第50話 洞窟リフォーム


 引越し初日は、洞窟内にテントを設置して、住みやすいように召喚魔法ネット通販で色々と取り寄せて終わった。


 洞窟生活も二日目となると、初日に不便だった点を改善したり、追加の買い物とそれなりに忙しい。

 そんな中で、何よりも必要だと切実に感じたのは、トイレだった。


「今はまだ外に出られるから良いけど、本格的に梅雨に入ったら、外までトイレしに行きたくない」


 夜中にトイレに起きた時もなかなか大変だったことを思い出す。

 ランタンを抱えてのクライミングに挑戦する勇気はなかったので、生活魔法のひとつ、点灯ライトを使って崖下まで降りたのだ。


 アイドルも真っ青な美形のハイエルフに転生したけれど、あいにく出るものは出る。

 異世界転生して、野営生活が続くと、つくづく自分が男で良かったとしみじみと思った。

 トイレの際にはどうしても無防備になる。

 男の今でも落ち着かないのに、これが花も恥じらう乙女だったら、と思うとぞっとした。


「うん、トイレは大事だ。テント部屋内には作りたくないから、洞窟を掘り進めてトイレ部屋を別に作ろう」


 テント部屋は寝起きはもちろん、キッチンも兼用しているのだ。

 トイレ部屋は絶対に別室にしたい。

 ついでにバスルームも作ってみたいが、これはさすがに難しいか。

 トイレは最悪でも、穴さえ開けておけば浄化魔法クリーンで、どうにでもなるが、バスタブはさすがに召喚魔法ネット通販では売っていない。


「何か代用できる物があれば良いんだが」


 商品リストを開いて検索しているうちに、三百円ショップの夏季限定商品欄に、ビニールプールを見つけた。


「子供用ビニールプールか……」


 千五百円商品なので、品物としてはあまり期待は出来ないが、少なくとも膝を伸ばして湯に浸かることは出来る。


「ビニールプールの中で寝そべれば、肩まで浸かれるか……?」


 とりあえず試してみようと購入してみたが、幅は1メートルで深さが30センチほど。微妙だ。

 膝を抱えて横たわれば、肩まで浸かることはどうにか出来そうだが。


「子供の水遊びレベルなのは仕方ない。お湯をどうしても浴びたい時に使ってみるか」


 ついでに空気を入れるためのエアーポンプも購入しておいた。

 身体を綺麗にするには生活魔法の浄化クリーンがあるので、しばらくは我慢が出来るだろう。

 せめて大きめの金だらいがあれば、行水気分は味わえたのだが。


「……まぁ、まずはトイレだな」


 そんなわけで、本日は魔獣狩りは休みにして、洞窟リフォームに専念することになった。



 洞窟の入り口は南側にあるので、陽当たりは良い。奥に進む方向は北側。トイレは東方面に向かって掘り進めることにした。

 岩が崩落しないか、鑑定でこまめに確認しながら、少しずつ土魔法で掘っていく。

 魔力を馴染ませて砂に変異させ、土砂の類はそのまま【アイテムボックス】に収納していった。

 こつこつと掘り進めて通路を作り、ちょうど岩壁を挟んだ場所をトイレにすることにした。

 小部屋を作り、ついでに窓も作ってみた。

 空気穴と明かり入れも兼ねている。


「とりあえず穴を開けておこう。和式風のトイレなら土魔法で作れそうだな」


 地味に魔力を消費したが、昔ながらの公衆トイレ風の小部屋はどうにか完成した。

 殺風景なのが寂しくて、四角く岩をくり抜いただけの窓に消臭剤などを飾ってみる。

 穴はかなり深めに掘った。

 汚物はその場で浄化クリーンを掛ければ消滅するので、トイレットペーパーなどは不要。

 夜のトイレの際にはランタンが必須だが、部屋置きの物をそのまま持ち歩けば良いので、購入はしなかった。


 こつこつと掘り進めたので、まだ二時間ほどしか経っていない。魔力は甘い菓子でも食べて少し休憩すればすぐに復活するだろう。


「うん、このまま通路と風呂を作ってしまおう!」


 一度に終わらせた方が、明日から集中して狩りができるだろう。

 そんなわけで、再び土魔法で岩を削ることにした。



 トイレの更に東側に風呂用の小部屋が完成したのは、それから二時間半後のこと。

 こちらは湿気が気になるために、トイレよりも大きめの窓をくり抜いて作った。

 地面も平らに整えて、すのこを置いている。バスタブではなくビニールプールではあるが、せめて見栄え良くしようと周辺にはこだわった。

 百円ショップで購入召喚した、ジョイントラックを組み合わせて作ったスチール棚が大活躍だ。


 風呂の小部屋の入り口には、ツッパリ棒とシャワーカーテンで目隠しをしてある。

 スチール棚ラックにタオルやバスタオル、洗面器にシャンプーリンス、ボディソープなどを並べてみた。

 汚れ物を放り込むランドリーボックスと、着替えを収納する衣裳ケースを棚の上段に置く。

 バスマットも一応、棚の前に敷いておいた。


「うん。なかなか良いんじゃないか?」


 ひととおりの設置が終わったところで、ちょうど昼時だったので、休憩に入ることにした。

 メインのテント部屋に戻り、さっそく昼食を作ることにする。


「今日はガーリックライスの気分。あとステーキもがっつり食いたい」


 ちょうどコンビニに冷凍食品のガーリックライスがあったので、購入した。

 レンジ代わりに生活魔法の加熱ヒートで温めることもできたが、せっかくなのでフライパンで炒めてみる。

 オリーブオイルを敷き、パラパラ加減を狙ってガーリックライスに火を通すと、冷めないように【アイテムボックス】に収納する。


「ステーキは断然、オーク肉だよな」


 稀少なハイオークを使うのはもったいないので、ここはオーク肉ステーキにした。

 塩胡椒で味付けし、ステーキを焼き上げた。

 ガーリックオイルを使ったので、食欲をそそられる香りが洞窟内に充満してしまった。


 風魔法で匂いを散らし、焼いた肉を食べやすいサイズに切って、ガーリックライスに載せてみる。

 【アイテムボックス】から取り出したステーキソースをたっぷりと回し掛けると完成だ。

 野菜は夜に食べるので、ランチはただ欲望のままに用意した。


「いただきます」


 コンビニの冷食にハズレは少ないと思っていたが、このガーリックライスも美味しかった。

 五目炒飯とどちらにしようか迷ったが、ステーキと合わせるなら、洋風で当たりだった。

 ぺろりと平らげてしまう。


「うん、美味かった。やっぱ、炒飯の素とか使って自作するよりコンビニの冷食の方が美味いな」


 食後のデザートに、チョコアイスを堪能する。

 アイスクリーム類は、種類は少ないが人気商品が揃っていた。期間限定商品や新作も多いので、選ぶのも楽しい。

 

「……さて、とりあえずの拠点は構えることが出来たし。散財した分を稼いでくるか」


 休憩を終えると、さっそく周辺を見て回ることにした。

 拠点の近くにオークやゴブリンの巣が出来ていたら面倒なので、特に念入りに索敵する必要がある。


「あとは、狩猟と採取だな。高く売れる魔物と肉が旨い魔獣を目当てにひたすら狩る。美味そうな果物があると、尚嬉しい」


 野草やキノコなどの採取は今回は後回しだ。

 コンビニでサラダが買えるので、採取できなくてもそれほど困らない。

 今は召喚魔法ネット通販に使えるポイントをたくさん稼ぐ方に集中したかった。


「梅雨が始まる前に、そこそこ貯金しておきたいからな」


 拠点の洞窟から崖下を覗き見る。

 高さは十五メートルほどか。ビルだと四階から五階の高さだと思うが、何となく大丈夫な気がした。

 せっかく昇降用のロープを用意したが、今回は使わないことにする。


「よ、っと」


 ひょい、っと飛び降りる。

 バランスを崩さないよう注意して、地面から二メートルほどの高さで風魔法を身に纏ってみた。

 柔らかな空気の塊に抱きしめられたような感触と共に、優しく地面に降ろされる。

 着地のダメージは皆無だ。

 

「うん。飛ぶ魔法は使えないけど、このくらいの高さなら風魔法で飛び降りられる、と」


 さすがハイエルフの肉体。

 小柄で華奢な肢体だからこその荒技だが、戦闘時にも使えそうだと嬉しくなる。


「お、さっそく肉の気配! 今日は唐揚げ祭りだな」


 大型の鳥の魔獣の気配を察知して、うきうきと足を向けたのだった。

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