第10話 草原キャンプ 1


「第一村人ならぬ、第一魔獣発見。……いや、魔獣か? スライムは」


 しばらく歩いた先で見つけたのは、フィクションの世界でも見慣れたスライムだ。

 ちょうど風船ほどの大きさの、透明なモンスター。目や鼻などの器官はなく、中央部分に水色の石のような物が透けて見えた。


「鑑定によると、スライムは衝撃に弱いのか。水魔法とは相性が悪い。……よし、斧で殴るか」


 そっと近寄り、のんびりと草を消化しているスライムに手斧を叩き付けた。さすが最弱のモンスター。その一撃であっさりと弾け飛んだ。

 残ったのは、体内にあった水色の石だけ。


「これが魔石か。属性は風? スライムだから水のイメージだったけど」


 鑑定によると、この魔石は冒険者ギルドで買い取ってくれるらしい。

 魔道具の動力として使うことも出来るようだが、あいにくその魔道具を持っていない。


「とりあえずポイント化してみよう。アイテムボックスに収納して、ポイントに変換っと」


 ステータスボードに表示された買取りポイントは何と100Pだった。スライムの魔石はヒメシバ百本分の価値があるらしい。


「多いのか少ないのか、良く分からんな。ペットボトルのお茶が100Pだったから、1Pが1円換算だと考えると、微妙……?」


 まぁ、草を百本引き抜く労力を考えると、スライムを斧で殴る方が断然楽だ。

 レベル上げのための経験値も稼げるし。


「とりあえずは森を目指しながらスライム退治だな。こつこつ稼いでいこう」


 ハイエルフ族は視力はもちろんだが、聴力も優れているようだ。

 人であった時よりも多くの気配が感じ取れる。

 目を凝らし、耳を傾け、道々を【鑑定】しながら歩いていると、スライムや鼠の魔獣と遭遇した。

 スライムはあまり動かないし、襲ってくることもなかったので簡単に倒せた。

 が、鼠の魔獣──グラスマウスは素早い動きで立ち向かってきた。


「よっと!」


 だが、ハイエルフの動体視力を手に入れたおかげであっさりと返り討ちにできた。

 手斧を振るい、さくりと首を落とす。

 創造神の加護で、結界が自動的に発動するため、襲われても弾くことは出来るだろうが、なるべく戦いに慣れておきたかった。


 素手で魔獣の死骸を触りたくないので、【アイテムボックス】から軍手を出して使うことにする。

 尻尾を摘み上げて、収納。収納してから気付いたが、解体をしていなかった。

 また取り出すのも面倒だったので、とりあえずポイント化するようタップすると、ステータスボードに『素材解体しますか?』とアナウンスが表示される。


「解体もしてくれるのか? これは助かる」


 母方の祖父が趣味で狩猟をしていたので、何度か解体を手伝ったことはある。

 鶏と鹿、うさぎや猪なら捌けるが、魔獣はさすがに自信がなかったのでありがたい。

 草原のど真ん中で設備も道具もない中での解体は手慣れた祖父でも難しかっただろう。


「自動で素材化してくれたな。皮が10P、肉が40Pで、魔石が200Pか。合計250P、スライムよりも美味しいな」


 鋭い前歯の攻撃さえかわせれば、20センチサイズのグラスマウスはそこそこ美味しい魔獣だ。ほくほくしながら、ポイント化する。

 

「しかし、肉が素材化したと言うことは、あれは食用なのか……?」


 ジビエは好きだ。うさぎ肉も食べたことはあるし、鹿や猪肉は好物だった。

 だが、さすがにネズミ肉は食べたことがない。

 狩猟仲間のじいさんがヌートリアを食ったことがあると自慢していたことを思い出す。

 たまに川辺で見かける大型の齧歯類げっしるいだ。昔はその柔らかな毛皮を目当てに飼育されていたらしい。

 現在はほぼ野生化しており、そのじいさんも川でぶん殴って獲ってきたと笑っていた。


「野生味があって、そこそこ旨いって言っていたけど、うん、俺は無理だな」


 先程のグラスマウスの姿を思い出して、ぶるりと震える。

 何も食べる物がなくて飢えていたならば、仕方なく口にするかもしれないが、【アイテムボックス】内にはキャンプで消費する予定だった、四人×五日分の食糧がそのまま収納されているのだ。

 

「収納内の食糧を食べ尽くしたとしても、俺には召喚魔法ネット通販で食品が手に入るしな」


 食用のヌートリアでも厳しいのに、ネズミの魔獣を食べるのは、絶対に無理。ただ、猪や鹿の魔獣で、その肉が美味いのならば話は別だ。


「ファンタジー好きの従弟が、魔物肉料理は美味そうだって言ってたよなー…」


 オークは豚肉、ボアは猪肉だっけ? 

 ドラゴンステーキを食うのが夢だと言っていた。

 竜の肉か。鶏肉に近いのか爬虫類のそれ寄りなのか、大いに興味はあるが。


「まぁ、しばらくは持ち込んだキャンプ飯で食い繋ごう」


 何が必要になるか、実際に大森林で暮らしてみなければ分からないのだ。

 ポイントはなるべく温存しておきたい。




 大森林に近付くにつれ、魔獣は大きく強く変化した。スライムの中には水魔法を使う個体も現れたし、グラスマウスの代わりにホーンラビットが突進してくるようになった。

 これは額に捻じ曲がった角があるうさぎの魔獣だ。ふわふわの毛皮の持ち主だが、目付きは非常に悪く、性格も凶暴。

 攻撃は真っ直ぐ向かってくるだけの単調なものだったので、こちらもあっさりと手斧で対処できた。


「ホーンラビットのポイントも悪くないな。毛皮と肉が各300P、角が200P、魔石が400P。合計1200Pか!」


 初の四桁ポイントをゲットして、口許が緩みそうになる。うん、いいね。しばらく、うさぎ狩りに集中するのも悪くないかもしれない。


「で、この水魔法を撃ってきたスライムの魔石は1000P? 普通のスライムよりも高いな。水の魔石は生活の必需品だろうから、こんなものか」


 魔石ひとつで1000Pは美味しいので、魔法を使う個体は積極的に倒していこうと思う。

 

 そんな風に魔獣を倒したり、【鑑定】スキルで見つけた薬草を採取したりと、こつこつポイントを貯めながら、草原を歩いて。やがて、陽が落ちる前に足を止めた。


「今日はここで野営しよう」


 まだ目的地まで半分も進んでいないが、陽が落ちてからテントを設営するのは面倒だ。

 【アイテムボックス】から、とりあえず全ての荷物を取り出してみた。

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