第25話 効率よく
本日のお買い物リストが『勇者メッセ』アプリに届いていた。
ステータスボードはいちいち呼び出して確認しなければならないので、最近はもっぱらこのアプリで連絡を取り合っている。写真や動画も送れるし、手軽にやり取り出来るのが良い。
相変わらず、三人とも食品や調味料のリクエストが多いが、内容は少し変化が見られた。
特にハルは初日、調味料以外ではポテチなどのスナック菓子ばかり頼んできたが、今日は缶詰やカップ麺、カロリーバーと菓子パンが占めている。
「まぁ、菓子じゃ腹は膨らまないからなぁ。さすがにヤバいと気付いたか?」
ナツはカップ麺とパックご飯、缶詰を中心に、あとは蜂蜜やジャム、チョコレートが十個ずつのリクエスト。
「そんなに甘い物が好きだったか?」
不思議に思ったが、早く就寝したかったので、疑問は後回しにした。
アキのリクエストを確認する。コンソメ、出汁の素にインスタントの味噌汁。パスタとソースの他には、前回と同じく紅茶のティーパックが多めにリクエストされていた。砂糖も二十個ほど注文済みだ。
「100均の商品だから、砂糖の量は少なめだけど、こんなには使わないだろうし。やっぱり、異世界あるあるで売っているのか?」
疑問のままにメッセで質問すると、あっさりと肯定された。
特に隠し立てするつもりはなかったようだ。
『砂糖と紅茶を国王夫妻に売り付けている。ナツは王女にチョコと蜂蜜、ジャムを売っているようだ。結構稼げたぞ?』
さすがアキ、しっかり国王夫妻に取り入って、さらに金儲けまで。
ナツも王女と仲良しか。チョコや蜂蜜、ジャムの行き先に納得だ。その内、クッキーや飴なども解禁するのだろうか。
「ハルは転売なんて思い付きもしないだろうな……。自分の欲しい物だけを心のままに買っているのが良く分かるリストだ」
脳筋と
「ま、金は稼いでおいた方が安心だからな。不審に思われない程度に売り付けたら良いさ」
あまり大量に物を売ってしまうと、変わったスキルがあるのではないかと疑われたり、食い物にされる可能性もあるのだ。創造神が自ら招いた勇者だから大丈夫だとは思うが。
今のところは【アイテムボックス】にたくさん保管してある、で誤魔化しているようだった。
「今夜はもう寝るか」
頼まれていた買い物も済ませ、それぞれのアイテムボックスに送っておいた。
朝食はおにぎりとホーンラビットの唐揚げ、インスタントの味噌汁で済ませた。
おにぎりはパックご飯を温めて、鮭フレークを混ぜて握ったのだが、結構美味しい。
味付け海苔や鮭フレーク、ふりかけも100円ショップは充実しているので、おにぎりは色々な種類を楽しめそうだ。
「それにしても、
パックご飯をこれまでずっと湯煎して使っていたが、ナツが「生活魔法の
「なんで思い至らなかった、俺……」
地味に湯煎は手間暇と時間が掛かっていたのだ。魔法を使えば、三十秒でほかほか炊き立てご飯が食べられた。インスタントのわかめ入り味噌汁が沁みるほど美味しい。
ホーンラビットの唐揚げも【アイテムボックス】のおかげで、揚げたての状態が保たれている。
さくさくの衣に噛み締めると少しだけ弾力のある肉とたっぷりの肉汁が溢れてきて、思わず声が出るほどだ。
相変わらず、魔獣肉は美味しいので、今日もたくさん狩ろうと思う。
「午後二時頃には進行をストップして、仮の拠点作り。一日六時間進むペースを維持して残りの時間は周辺で狩猟と採取に当ててポイント稼ぎと食材集めだな」
拠点作りの際に二十本ほど周辺の木を倒せば、十万ポイントは稼げる。木材は優秀な素材だと、しみじみ思った。
狩猟はなるべく積極的に行い、地道にレベル上げを狙う。あと、美味しい肉の確保は最優先だ。
ウサギ以外の肉も食べたい。
昨日も少し見付けることが出来たが、野菜類も積極的に探すつもりだ。
少なくとも玉ねぎとニンニク、ニンジンに水菜はこの世界にもあったのだ。他の野菜も期待できる。
「よし、行くか」
拠点の撤収を素早く済ませて、装備を確認する。とは言え、いつも通りだ。
パーカーにネルシャツ、防水ジャケット。手斧だけを突っ込んだリュックを背負い、採取用のナイフはポケットの中。身軽に動けるので、今のところはこれがベストか。
魔獣を倒す際に魔法をがんがん使っているので、地味にレベルが上がっていた。
アイテムボックスも既にレベル4なので、展開したままのテントとタイニーハウスも余裕で収納できる広さだ。
魔力操作が細かく調整できるようになったので、魔法書にあったスキル取得の方法を試してみようと思う。目を閉じて体内に流れる魔力を意識し、全身に行き渡らせる。
五感が更に鋭敏になった気がした。
ゆっくりと目蓋を押し上げ、周囲を観察する。
ハイエルフは目が良い。少しだけ先の尖った耳も小さな音を拾うことが出来る。
握り込んでいた拳を開き、トンと身軽に地を蹴ってみた。特に力を込めたわけでもないのに、その身は二メートル上の太い枝の上にある。
指先に至るまで力が満ち溢れてくるような全能感に戸惑うが、気分は悪くない。
「ん、成功したな。身体強化」
体内の魔力を操作し、肉体の力を数倍に押し上げる【身体強化】スキル。
身軽で素早いハイエルフだが、
「さて、進むか」
身軽く地面に飛び降りる。
森を早足で駆け抜けて行くが、全く疲れを感じない。いつもの倍速で景色が変わっていく様が面白い。地面を蹴り、倒木を飛び越え、ぬかるんだ場所は木々を足掛かりに移動していく。
魔獣の気配にも、更に敏感になった。
【気配察知】のスキルが【身体強化】スキルの相乗効果で成長したようだ。
数十メール範囲で察知していた魔獣の気配を、今は百メートル先でも把握できる。
「
水魔法以外にも、風魔法を併用できるようになった。血を流すことに消却的だったが、窒息魔法は時間が掛かる。
綺麗に首を落とせば、それほど悲惨な死骸にもならない。
今では心を無にして、倒した魔獣を【アイテムボックス】にさくさく収納できるようになった。
「何となく、血抜きしておいた方が肉も旨い気がするし」
解体は素材買取りの際に自動で行なってくれるので、気が楽だ。
狐や狼系の肉食の魔獣は食えないので、素材は全部ポイント化する。
ホーンラビットより大型のウサギ魔獣、アルミラージは食い出がありそうで、見つけた際には小躍りしそうになった。
「デカいな。ホーンラビットの倍以上ある」
ずっしりと重い肉の感触に、にんまりする。
あまり動かない魔獣なのか、ホーンラビットに比べても肉は柔らかそうだ。筋肉というより脂肪に近い。毛皮は長毛っぽい。
アンゴラのような手触りから、買取りポイントが期待できそうだ。
「肉はステーキかな。ローストにしても良さそうだ」
肉に合うハーブをたくさん採取しておこう。ウキウキしながら、森を駆け抜ける。
ふと、鼻をかすめた甘い匂い。覚えがある。
田舎の山でたまに見かけては、おやつ代わりに
「アケビか」
秋の味覚のはずだが、初夏の今、完熟状態で鈴なりだ。深く考えることは放棄して、本日のデザートとして採取することにした。
楕円形の果実で熟すと、縦に割れる。白っぽい果肉はゼリーに似た食感。かじると濃厚な甘さがある。種は苦いのでその場で吐き出した。
「肉厚の果皮も食えるって聞いた覚えがあるんだよな。ひき肉を詰めて油で揚げるんだったか」
山菜として若芽を摘んだり、葉を乾燥してアケビ茶にするらしいが、そこまで食には困っていないので、甘い果肉だけを堪能することにした。
「日本で食ったアケビより美味い。ちょうど完熟期みたいだし、ありがたく頂いていこう」
遠慮なく採取していく。
種はきちんと地面に落としながら食べるつもりなので、根こそぎ
「魔法書によると、成長を促進したり、植物を操れるらしいし、ちょっと楽しみだな」
無邪気に笑いながら、群れで襲ってくる
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