第8話 全力鬼ごっこ

 エンジョイ勢帰宅部の活動は手探り状態ながらまずまず順調だった。

 商店街のマップを作ったり、野良猫を尾行したり、かくれんぼの動画を撮ったり。

 やってることは実に下らないのだけど、高校生が全力でやるとそれなりに面白かった。


 確かに賢斗がいう通り、優理花は『おもしれー女』なのかもしれない。

 なによりそういう訳の分からない子どもじみた活動をする時も飾らず、気取らず、ときに泥まみれや草まみれでも気にせず取り組むのがすごい。



「ねぇ、最近放課後賢斗となにしてるの?」


 少し瞳に陰りを落とした心晴さんが訊ねてきた。


「いや、それは……町の掃除をしたり、動画を撮ったり……帰宅途中に遊ぶというエンジョイ勢帰宅部っていうのをしてるんだけど」

「優理花ちゃんが企画してるの?」

「そ、そのときもあるし、僕だったり、陰山だったり」

「ふぅん」


 他にも女子がいるとアピールするために陰山の名前も出したけど、心晴さんは猜疑心で淀んだ瞳のままだ。

 幼馴染みという絶対的なポジションが優理花に崩されつつあり、焦っているのは間違いないだろう。


「鈴木くんは賢斗に頼まれて、渋々付き合わされてるんでしょ?」

「そんなに強制でもないよ。はじめは面倒だなぁって思ったけど、意外とやってみると楽しいし。あはは……」


 うまくガス抜きしてきたつもりだけれど、やはり心晴さんの病みは徐々に蓄積されてしまっていそうだ。


「そ、そうだ。よかったら心晴さんも一緒にどう? 案外楽しいかもよ」

「え? 私が? いいの?」

「もちろんだよ。誰でも参加オッケーだし! 心晴さんがいてくれた方が賢斗も嬉しいんじゃないかな?」

「そうかなぁ?」


 心晴さんは首をかしげる。

 いつもなら機嫌を良くしてくれるはずの台詞なのに、食い付きがイマイチだ。


「す、鈴木くんも私がいた方が嬉しい?」

「へ? 僕? そりゃもちろん! たくさんいた方が盛り上がるからね!」


 ニッコリと返したが心晴さんはちょっとムッとしたように唇を尖らす。


「鈴木くんにとって私は頭数なんだ?」

「そんなひどいこと思ってないって。本当に心晴さんがいた方が楽しいよ。どうしちゃったの?」

「ううん。ごめん。冗談だよ!」


 心晴さんは発言を掻き消すように手を振って笑顔になる。

 普段冗談など言わない心晴さんにしては珍しい。



「心晴ちゃんも!? もちろんいいよ!」


 さっそく優理花に相談すると二つ返事で入部が許可された。

 一時はちょっと険悪な空気もあった相手なのになんの躊躇いもなく受け入れるところはさすがメインヒロインの優理花だ。器が大きい。まぁ中身はからっぽなんだけど。


 新入部員を向かえたエンジョイ勢帰宅部が向かったのは、学校から見て駅の反対側にある緑地公園だった。

 今日はここでゴミ拾いか、はたまた動画撮影だろうか?


「では今日はここで鬼ごっこをしたいと思います!」

「お、鬼ごっこってなに!? どういうこと?」


 予想外の展開に心晴が声を上げる。

 帰宅途中に遊ぶというフレーズからカラオケに行ったりファストフード店に行くと思っていたのかもしれない。


「心晴ちゃん、鬼ごっこ知らない? 鬼の子が追い掛けてタッチする遊びなんだけど」

「そ、それくらい知ってるから! っていうか子どもの頃は毎日賢斗としてたから!」


 お得意の幼馴染みマウントが炸裂した。

 しかし優理花はまったく気にした様子もなくニコニコしている。


「ずっとやりたかったけど四人じゃすぐ終わりそうだからしなかったんだ。心晴ちゃんが来てくれてよかった」

「本気でするの?」


 心晴さんは早くもあきれ顔だ。


「もちろん本気でやるよ! 全力で逃げて、全力で追い掛けて!」

「……本気ってそういう意味じゃなかったんだけど、まあいいよ。わかった」


 もはや議論を諦めたのか心晴さんが従う。

 じゃんけんの結果、鬼は優理花となった。

 ルールは捕まった人も鬼となるいわゆる『増え鬼』だ。


 優理花が十を数えるうちに逃げなくてはいけない。

 エリアは緑地公園内限定。

 とはいえジョギングを楽しむ人がいるほど広い敷地だ。


 僕は初参加で戸惑っている心晴さんと共に逃げることにした。

 走り続けるのも億劫なので木々に囲まれたところにひとまず隠れる。


「いっつもこんなことしてるの?」


 普段運動してない心晴さんは早くも息を切らしていた。


「まぁね。だいたいこんな感じだよ」

「高校生がすることじゃないよね」


 そう言いながらも心晴さんは少し楽しそうだ。


「本気で馬鹿馬鹿しいことをするというのがこの部のモットーだから」

「陰山さんも普通に参加してたよね。ビックリした」

「普段誰とも話してないもんな」

「別にバカにしてるんじゃないんだよ。でもあんなに自然に打ち解けているのが意外っていうか」


 心晴さんが驚くのも分かる。

 正直陰山があんなに優理花や僕に馴染むとは思ってもいなかった。

 そのとき──


「そこにいるのは分かってるんだぞー。隠れても無駄だー」


 間の抜けた調子で呼び掛けながら優理花がやって来る。

 その声に心晴さんはビクッと震えた。




 ────────────────────



 鬼ごっこというのも本気でやれば意外と面白いですよね!

 まさに小学生のように帰宅をエンジョイする鈴木くんたちがちょっぴり羨ましい。


 そしてここに来てとてもたくさんの方が読みに来てくださってるみたいで、ありがとうございます。

 とても励みになります!

 やはり順位が上がったり、たくさんの人が読んでくださるとモチベーションが上がります!

 これからも鈴木くんのメンタルケア奮闘記をよろしくお願いします!

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