第46話 コンビニ始めました。


「コンビニ商品が召喚魔法ネット通販で購入できるようになったのか……?」


 呆然とステータス画面を眺めてしまっていたが、我にかえるとじわじわと喜びが湧き上がって来た。

 

(だって、コンビニ商品だぞ?)


 喜びのまま、画面をタップして商品を検索する。期待していた内容そのままの商品欄を目にして、歓声を上げてしまった。


「あった。握り寿司パック、海鮮丼も!」


 見つけた瞬間、大喜びでカートに突っ込み、値段ポイントなんて確認もせずに購入召喚した。

 

「異世界産の肉も野菜も確かに美味かったけど、たまに無性に食いたくなるんだよなぁ……」


 懐かしいパッケージをぺりぺり剥がして、さっそく寿司を実食。ちゃんと割り箸が付いている。

 ワサビと醤油は小皿を出すのも面倒だったので、握り寿司にそのまま載せてみた。


「いただきます!」


 まずは大好物のサーモンから。ねっとりとした脂が甘い養殖モノだが、久々の刺身は震えるほどに美味い。

 海老、イカ、たまご巻きと順番に味わって食べていく。ネギトロうめぇ。アナゴはまぁ普通だったけど、懐かしさに採点は自然と甘くなる。

 あっという間に握り寿司は完食し、流れるように海鮮丼に移行した。

 せっかくなので、コンビニ商品の温かいお茶も購入して、一息入れる。ペットボトルの抹茶ドリンクだ。ちょっと高いやつなので、これは100円ショップでは売っていなかった。


「はー…。海鮮丼も美味い。マグロとカニといくらとか贅沢すぎんだろ……」


 量はどれもかなり少なかったが、満足感が大きいので気にしない。1000ポイントなのは、さすが海鮮丼というところか。

 

「満足した。さすがコンビニ、量は少ないが味は良い」


 正直に言えばコンビニよりもチェーンの回転寿司屋の方が断然美味いだろうけれど、三週間以上ぶりの寿司はとても心に響いたのだ。

 なにせ大森林、肉は獲れるが魚は獲れない。

 湖や小川は見付けたので、頑張れば確保できたのかもしれないが、俺が食いたかったのは海の魚で、刺身や寿司だった。


「サバ缶やイワシ缶はショップで買えたけど、違うんだよ……。俺が食いたかったのはぷりぷりの生魚! 寿司! 刺身! コンビニよ、ありがとう……」


 とりあえず、この世界の創造神に感謝を捧げておく。

 コンビニショップには何とホットスナックも扱っていたので、フライドチキンやコロッケも買って食べてみた。


「ジャンク飯うますぎる……。ああ、コンビニスイーツも食いたいけど、さすがに満腹だ」


 膨らんだ腹を撫でて、休憩する。

 この感動を共有したくて、創造神アプリ『勇者メッセ』に一言送っておいた。

 コンビニ始めました。

 うん、これが分かりやすいよな。


「そうだ。コンビニだったら、雑誌や漫画も扱っているよな?」


 タップして商品検索。新聞や週刊誌などは取り扱いがなかったが、漫画雑誌や人気作品のコミックス新刊はヒットした。

 定期購読していた少年漫画の雑誌をさっそく購入し、ウキウキとページを捲る。

 まだ陽は高いが、今日はもうこのまま野営することにした。



 ひとしきり漫画雑誌やコミックスを読んで満足した後で、あらためてコンビニ商品を確認していく。

 扱っている商品は、ほぼコンビニ店舗の中身と同じだった。

 100円ショップの商品と比べてランクが一気に上がるが、それに見合うポイントは必要だ。同じブランドの商品は節約のために100円ショップで購入し、これぞという物だけコンビニで買うようにしよう。


「おにぎりに弁当、惣菜、生鮮食品も取り扱いがあるし、何より酒が買えるのはありがたい」


 大事に飲んでいたビールも残り少なかったので、これが一番嬉しいかもしれない。

 ビールに酎ハイ、ワインに日本酒、ウイスキーにブランデーまで揃っている。

 カップ麺やパンの種類も豊富だし、アイスクリームもあった。

 コンビニスイーツは有名パティシエ監修のケーキやシュークリームも揃っている。


「さすがに服は売っていないけど、肌着や下着に靴下もあるな。お、マジか。薬もある」


 治癒魔法は使えるようになったので、怪我は治せるが、病気が心配だったのでこれはありがたい。

 胃薬、風邪薬、鎮痛薬など。ドラッグストアほどの品揃えはないけれども充分だ。

 何よりも弁当やおにぎり、サンドイッチにホットスナックとお惣菜コーナーが涙が滲むほどに嬉しい。


「しばらくは料理はサボってコンビニ飯を堪能しよう……」


 今日は休息日と決めて、ハンモックを吊るして横になった。

 テントの結界のおかげで、魔物や魔獣は近寄ってこないので、のんびりとリラックスする。

 木漏れ日を頬に感じながら、コンビニショップで召喚購入した本を読むことにした。



 どうやら読書を楽しんでいる内に微睡んでいたらしい。一時間ほど経っている。

 くあ、と欠伸をしてハンモックの上で伸び上がった。ゆらゆら揺れる感触が楽しい。

 スマホを開くと『勇者メッセ』アプリに大量の通知が届いていた。

 開く前から、何となく内容は分かる。

 

(うん、アイツらからのおねだりだろうなー…?)


 予想通り、三人の従弟たちからのメッセージだった。

 お買い物のお願いと、なんとアイテムボックス経由で金貨が送られてきていた。日本円で換算すると、十万円だ。高校生にとっては大金である。


「マジか……。十万円分の買い物依頼が三人分。うへぇ」


 げんなりとしたが、ダンジョンでレベル上げを頑張っている勇者たちのために、無心でコンビニ商品をカートに突っ込むお仕事に励んだ。



 食べ盛りの現役高校生。勇者兼業中の彼らはとにかく良く食う。それは紅一点のナツも同じだ。むしろ、スイーツならば彼女の独壇場か。

 リクエストされたのは、お弁当やホットスナック類、おにぎりやサンドイッチに菓子パンなど。

 どれも一種類ずつ、という豪胆な内容だった。

 ドリンク類は100円ショップでも購入できるので、今回は食品に的を絞ったのだろう。

 

 カップ麺やスナック菓子をこよなく愛するハルでさえ、弁当とホットスナック類を大量にお買い上げだ。

 アキはそこに下着や靴下、肌着類、制汗剤スプレーなどを追加してはいたが、それ以外はハルと同じラインナップだった。

 ナツもコスメを少し、あとは弁当とスイーツ類を大量に注文してきた。


「ダンジョン内で調理をするのは面倒だから、弁当はいいよな」


 食べ盛りの三人なので、弁当ひとつでは到底足りないだろう。さすがに十万円分は大量だったので、しばらくは凌げるとは思うが。


「コンビニ商品は100均商品と比べてポイントもデカいから、もっと稼いでいかないとな」


 従弟たちもコンビニ買い物を堪能するため、ダンジョン攻略に力が入ることだろう。

 ダンジョンで得たドロップ品は自分たちの物になるらしいので、気合も入っているようだ。


「さて、俺もアイスを食おうかな」


 タップして商品検索すると、期間限定のソフトクリームが販売されていた。

 もちろんカートに突っ込んで、マンゴーソフトクリームを堪能した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る