


「そもそも淑女同盟はどうしたんだよ? 一人だけ抜け駆けするとかルール違反なんだろ?」

「ルールは最後の一線だから。脱ぎ脱ぎはセーフだよ」

「僕的にはアウトなんだよ」


 なんとか普通のトランプにしてもらう。

 その結果、分かったことがある。


「アーヤ、トランプ上手くない?」

「そーお? ま、たまに言われるけど」


 そう言いながらアーヤは手元も見ずに空中でカードを重ねてシャッフルするという、マジシャンなどが行うリフルシャッフルをしていた。


「それだよ、それ! ゲーム自体も上手いけどカードの扱いがプロってるんだよ」

「うちの親がトランプ好きで、小さい頃から教わってたからかな」


 アーヤはなんでもないことのようにピッピッピッとカードを飛ばして僕の前に並べていく。


「ディーラーになりなよ。シャツにベスト着てカジノでカードゲームのディーラーするの。絶対ウケるって」

「なにそれー? なんかやばそうじゃない?」

「そんなことないって。いま国をあげて誘致してるじゃん。怪しい闇カジノじゃないよ。正式なカジノ」


 僕の言葉を一度咀嚼するように顎に手を当てて考える。


「なるほど。それは確かにアリかも」

「でしょ? 目指してみたら? せっかくの特技なのにもったいないよ」

「うん。ありがと」


 アーヤはニカッと笑い、手癖のように高速でトランプをシャッフルする。


 それにしても脱ぎ脱ぎポーカーなんてしなくてよかった。

 これだけトランプ捌きがうまいならいかさまもしてくるに違いない。

 もししていたら今ごろ僕は文字通り身ぐるみを剥がされていただろう。



 ────────────────────



 ひとまず雪村先輩はなんとか撃退に成功?した鈴木くん。


 アーヤの意外な特技も見つけ、夢を持たせることにも成功しました!

 絶好調な鈴木くん。

 さあこの勢いでクリアーだ!




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