第13話 海を閉じ込めたペンダント

 昨夜女川先生からあんなことを言われたので朝の足取りは重かった。


(本当にあの三人は僕に好意なんて持ってるのだろうか?)


 電車を降り、改札を通ると壁に寄りかかり立っている陰山を見つけた。

 彼女は僕を見つけるとススーッと近付いてくる。


「おはよう」

「よ、よう。おはよ」


 陰山は相変わらず表情の変化に乏しい。

 僕に好意を持っているようには見えない。


「これ」


 陰山は鞄から何か取り出し僕に渡してくる。

 海を閉じ込めたような様々な青色で彩られたとんぼ玉のペンダントがついたネックレスだ。


「あげる」

「……これは?」

「私の住んでいた異世界から持ってきたもの。海の魔力を閉じ込めてある」


 ……思い出した。

 以前陰山が『負けヒロイン』になり、闇落ちして惨劇を繰り広げたとき、これによく似たネックレスを賢斗がぶら下げていたことを……


「あ、ありがとう」

「なぜ鞄にしまうの?」

「大切にしまっておこうと思って」

「せっかくあげたんだから身に付けて欲しい」


 陰山は瞳の奥を曇らせてうつ向く。


「わ、わかった! つけるからそんな顔するなよ!」


 慌てて首にかけると彼女は満足そうに頷いた。

 流れでそのまま二人で学校に向かう。


「よく似合ってる」

「そ、そう? ありがと、ははは……」

「そのネックレスは私の眷属の証。魔除けになるから外さないように」

「ケンゾク? まぁ、分かった」


 よく分からないけど逆らうとよくなさそうなので従っておく。


 校門では今朝も生徒会の連中が見張りのように立っていた。


「ちょっと、二年の鈴木くん」


 雪村生徒会長が僕を見つけて近付いてくる。

 隣には例の背筋をピンと伸ばし凛とした一年女子がいた。


「そのネックレス外してください。校則違反です」

「あ、いや、これには理由があって──」

「言い訳無用です。規則には従ってもらいます」

「いや、でも」


 外せば陰山が拗ねるのは目に見えている。

 迷っていると焦れったくなったのか、雪村先輩の手が伸びてくる。


「外さないなら私が外します」


 その雪村先輩の手首を陰山が掴んだ。


「なんですか?」

「これはファッションじゃない。眷属の証」

「ケン……? 何を言ってるのかよく分かりせん。手を離しなさい」

「ダメ」


 実にヤバい空気になってきてしまった。

 登校途中の生徒たちは何事かと遠巻きにこちらを眺めている。


「鈴木くん、おはよう」


 群衆の中から現れたのはタクマだった。


「カッコいいネックレスしてるね」

「お、おう……」


 こんなタイミングで何を言い出すのかと冷や汗が流れる。

 しかし


「か、関係のない人は──」

「このペンダントの中にも写真とか入ってるの?」


 雪村先輩の言葉を遮り、タクマがペンダントに触れる。

 その瞬間、雪村先輩は顔を青ざめさせて立ち去っていった。

 よく分からないが、タクマのおかげでピンチは脱したようだった。


「さっきのあれ、どういうこと?」


 教室についてからタクマに訊ねる。


「僕もあの生徒会長にはさんざんな目に遭わされててさ。それで色々探らせてもらったんだ」


 タクマはにちゃーっと笑って例の手帳を手に取る。


「雪村さんもペンダントを持っててね。その中には『とある人』を隠し撮った写真が入ってるって秘密を掴んだ」


『とある人』とは恐らく賢斗のことだろう。

 どうやらその秘密を握ったタクマは、それを利用して雪村先輩を脅して自由に生活する権利を得たらしい。


「悪いやつだなぁ、お前」

「ふひひ。まあそれで鈴木くんも助かったんだからいいでしょ」

「おう。ありがとな」


 やはり彼を仲間にしておいてよかった。

 ヤバい空気は漂うが頼りになる奴だ。


「なぁタクマ。その写真って賢斗だろ?」


 声を潜めて訊ねるとタクマはビックリしたように目を見開く。


「なぜそれを?」

「まあ僕も色々情報を探ってるから」

「さすがだね。その通りだよ」


 やはり今回も雪村さんは『負けヒロイン』進行しているようだ。

 しっかり食い止めないといけない。


「そう言えば最近生徒会長の隣に背の低い一年生女子いるよね。あれって誰なの?」

「あー、あの子。あれは貴船きふね梨乃りのちゃんだよ」


 聞いたことない名前だった。


「真面目で一生懸命、だけど堅物過ぎないので生徒会の他のメンバーとは違うって評判なんだ。『もっと自由に高校生活を』って訴えてる」

「そんなこと言って雪村さんたちから嫌われないの?」

「そう思うでしょ? でも梨乃ちゃんはすごく仕事が出来るから雪村生徒会長も信頼してるんだよ。春のポエムコンテストも新入生部活勧誘イベントも彼女のおかげで例年にない盛り上りを見せたらしい」

「へぇ」


 入学して間もないのに大したものだ。

 しっかりした見た目だけど、中身も伴っていたのか。


「男子はもちろん女子からも人気だよ。もちろん上級生の男子たちも狙っているって聞くね。ほら、派手さはないけど可愛らしいだろ、彼女」

「まあそうだな」


 僕としては賢斗に惚れて負けヒロインにさえならなければどちらでもいい。

 何となく気になる存在ではあるが、今は注意する必要はないだろう。




 ────────────────────


 謎の少女貴船さんは何者なのか?

 それにしてもタクマは出来る友人キャラです!

 きっとこれからも鈴木くんの唯一の味方として活躍することでしょう!



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