第47話 拠点を探そう。
「さすがに買いすぎた」
ポイント残高を確認し、現在大いに反省している。
コンビニ商品は魅力的な物がたくさんあって、ついつい欲望のままにショッピングカートに突っ込んでしまい──気が付いたら、かなりのポイントを消費してしまっていた。
「アイツらの買い物も金貨三枚分あったからなぁ……」
30万ポイントは先行投資だとしても、ついアルコール類をウキウキと
(現金払いじゃない分、つい気が弛んじまったよな……)
新製品のビールに酎ハイ、リキュールにも興味があった。
魔獣肉の煮込み料理に合いそうなワインもつい大量にカートへ放り込んでしまい、かなりの散財だ。
「今日から真面目に稼ごう……。あと、拠点探しだな」
ステータス画面から、召喚物の商品リストを確認してみるが、いまだに建物類は反転したままで購入出来ないでいる。
この【召喚魔法】がどこまでレベルが上がれば利用できるのか、せめてそれだけでも分かればモチベーションに繋がるのだが。
「今現在の【召喚魔法】のスキルレベルは4か。もしかして、レベル10までお預けか?」
それでは到底、間に合わない。大森林の梅雨入りはもう間近なのだ。実際、明日にでも天気が激変するかもしれないのだ。
「悩んでいても仕方ないし、とりあえずは梅雨を凌ぐための拠点を本気で探そう」
本来なら、大雨が降る中で山に滞在するのは命知らずにも程があるだろうが、創造神に貰った【鑑定】スキルと検索マシンと化している魔法書で、土砂崩れの心配のない場所を探すつもりだ。
「魔の山には巨大な聖木があるらしいし、その下でのテント泊も面白そうだけど」
ただし、場所は不明。
おまけに木を守るおっかない聖獣がいるらしいので、今回は拠点リストから外すことにした。
「できれば天然の洞窟があれば、ありがたいんだが」
無かったら、自力で岩山を掘り進んでいくのもアリか。土魔法を駆使すれば、それも可能だろう。
「更地に家を建てるのは無理だったけど、岩を掘るだけなら大丈夫だろう」
一度、試しに土魔法を発動してみたのだ。
広い更地を見つけて、土台を固め、床や壁などを土魔法で成形してどうにか箱形の建物を作ってはみたのだが。
「魔法で作った家だと、魔力が抜けた土は崩れていくんだもんなー…」
あれには大いに焦ったものだった。
うっかり中で眠っていたら、生き埋めになっていただろう。
創造神の加護は魔物や魔獣の攻撃からしか守ってくれないので、テントの結界は役に立たない。
不穏な音に気付いて、すぐに土の家から飛び出せたのは良い判断だった。
「自然の頑強な岩山をくり抜いて洞窟を作れば、土魔法の家みたいに崩れたりはしないだろうし。場所さえ気を付ければ、雨風の心配もない」
土砂崩れと浸水には気を付けて、あとは水場からは離れた場所を選べば良い。
川の近くは増水が怖いから、絶対に避けなければ。
「ポイントさえ稼いでおけば、しばらく閉じこもっていても食っていけるしな」
「さて、今後の方針が決まったところで、昼飯を食って拠点探しを頑張るか」
あとはもちろんポイント稼ぎ。
高値で買い取って貰える魔物と出会えることを祈りながら、黙々と獣道を進もう。
昼食は100円ショップのパック飯とボア肉の串焼きだ。散財のツケもあるが、コンビニ飯を食い荒らした後で気付いたのだ。
日本の弁当は口に合っているが、肉は断然魔獣肉の方がが美味いじゃないか、と。
おにぎりやパン、麺などの主食系──要は炭水化物類は日本産の物を
「うん、ボア肉旨いな。コンビニの焼き鳥より断然上だ。タレは日本産の物に限るけど」
涙目で貪ったホットスナック類──フライドチキンやコロッケ、からあげ等は懐かしさから感動してしまったが、落ち着いて吟味すれば、魔獣肉の唐揚げの方が美味しかった。
金貨で散財した従弟たちも、今頃気付いて後悔しているかもしれない。
「まぁ、なつかしの味だからな。思い出補正は仕方ない。海鮮系が食えるのもありがたいし、玉子や牛乳も手に入るようになったしな」
従弟たちを通して送られてきていた玉子は生食が出来なかったし、牛乳は濃厚すぎて飲みにくかった。調理用ならまだしも、日本の飲みやすい調整牛乳に慣れた身には生臭さもキツかったのだ。
コンビニ牛乳はその点、飲み慣れた味だったし、生卵を堪能できるのはありがたい。
「今日の夕食はボア肉のすき焼きにしよう。野菜に焼き豆腐、糸こんにゃくもコンビニで買えるし」
〆のうどんも、冷凍うどんがある。
もちろん、生卵をからめて食べるつもりだった。楽しみすぎるだろう。
昼食を手早く終わらせて、テントを片付ける。
獣道を歩くので、邪魔な植物を伐るための草刈り鎌を手にして、いざ出発。
魔の山を登って行くにつれて、魔獣の数が増えていく。厄介なのは魔法を放つ個体だ。
幸い、創造神の加護は魔物や魔獣からの魔法も弾いてくれたが、安心はできない。
たとえば弾かれた魔法が近くの大木に当たり、折れた枝が降ってきたものは、結界は遮ってくれないのだ。
なので、魔法を使う魔物や魔獣は見つけたら、即攻撃することにした。
「ブラックウルフにシルバーウルフ。魔の山に棲む狼系の上位種は魔法持ちばっかりだな……」
風魔法に水魔法を使う個体がほとんどだが、たまに闇魔法を使う上位種がいて、驚かされた。
影の触手が地面から生えた姿にはぞっとしたものだ。すぐに瞬殺して、あとその闇魔法も練習して修得したので結果的には良かったかもしれないが。
「ウルフ族は群れで来るからポイント的には美味しいけどな」
肉と毛皮と牙と魔石。どれも高額ポイントに変換してくれる。特にシルバーウルフの毛皮は人気らしく、ポイントも高い。
「ハイオークの肉は確保! オーガは肉が売れないからなぁ……」
角の生えた青い肌の
幸い魔法は使えないらしく、【気配察知】スキルで先に見つけて、魔法でさくさく遠方から倒させてもらった。
肉は食えないが、その皮と魔石、角などは高額ポイント商品だったので、ありがたく変換した。
ちなみにオーガやハイオークなどが持っていた武器も試しに買い取りに出してみたら、ポイントに替えることができた。
「数千ポイントだけど、チリツモだよな。残念ながら、俺が使えそうな物はないし」
大柄な魔物が使う武器は、この細腕では使いこなせそうになかった。オーガの棍棒なんて、持ち上げるのにも苦労したほどで。
「ん、でも、この弓はちょっと使えそうかも?」
ホブゴブリンが持っていた木製の弓は少し手を入れれば、使えそうだった。
弓は得意だ。幼い頃に弓道を嗜んでいた。
母親が弓道やアーチェリーを趣味にしていたので、一緒に道場に通い、何となく覚えたのだ。
ナツに弓道を教えたのも自分だ。
(今じゃ、その腕前も抜かれてるだろうけど。まぁ魔獣に当てるくらいは出来るだろう)
動く的に当てるには慣れが必要だが、幸い、魔の山の魔獣は大柄なので当てやすい。
空を飛ぶ獲物を落とすだけならば、どうにでもなるだろう。
「クレー射撃の要領で狙えばイケるだろ」
気になるスポーツや習い事は、何でも学ばせてくれた親に感謝だ。
少し齧った程度でも、身体強化のスキルを使えば、感覚も膂力も鋭く研ぎ澄まされて、それはとても大きな力を生み出してくれる。
何度か弓を試し撃ちし、コッコ鳥を何羽か手に入れたところで、頭上にある岩肌に気付いた。
木の茂みを掻き分けて進むと、ゴツゴツとした岩場が現れる。
「クライミングを楽しむには、ちょうど良い岩場だな」
起伏のある地形だが、ほぼ垂直になっている岩壁を登った先に、それなりの大きさの穴が空いているのが見えた。
もしかして、あれは。
「……洞窟?」
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