『負けヒロイン』のメンタルケアをするだけの簡単なお仕事です
鹿ノ倉いるか
第1話 『負けヒロイン』のメンタルケア
「どうしたの?」
声をかけると
「
「ごめん。なんかすごく思い詰めた顔をして教室を出ていったから、気になっちゃって」
「大丈夫。なんでもないの。ごめんね」
心晴さんはなんでもない振りをして無理やり笑う。
性格のよさがそのまま形になったような、素朴だけど愛くるしい顔立ちの彼女の泣き顔は見るに堪えない。
「泣いてるのに大丈夫なわけないだろ。無理しなくていいから」
「確かに。さすがになんでもないは言い過ぎだよね」
再び心晴さんは微笑んだが、先ほどのような無理した笑顔ではなかった。
「何かあった? 僕でよかったら話を聞くよ」
「ううん。いいの。言ってもどうにもならないし」
「確かに僕に話してもなんの解決にもならない」
自信満々にそう告げると心晴さんは少し申し訳なさそうな顔をした。
「でも人に話すことで頭の中の整理が付いて落ち着くこともあるよ。問題の解決じゃなくて、心晴さんの心の平穏のために話してみてよ。人形にでも話しかける感覚でさ」
「えっ……うん、ありがとう、鈴木くん」
普段の僕のチャラけたキャラと違うから心晴さんは少し驚いているようだ。
「ほら、どうぞ。聞くしかできないかもしれないけど」
「うん。実は私、
心晴さんは賢斗の幼馴染みである。そして長年片想いをしていた。もちろん片想いをしていることは僕には語らなかったけど。
最近やって来た美少女転校生と賢斗が急接近してきた。
焦った心晴さんは必死に賢斗の関心を引こうと手を尽くし、それが逆にうざがられ、勢い余って美少女転校生にちょっとした嫌がらせをしてしまい、それが賢斗にバレて叱られてしまった。
そういう流れだった。
ありがち。あまりにありがちなサブヒロインムーブだ。
「最低だよね、私。賢斗に嫌われて当然だよ」
心晴さんは自嘲して爪先で地面の小石を軽く蹴っ飛ばす。
かなり落ち込んでいるようだが、まだ『病んで』いるとまではいえないようでホッとする。
「大丈夫。賢斗はちゃんと分かってるよ。心晴さんが本当は優しい人だって」
「でも賢斗、すごく怒っていた」
「それは心晴さんが嫌いだからじゃない。むしろ優しい心晴が好きだから叱ったんだ」
「優しい私?」
「ああ。以前賢斗が言ってたよ。心晴は面倒見がいいし、すごく優しい奴だって。心晴のお陰で親が離婚したときも、ペットが死んだときも立ち直れたって」
そう伝えた瞬間、心晴さんは驚いた表情になり、徐々に笑顔へと変わっていく。
「賢斗、そんなこと言ってたんだ」
「それだけじゃない。ほかにも──」
そこから三十分ほどかけてメンタルケアをして、ようやく心晴さんは元気を取り戻した。
これでひとまず大丈夫だろう。
「はぁー……疲れた」
心晴さんが立ち去ってから安堵のため息を漏らす。
「さすがは鈴木くんね」
ぬっと現れたのはうちのクラスの担任である
「わっ!? ビックリした。急に現れないで下さいよ」
「順調に『負けヒロイン』ちゃんたちのメンタルをケアしてくれているようね」
「そりゃまあ、仕事ですし」
「うふふ。責任感が強いのね」
先生は僕のほっぺたをツンツンと突っついてくる。
「やめてください」
「でもまだ一学期。気を抜いたらダメよ」
「分かってますって。それより本当に一年間メンタルケアを成功させたら元の世界に戻してくれるんですよね?」
「約束は守るわ」
「絶対ですよ」
僕、鈴木
ちなみに転移前は高校生ではなく27歳のサラリーマンだった。
10歳も若返ってこの世界に転生させられている。
元の世界に帰るためには主人公である五城賢斗にフラれた『負けヒロイン』たちのメンタルケアを一年間しなければならないらしい。
「でももし失敗したら」
「負けヒロインに殺されて一学期のはじめからやり直しさせられるんですよね? もう分かってますから」
「そうよ。頑張ってね。あなたが頑張らないと、私も帰れないんだから」
女川先生はクスッと笑い、からかうように僕の鼻先にちょんと触れて立ち去っていく。
このゲームの世界の『負けヒロイン』たちは放っておくと心を病んで闇堕ちし、最終的には殺戮を始めてしまうのだ。
どうやらプログラムのバグらしい。
それを阻止すべく、僕はここに呼ばれたそうだ。
そして女川先生はこのイカれたゲームの修正をするプログラマーらしい。
とはいえ既に六回も失敗して、そのたび『負けヒロイン』に殺されている。
先ほどの心晴さんには二回目の時に殺された。
料理好きの彼女らしく、包丁で腹部をめった刺しにされたのだ。
あのときの恐怖と痛みを思い出して身震いする。
「マジであの美少女転校生さえ現れなきゃなぁ」
美少女転校生、
彼女が現れるとそれまで恋愛に無頓着だった五城賢斗が次第に恋に目覚めてしまう。
それにともないサブヒロインたちが傷つき、闇堕ちしてしまうという展開である。
優理花がメインヒロインなのだから仕方ない流れなのだけれど、僕には死の女神にさえ見えてしまっていた。
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長らくお待たせしてすいません。
ようやく新作をアップすることが出来ました!
今回はギャルゲーに転移させられた鈴木くんが『負けヒロイン』たちのメンタルケアをして一年過ごすというお話です!
精神年齢が27歳の彼にとってJKの悩み相談なんてお手のもの!というわけにもなかなかいかず、悪戦苦闘します。
そして気がつけば負けヒロインたちは鈴木くんのことを……
可愛い女の子にグイグイ迫られながらも奮闘する鈴木くんにご期待ください!
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