【短編880文字】潜入取材『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』
ツネワタ
第1話
「おいマヌケ、私は帰る。だが少し酔っちまった。リムジンを呼べ」
酔った大物作家はウェイターにそう言った。
ウェイターは作家の召使でもなければお手伝いでもない。
そもそも彼の家は貧乏で、リムジンを呼べる金など持ち合わせてはいなかった。
「そうかすまない。ならば馬車でも構わないぞ」
酔った大物作家はウェイターにそう言った。
ウェイターは作家の奴隷でもなければ奴の道化でもない。
そもそも彼はウェイターのフリをしているだけで、
もしかすると陸軍少将かもしれないのだから不用意な発言は控えるべきだ。
「そうかすまない。ならば重戦車を呼んでくれたまえ、少将」
酔った大物作家はウェイターにそう言った。
ウェイターは作家のファンでもなければ信奉者でもない。
そもそも奴が本物の作家ではなく、容姿の似通った作家志望である事を皆が知っている。
しかし、大物気取りの作家志望は紙ナプキンにスラスラと四行詩を書き連ね、
「ほら、コレで運び手を呼んで来い。売れば金になるだろう」
「お前のようなウェイターが一生かけても稼げない金になる。この紙切れが、だ」
「釣りはやるよ。授業料だ。偉人との話し方でも学んで来い」と紙を渡した。
驚いた事にその詩は本物と比べても遜色ないほどの出来だった。
おそらく奴の言う通り、売れば真偽の目を通り抜けて大金に変わることだろう。
だが――。
ウェイターは金に興味もなければ、話し方を学びたいわけでもない。
そもそも彼は貧乏なウェイターの真似事をしながら陸軍少将のフリをしているだけで、もしかすると奴が扮する作家本人かもしれないのだから不用意な発言は控えるべきだ。
「何を言う。ウェイターごときが。そもそも作家がこんな所でなぜ働く必要がある」
大物気取りの作家志望が横柄な態度で尋ねた。
「次作のための取材だよ。大物気取りとウェイターに扮した陸軍少将が出てくる」
ウェイターの真似事をしながら少将のフリをしていた大物作家がそう答えた。
「…………おいマヌケ、私は帰る。だが少し酔っちまった。……タクシーを呼べ」
「アンタにはリムジンがお似合いだよ、大物作家さん」
数分後、店の前に豪華なリムジンが停まった。
【短編880文字】潜入取材『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816
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