第130話 アンハイムダンジョン 4


 十階層は平原フィールド。

 ぽつりぽつりと遺跡のような建物が散らばって見える。

 この階層に出没するのは、ゴーレムだ。低ランクのロックゴーレムなため、倒すのは容易い。

 とはいえ、シェラの得意な弓や風魔法との相性は悪いため、俺かコテツが倒した方が効率が良いだろう。

 攻撃魔法を使えば簡単だが、せっかく大森林の上級ダンジョンで手に入れた武器があるので使ってみることにした。

 ダンジョンで手に入れた魔道武器は、剣や槍、斧、弓、短剣の他にも打撃向きの物も幾つかあった。

 【アイテムボックス】の収納リストを眺めながら、思案する。


「メイスも気になるけど、気持ち良くぶっ壊すなら、やっぱりハンマーだよな」


 選んだのは、戦鎚ウォーハンマーだ。

 槌状の柄頭を備えた打撃武器で、試しに軽く振ってみたが、意外と使いやすそうだった。

 魔道武器なので、魔力を流すと属性の魔法を放つことも可能。

 鑑定してみたところ、この戦鎚は雷属性だった。


「ゴーレムを倒すにはちょうど良いかも」


 雷を纏うハンマーとは、まるで北欧の神をモデルにしたヒーローそのものだ。

 気分良く振り回していると、羨ましそうな視線を感じた。シェラだ。


「私の風魔法、ウインドカッターの威力じゃ、ゴーレムの核を壊すのは難しそうです……」

「うん、シェラはコテツと待機な。ドロップアイテムを集めてくれると助かる」

「拾いますっ!」

「あと、フロアボスを倒す時には攻撃に参加しないと、転移の魔道具が手に入らないらしいぞ。ダメージがあまり通らなくても、とりあえず攻撃してくれ」

「はいっ!」

「ニャッ」


 コテツは俺の肩に乗っていれば、そのまま転移できそうだが、自分の物が欲しいようだ。

 やる気があるのは良いことである。


「じゃあ、行くか」


 レベルアップの恩恵で、ひょろっとした頼りない体型のハイエルフの身体でも戦鎚は軽々と担げている。

 【気配察知】スキルで周辺を探ると、遺跡らしき建物跡の辺りに反応があった。遺跡の番人として、ゴーレムが在るのかもしれない。


(さすがに、こんな低階層には宝箱はないか)


 上級ダンジョン──それも、人が近寄ることのない大森林内のダンジョンで手付かずの宝箱を回収し放題だった記憶があるため、つい期待しそうになるが、ここは大勢の冒険者が集まるアンハイムダンジョンの十階層。

 まずは今日のところの目的である、転移の魔道具人数分を手に入れなければ。

 戦鎚を肩に担ぎ直すと、さっそく目に付いたゴーレムに襲い掛かった。



◆◇◆



 ロックゴーレムからドロップするのは、土属性の魔石だけで、あまり旨みはない。

 とはいえ、魔石は魔石。巨大な砦を築いたり、都市に石畳を敷く際などには重宝するために冒険者ギルドは積極的に買い取ってくれる。

 フロアボスは特殊個体のアイアンゴーレムだったので、大きめの魔石と鉄の塊がドロップした。

 アイアンゴーレムが落とす鉄は質が良いため、これも買取り対象だ。ずしりと重く、嵩張るが、【アイテムボックス】持ちには関係ない。


「高く売れるといいですね!」


 十階層ではドロップアイテムを拾う担当で、魔獣を狩ることができなかったシェラのために、この鉄の塊は売ることにした。

 にこにことご機嫌なシェラが手にしたのは、フロアボスが落としてくれた目的の品。

 転移の魔道具が三個、手に入った。


「これで、明日からの探索が楽になるな」


 何度も一階層からの再チャレンジが必要なダンジョンだったらと考えると、ぞっとする。


 アンハイムダンジョンの転移の魔道具は、バングルだ。銀製の細くシンプルな腕輪状になっており、邪魔にならないデザインだと思う。


「目的は達したし、今日は帰ろう」

「そうですね。このバングルも使ってみたいし、帰りましょう!」


 目の前には、十一階層に続く扉があったが、扉に手を触れてバングルに魔力を注いで念じた。


「一階層の入り口前へ」


 浮遊感を覚えた次の瞬間には、既にダンジョンの入り口前に立っていた。

 転移の魔道具は、本当に便利だ。

 すごいすごいと騒ぐシェラを宥めながら、買取りカウンターへ向かった。



◆◇◆



 朝から夕方まで潜って、稼いだ金額は銀貨三枚ほど。日本円に換算すると三万円だ。二人と一匹の稼ぎのため、日給にすると一万円になる。

 命を賭けての仕事の報酬としては微妙な金額だが、下層へ潜るほどに儲けることができるので、これだけ冒険者が集まっているのだろう。


(まぁ、俺たちにはギルドで買い取って貰った分の儲け以外にも、【召喚魔法ネット通販】で使えるポイントも貯まったから)


 微々たるものだが、それでも新しく我が家となった二階建てコテージのカーテン代にはなった。

 カーテンなしの窓は、微妙に落ち着かなかったので、帰宅してすぐに取り付けた。

 俺の部屋は紺色のシンプルな無地のカーテンを。

 シェラは悩みに悩んで、自分の瞳の色と似たアクアマリンカラーのレースのカーテンを付けることにしたようだ。

 今のところはそれぞれの寝室のカーテンを二点だけ購入した。なにせ、ポイントが心許ない。

 何か急に必要な買い物があるかもしれないので、しばらくはポイント貯金を頑張るつもりだ。

 美味しい食事にこだわりがある自分たちだが、幸い調味料や各種ソース類など食材は揃っているので、自炊に困ることはない。


「……さて。今日の夕食を作るか」


 メニューは決まっている。

 九階層で手に入ったウナギを使う。

 白焼きも嫌いではないが、ここは甘辛いタレを絡ませて炭火で焼く蒲焼きがベストだろう。

 前世、日本で見た動画を思い出しながら、ウナギを捌いていく。

 中骨あたりまで首筋を切り、目打ちで固定。後は包丁の先を使って背開きをしていく。

 滑りが気になるが、心を無にして尾の先端部分まで切り開いて内臓を取り除いた。

 中骨を慎重にそぎ取り、頭と胴体を切り離すと、残りの骨や汚れを丁寧に落としていく。

 背ビレを引き剥がして、フィニッシュ!


「初めてにしては、結構頑張った方じゃないか、これ」


 自画自賛しつつ、残りのウナギも同じように捌いていった。


「で、後はバーベキュー用のグリルで焼く! 炭火がマスト!」


 炭は百円ショップでも買えるのだ。地味に助かっている。

 一匹丸々焼くのにも心惹かれるが、食べやすいように切り分けて焼くことにした。

 鉄串を刺して、皮目から焼いていく。

 両面にある程度火が通ってから、蒲焼きのタレを塗ってじっくりと焼いた。

 ちなみに匂いが部屋に籠るのが嫌で、庭で焼いています。めちゃくちゃ良い匂い。

 家の中で待機していたはずのシェラが堪らず、外に出てきたほど。


「トーマさん……この匂い、ヤバいです」

「ヤバいな。でも、じっくり焼いた方が美味いから我慢だ。ステイだ」

「ううう……」


 シェラには土鍋で炊いているご飯の見張りを頼んでいたのだが、後をコテツに頼んで覗きに来たらしい。

 じっくりと焼き上げると、ウナギから脂が滴り落ちる。これがまた、堪らない。

 腹がきゅうきゅう痛むほど、切なく鳴いて訴えてくる。だが、我慢。


「よし、完成!」


 焼き上げたウナギをキッチンに運び込み、炊き立てのご飯を丼鉢によそい、ウナギを載せた。

 

「せっかくだから、追いタレ!」


 たっぷりと追加のタレを絡めて、皆で手を合わせた。いただきます!


「うっ、んまー! みっちり肥っていたから期待はしていたけど、脂が乗っていて、めちゃくちゃ美味い!」


 ご飯と一緒に口の中に掻き込むようにして夢中で食べた。肉とも魚とも違う、この食感と味! 

 日本人に生まれて良かったとしみじみ思う。

 今はまぁ、ハイエルフだけど。


「んんん……! ふわぁ……初めての味です。こんなお肉? お魚? 知らなかったです!」


 肉食女子のシェラも、猫の妖精ケット・シーのコテツもウナギは気に入ったようで、貪るようにして食べている。

 異世界のウナギ、最高に美味い。


「下層で稼ぐのが目的だけど、たまに九階層でウナギを捕まえよう」


 ぽつりと呟いた提案に、シェラとコテツは大きく頷いてくれた。



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