第11話 草原キャンプ 2
まずはテントを張ることにした。
キャンプの予定は四泊ほどを予定していたので、用意したのはファミリー仕様のワイドなサイズのテントだ。大人三人が余裕で横になれる広さがある。
家にテントがあるなら持参しろよとは伝えていたが、無かったとしても男三人はこのドーム型のテントで寝れば良い。
紅一点のナツは親戚から借りた山小屋のロフトを使ってもらうつもりだったのだが。
どうやら、三人とも一人用のテントを持っていたらしく、ちゃんと持参していた。
手軽なポップアップテントだが、部活の合宿時に愛用しているらしい。
道場に布団を敷いてのごろ寝が多い合宿に神経質なアキが
薄いテントの壁一枚でもプライベートを確保できたアキは良く眠れるようになった。
効果を聞いた他の生徒達もこぞってテントを使うようになったらしい。
おかげで三人が通っているスポーツ強豪校では合宿でテントを使うのが流行っていると云う。
(気持ちは分かる。テントって気分が高揚するよな。外ではもちろん、家の中で広げてもワクワクするもん。秘密基地っぽくて)
三人がテントを持っている理由を聞いて、笑ってしまったが、狭くてもプライベートな空間は必要だよなぁとしみじみと思う。
荷物は彼らに送ってやったので、野営時にはきっと活躍することだろう。
「さて、設営するか」
キャンプは三泊以上するのが楽しい、がモットーなため、テントは良い物を選んである。
バイト代は軽く吹っ飛んだが、おかげで快適に過ごせる拠点が手に入ったのだ。泣いてはいない。
ドーム型テントはリビングスペース付きの2ルーム仕様。インナーテントを外してフライシートだけにすれば、タープにもなる。
三十分ほどかけて一人でテントを設置して、ゆっくりと周囲を回って確認した。
「うん、良いんじゃないか? 我ながら快適そうだ」
テントの色はカモフラージュグリーン。森や草原でもそれほど浮かないはず。
テントの下にはしっかりとグランドシートを敷いてある。幸い、この草原では石や小枝などのゴミはなく、ふかふかの草しか生えていなかったので、整地をしないで済んだのはラッキーだった。
「ここも日本の5月頃の気温だな。深夜から朝方にかけて冷えるかもしれない」
山で過ごすために、それなりの防寒グッズは準備している。まずはフロアマット、それからラグを敷いた。ラグは軽くてふかふかのお気に入りだ。寝転ぶと気持ちが良い。
寝袋の下にはインフレーターマットを置く。バルブを開けば自然に膨らむ優れ物。厚みは3センチ弱だが、充分快適に眠れる。
封筒型のシュラフはジッパーを開けば布団にもなるので便利な代物だ。
秋冬のキャンプにはマミー型でないと凍えてしまうが、この時期にはちょうど良い。
「枕はタオルを重ねて代用にしよう。あとはコットも出しておくか」
ベッドやチェア、荷物置き場にも使えるコットは万能アイテムだと思う。地面が寝苦しいなら使わせてやろうと車に積んでおいて良かった。
とりあえず今回は荷物置きとして使うことにして、着替えやタオル、冷えた時用のフリースのブランケットなどを載せておく。
「あっと、ランタンは出しておかないとな。すぐに暗くなりそうだ」
持って来たのは、高彩度のLEDランタン。ガソリンランタンは山火事が怖いので、手軽で安全なこれにしたのだ。
電池式なので、電池が切れれば
面倒だな、とぼんやりランタンを眺めていると、なぜか【鑑定】スキルが発動した。
「え? 『創造神に祝福されたランタン。周囲の魔素を取り込み電池代わりにするため、半永久的に使える。破壊不可』……マジか」
慌てて他の道具類も確認する。
ガスコンロやバーナーも燃料不要のほぼ
スマホも電波は拾えないが、ダウンロードしていたゲームアプリは使えるようだし、こちらも充電不要にアップデートされている。
「……落としていた電子書籍が読めるのはありがたいな。あと、せっかくだから異世界の絶景写真や動画も撮ろう」
暇つぶしの手段と楽しみが出来たのは嬉しい。アイツらとも気安くメールが出来れば安心なのだが。
「あ、ステータスボードでメッセージは送れるんだったな。後で送っておこう」
ふぅ、と息を吐いて。あらためてテントを鑑定してみる。収納していた荷物には創造神の加護が掛かっていると言っていた。
着ている服にも自動修復機能付きとある。
ならば、テントは?
「ええと『創造神の加護付きテント。周辺10メートル範囲で不可視の術と結界を自動発動する。ドラゴンのブレスにも耐えられます。破壊不可、アイテムボックスに収納すると自動修復されます』……え、チートなのは持ち物だった?」
野営時の見張りも不要だし、最高なのでは?
汚れてもアイテムボックスに収納すればピカピカの新品に修復されるようだし。
「ヤバい魔物がいても、ここに逃げ込めば安全に籠城が出来るな」
病気知らず、老い知らずのハイエルフ族に転生させたことと言い、加護の内容もだが、創造神はよほど俺に死んで欲しくないらしい。
「ここまで気を遣ってくれたみたいだし、せいぜい餌として長生きするよ」
日本からの荷物に全て加護がついたのはありがたい。高品質高性能のメイドインジャパンの道具は大切に使おうと思う。
寝室は用意出来たので、リビングスペースに移動する。折り畳み式のテーブルとアームチェアを設置して、タープの下に向かう。
調理は地面の上ですることにした。
網を載せればグリルになる焚き火台をテントから少し離れた場所に置き、用意していた肉や野菜を焼いていく。
時短を考えて初日のバーベキューの材料は全てカットしており、肉もタレに漬け込んである。クーラーボックスから取り出したのは一人分だけだ。残りは劣化しないようアイテムボックスに収納する。
山小屋の水道を借りるつもりだったので、水は持ってきていない。
もう一つのクーラーボックスにペットボトルのお茶やジュース類、自分用のビール等を入れていたので、ジンジャーエールを飲むことにした。
バーベキューには冷えたビールが正義だと思うが、さすがに異世界初日に酔っ払うつもりはない。
「うん、ホルモン旨いな。分厚い牛タンもイケる。カルビとウインナーも焼こう」
しいたけにマヨネーズを載せて焼いて食べる。玉ねぎはアルミホイルに包んで丸ごと焼いた。皮付きのまま焼くと、甘みが凝縮されて絶品になる。
トロッとした蒸し焼き状態の玉ねぎは塩を少し振りかけるだけでご馳走だ。
「締めは焼きおにぎりにしよう」
具なしの塩にぎりに胡麻油と醤油を少し垂らして網で焼いていく。香ばしい匂いが堪らない。
少し焦げた箇所がパリっとしていて、特に旨い。あっという間に平らげた。
「ふ、はー…。美味かったぁ……!」
一人バーベキューは少しばかり寂しかったが、肉も野菜も美味しかった。
ハイエルフが肉を食べられない種族だったらどうしよう、という不安は杞憂だったので良しとする。
後片付けは簡単だった。
生活魔法は便利!
アルミホイルなどのゴミはまとめて収納したが、なんと【アイテムボックス】には削除機能もあるので、ゴミの処分も楽に出来た。
「異世界キャンプ、快適すぎる」
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