第21話 大森林へ 2
当面の目的地は大森林の中に
標高四千メートル越えの富士山より大きな山は目印としても分かりやすい。
方位磁針もない中、迷わずに進めているのは遠目でも雄大な山が拝めるからに他ならない。
創造神から授かった魔法書で地図は確認出来るが、大雑把な物なので大森林内ではあまり役に立たない。なので、時折木に登っては方向を確認して進んでいた。
「魔素が濃い方向を目指せば大体合っているけどな。一応はちゃんと確認しておきたい」
一度、魔素に釣られて向かった先には全長三メートルはあるクマの魔獣がいて肝を冷やしたことがあったのだ。
片目が潰れたクマの魔獣はちょうど食事中だったらしい。シカに似た魔獣の肉を夢中で食い荒らしていた。
もちろん、意識が肉に向いている隙にこっそりと逃げ出した。
創造神の加護で守られているとは言え、あんな凶悪な魔獣に襲われたらトラウマ必至だ。
こっそり鑑定してみたが、マーダーグリズリーという種の魔獣だった。名前も凶悪すぎる。
ヒーロー気質の主人公だったら立ち向かうところだろうが、あいにく俺はモブ上等の脇役気質。
立ち向かうにしても、もっとレベルを上げて強くなってからだ。
高レベルの強い魔獣が濃い魔素を放つことを知ってからは、感覚頼りに進むことを止めて、自分の目で方向を確認することにした。おかげで今のところは迷うことなく、目的地に近付いている。
「とは言え、かなり遠いよな。徒歩で二週間以上はかかりそうだ」
急ぐ旅でもないので、安全第一で移動している。大森林に足を踏み入れて、二日。それなりの距離は稼いだので、人の気配は今のところ感じない。
代わりとばかりに魔獣が増えた。
「
水球を自在に操り続けた結果、習得したのが、この水魔法。
ウォータージェットのように加圧を加えて物を切断するイメージで、魔物の首を狙って放っている。
攻撃力はかなり高く、さくさくと首を刈れた。
水球での窒息作戦より素早く確実に倒せるので、今はこの水魔法を中心に鍛えている最中だった。
「レベルが10に上がったな。アイテムボックスもレベル3で、かなり収納容量が増えたし、順調だ」
あいにく召喚魔法はまだレベル2どまり。
購入できる品物は100円ショップと300円ショップの商品、それも三百円の物までだけ。
「今のところ、そこまで不便じゃないけど、そろそろ野菜や果物が食いたくなってきたな……」
召喚魔法で生鮮食品を
(でもレベルアップの様子から、たぶん500円までの商品が購入可能レベルなんだろうなぁ……)
ため息を吐く。
幸い100円ショップにはフルーツ缶の扱いがあるので、みかん缶、桃缶、パイン缶でどうにか欲求を満たしているが。
「シロップ漬けはもう飽きた……。普通のりんごが食いたい」
酸味があって新鮮な果物。あと、シャキシャキと歯応えの良い葉物野菜を味わいたい。
100円ショップで野菜の種は見つけたけれど、移動中の今は栽培出来ないので諦めた。
「……移動速度を少し落として、採取と狩猟の時間を増やすか」
距離を稼ぐことを目的に進んでいたため、周辺の探索はあまり行ってこなかった。
【鑑定】スキルを使い、採取したのも野営時に結界内の植物を確認した時だけ。
「鑑定のレベルも上げたいし、食用の野草が見つかるかもしれないから、そうしよう」
ちょっとワクワクしてきた。
母方の祖父が狩猟で山に入る折に同行した時のことを思い出す。荷物は極力少なくして、ほとんどサバイバルキャンプに近い様相だった。
沢の水を汲み、沸騰して飲んだのも初めてだったし、そこらに生えている野草を摘んで煮て食ったのも初めての経験だった。
(意外と性に合っていたのかもな。楽しかったし)
その時の狙いはイノシシだった。
あいにく、その日は見付けられなかったが、代わりに野ウサギを捕まえた。
祖父は小川で手早く解体し、調理してくれた。
塩を振っただけの肉は独特の臭みがあったが、空腹のおかげで平らげることが出来た。
口寂しい時は、冬山に残った木の実を摘んだものだった。
「フユイチゴ、山柿。アキグミは渋かったな。意外と山には食える物があったんだ」
豊かな森だった。
だが、この大森林も魔素が満ちているから、冬の日本の山よりは美味しい木の実があるはずだ。
ちょうど昼を知らせるアラームが鳴ったので、休憩をすることにした。目をつけていた場所は小さな湖があり、居心地が良さそうだ。
「水が綺麗だな。魚もいたりして?」
水場はスライムの姿が多いため、周辺はゴミひとつなく綺麗だ。動物や魔獣の死骸を片付けてくれる優秀な掃除屋なので、最近はスライムを倒すことなく放置してある。
「うん、いい場所だ。今日はもうここを拠点として採取と狩猟に集中してみよう」
ウキウキしながら、周辺を確認した。
邪魔な倒木は【アイテムボックス】に収納していく。切り株はまだ根が地に這っているようで収納出来なかった。
なので、【生活魔法】のひとつ、
あとは土魔法で地面を柔らかくして、再び収納に挑戦する。
「よし、収納できた。この調子で拠点作りに邪魔な木も撤去できるな……?」
愛用の手斧ではさすがに木を倒すことは難しい。ためしに
「おお…! 魔法すごいな。チェーンソーより簡単に切れたぞ」
どうせなら、結界の範囲である十メートル四方を日当たり良くしたいと思い、頑張って木を倒していった。切り株も取り除き、土魔法でしっかり整地まですると、立派なキャンプ地の出来上がりだ。
「いいね! 快適そうだ」
収納から取り出したテントを設置し、テーブルや調理器具にチェアも並べていく。
完璧だ。自慢のキャンプ道具と緑の木々に囲まれ、すぐ目の前は透明度の高い美しい湖まである。
「よし、自慢しよう」
さっそく何枚かスマホで写真を撮って、創造神が作ってくれたアプリ『勇者メッセ』に送ってみた。「今日はここをキャンプ地とする!」の一言と共に。
「さて、昼飯にするか」
久々にパスタが食べたくなったので、ペペロンチーノを作ることにした。
100円ショップで購入したパスタを茹でる間にソース作りだ。オイルと粉末のパスタソースもあったが、どうせなら手を加えた物を食べたい。
オイルサーディンを
「良い匂いがしてきた」
ガーリックは食欲をそそる。
鼻歌を口ずさみながら、フライパンにオイルサーディンを加えて炒めていく。
パスタも少し芯が残った状態でフライパンに投入した。茹で汁を少しと塩胡椒を追加する。味を見て、オリーブオイルを回しかけ、フライドガーリックと乾燥ネギをパラパラ散らしたら完成だ。
面倒だったので、フライパンごと食べることにする。これだけでは物足りないので、ホーンラビットの肉串を即席かまどで焼いていく。
網の上でちりちりと遠火で焼く串焼き肉はさっそく良い匂いを立ち昇らせていた。
味付けはマジックソルト頼りだが、今のところハズレはないので楽しみだった。
「うん、キャンプしながら外で食べるペペロンチーノは美味いな」
ゆったりとチェアに腰掛けて味わう男飯、最高! ビールの代わりにサイダーなのは残念だが、串焼き肉もとても旨い。
「異世界キャンプも悪くないな」
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