第132話 虎の尾
転移の魔道具を手に入れることが出来たので、ダンジョン攻略をマイペースにこなすことが可能になった。
銀色のバングルは左手首に装着する。
使用者の身体に合わせてサイズが自動調整されるのが便利だ。さすが
ちなみにコテツはバングルを首輪のように装着している。
苦しくないか心配だったが、ダンジョンの外に出るや否や、収納していたので、やはり気にはなってはいたのだろう。
んにゅ、と何やら不満そうに鳴きながらもダンジョン攻略には必須品だと理解しているようだった。
うちの子、賢い。
アンハイムダンジョンに拠点を置いて、黄金竜のレイと合流するまで路銀とポイントを稼ぎまくろう計画は順調だった。
転移の魔道具のおかげで、行き帰りが随分と楽になったため、存分に魔獣を狩ることが出来た。
二十階層以外になると、買取額の美味しい魔獣や魔物が多くなるので、二人と一匹は張り切って倒していった。
オークやハイオーク系の肉は確保。使い勝手が良いし、何より美味しいので!
ボア系、ディア系の魔獣の肉は在庫がたんまりと【アイテムボックス】に眠っているため、ギルドに売ることにした。
魔石や皮、牙などの素材も特に必要ないので売却かポイントに変換していく。
「魔道具がドロップするのは三十階層より下だったか」
「今日中に辿り着けそうですね」
シェラはすっかり逞しくなったと思う。
レベルは70に近く、弓や風魔法などの遠距離攻撃だけでなく、ショートソードでオークの喉元をさくっと掻っ切れるほどには強くなった。
「トーマさんが教えてくれたおかげですよ。まさか、この私が【身体強化】を使えるようになるなんて……!」
朝から夕方まで、みっちりダンジョンで稼いできた後。家に帰ってからは毎日二時間ほど、シェラに請われて魔法の効果的な使い方について教えてやったのだ。
素質があったようで、シェラはすぐに魔力循環のコツを掴み、【身体強化】を覚えた。
それからは、弓や風魔法での攻撃だけでなく、接近戦でも魔獣を倒せるようになった。
さすがに負けてはいられなくなり、俺もなるべく積極的に魔獣を倒していき、稼ぎは日に金貨三枚前後に落ち着いている。
日本円にすると三十万円ほどの儲けだ。等分しても、一人各十万円は稼いでいることになる。
「まぁ、俺は今のところ金銭には困っていないからポイントに交換するかな」
行商人に扮して、こつこつ稼いでおいた儲けはまだ残っている。
このペースで稼げるなら、1週間で金貨一枚の土地の賃料も余裕で払えるな。
「宿代は掛からないし、肉はダンジョンで手に入る。野菜は大森林で収穫しておいた分がまだあるし……」
「ニャッ」
「え? 庭が余っているから、畑を作りたいって? 別にいいけど……」
何と、暇を持て余したコテツが家庭菜園をしたいと頼んできた。
土地も余っているし、と気楽に頷いてみたところ。
「おお……さすが
「すごいですっ! 一晩で畑が出来てます!」
夜行性のニャンコが何やらゴソゴソしているな、とは思っていたが──
翌朝、庭に出て驚いた。
シェラが大喜びで叫んだ通りに、庭に畑があった。しかも、既に芽を生やした状態で。
愛猫に促されるまま水魔法で畑に水やりをして、おまけの光魔法も披露する羽目になってしまったが、猫は可愛いので仕方ない。
お礼として肉球を触らせて貰えたので満足だ。
そんなわけで三日で収穫できるほどに育った新鮮な野菜を皆で美味しく食べています。
「果樹を植えるのはダメだぞ。ここの土地は借りているだけで、レイと合流したら返さないといけないからな?」
「ミュ……」
「そんなカオしてもダメ! 果物が食いたいなら、ダンジョンで採ってきてやるから」
さすがに果樹園を作ることは阻止した。
せっかく立派に育った果樹を、街を離れる際に引っこ抜くことになるのは辛い。
幸い、ダンジョン内は魔素も豊富で、森の恵みを採取する場としては申し分ない。
狩りの合間に美味そうな果実を見つけたら、二人と一匹でせっせと採取している。
ついでにポイント還元率も高い薬草も見逃さずにゲットした。これが意外と美味しいのだ。希少であればあるだけ、ポイントが高かったりする。
宿代、食費と無駄な出費を抑えられたおかげで、貯金は順調。ポイントも着々と貯まってきている。
「うん、いい感じだな。これぞ王道なファンタジー生活って気がする」
異世界転生物語的には、かなりイージーな部類ではなかろうか。
何せ、俺には便利な
しかも、日本産の質の良い品物が手に入るので、ラグジュアリーな生活を送れている。
さすがに申し訳なく思い、稼いだポイントで勇者活動を頑張っている従弟たちには定期的に差し入れを送っていた。
(アイツらも、魔道具の
ほっと、胸を撫で下ろした。
何せ、三人から聞かされる待遇や環境が酷すぎたので、ずっと心配していたのだ。
高級宿よりも日本から持ち込んだテントの方がよほど快適だとぼやいていたことを思い出す。
日本製の寝具類のおかげだが、だからと言ってずっとテント泊は気の毒だった。
(ベッドや布団、部屋着を送ってからは愚痴は少なくなったけど。あんまり過酷なようだったら、タイニーハウスを送ろうと思っていたんだよな……)
ポイントは相当必要になるが、ストレスは心身にダメージを与える。せめて、ゆっくりと休める空間を提供したいと考えていたのだ。
だから、ダンジョンで魔道具タイプの拠点を手に入れることが出来たのは朗報だった。
なのでマジックバッグとの物々交換として、家具類をかなりサービスして送ってやったのだ。
彼らが勇者生活に集中できるのならば安い買い物だ。
「……順調なのは良いけれど、ダンジョンでポイントを貯めつつ、俺もレベルを上げないとな。アイツらの助けになるように、邪竜側の魔族を見つけたら倒していきたいし」
ついでにシェラのレベル上げを手伝い、幻獣として育てていけば、勇者の助けになるはずだ。
シェラが幻獣から聖獣に育てば、
どう育てれば良いのかは謎だが、とりあえずはレベル上げを手伝っている。
ダンジョンのおかげで、それも順調。
【身体強化】を覚えたので、次は便利な【生活魔法】を教え込もう。特に浄化!
小川を見つけるなり、「服と体を洗いますね」と笑顔で服のまま飛び込まれた時には絶望したものだった。
今はこまめに俺かコテツが
病気の予防にも大事と教え込んで、手洗いは徹底させていた。
自分で浄化が使えるようになれば、何かあった時でも安心だ。
うっかりダンジョンで逸れてしまっても、【
生活に直結する【生活魔法】はもっと評価されてしかるべき魔法だと真剣に思う。
◆◇◆
そんなわけで、本日もお仕事だ。
「じゃ、ダンジョンに行くぞー」
「準備できました!」
「ニャッ」
朝食と一緒に作っておいた弁当を、シェラは大事そうに自分のマジックバッグに収納する。
コテツもウキウキと【アイテムボックス】へ自分用の弁当を仕舞った。
そうして、出向いた冒険者ギルド。
ダンジョンに入るための列に並んでいる時に、その騒動に巻き込まれた。
「随分と可愛いのがいるじゃねーか」
「小さいの二人と一匹か」
「そんな細腕じゃ、ダンジョンで生き残れないぞ」
背後から聞こえてきた不快な声音はきっぱりと無視した。
冒険者はピンキリだ。上級を目指す冒険者は立ち振る舞いを気を付ける者が殆どだが、中にはゴロツキと変わらない輩もいる。
相手にするだけ時間の無駄だとスルーしていたのだが。
「おい、聞いているのかよ。お嬢ちゃんたち」
「俺らが親切にも守ってやろうって言ってるんだから、女は黙って従えって」
その発言は、許せなかった。
「…………あ゛?」
誰が、お嬢ちゃんだって?
◆◆◆
ギフトありがとうございます!
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