第296話 邪神の闇鍋 ⑤
どかん! と一発、デカいのかましたるぜっ!
「カラドボルグの全ジェネレータをぶん回せっ!」
「あいあい、亜空間設置ジェネレータ、超空間次元連結ジェネレータ、ツインジェネレータエンゲージシステム起動、ダゼ」
「すとらいかーしすてむ、ふるどらいぶ」
「ゼウスの雷、ケラノス発生ですのん」
「アクティブコンソール、サポーターズアシスト、ファルコンバックアップ、マヒロ演算、全て正常じゃ!」
「カラドボルグ完全起動! とー様やっちゃえ!」
「しゃっ! くらっとけっ!」
俺の脳波を増幅して直感的にカラドボルグを動かし、集ってくるわんわんをバッサリ切り捨てる。
ふっふっふっふっふっ、いいねぇ、やっぱり操作感を地球で使ってたVR機器に合わせたのは正解だったぜ! 全く違和感無く使える。いやあ、何て言う懐かしい感触だろうか。
おっとっと、浸ってる場合じゃないわ。こっから急がしいんだから、ちゃっちゃとフェーズを進めないと。へいかむん! マイワイフ!
「マリオン!」
俺が呼び掛ければ待ってました、とマリオンがハンマーシリーズを引き連れて、わーっとスティラ・ラグナロティアにとりつく。
『持ってきた砲身をすぐにスティラ・ラグナロティアに取り付けて! 私たちの持ってきたパーツはエンジン回りだよ! 慌てず急げ!』
勇ましいマリオンってのも貴重だな……いやいや、だから浸ってる場合じゃないんだって。かむん! マイワイフ!
「シェルファ!」
『はいはい、ゼフィーナ落ち着いて。ファラも落ち着いて。リズも――って、あら珍しい』
なんか通信越しに黄色い声がすんげぇ聞こえてくるが、アイドルのコンサートか? 何を一体そんなに騒いでるんだ? わっし困惑……
俺が困惑していると、ポンポツが妙に呆れた様子で、トントンとスクリーンを指差す。
「レイジの指示が止まってる、ダゼ」
「ん?」
一旦黄色い声は追いやって、タクティカル通信と艦隊ネットワーク通信をリンクさせた統合通信、それで映し出されているレイジの様子を見れば……何か、うちの息子ちゃんが世界の中心で叫んじゃってるみたいなポーズで呆けてらっしゃるんですが?
「おうこら働け宰相!」
『っ!?』
ちょっと威圧してやれば、ビクンと体を震わせて逆再生みたいに立ち上がる。あいつは一体何に呆けたんだ?
「なかなか凄い修羅場に、今一番頼りにしたい相手が、それこそビジュアルディスクの主人公よろしく、もしくはライジグス風に例えならライライジャーが颯爽と登場したようなモンじゃぞ? そりゃぁ、緊張の糸がぷっつり切れても責められぬじゃろうに」
かわいそうにのぉ、とまた俺の表情で内心を読んだのか、せっちゃんがそんな事を言う。
「修行が足らんぞ! 馬鹿息子!」
そう修行が足らないお前が悪い、とレイジに向かって言えば、馬鹿息子がクワッと鬼の形相で俺を睨みやがる。
『うっせ馬鹿! そっちこそ遅いんじゃぁっ! 戦場はここだけじゃなくて、もう完全にフィクション世界の戦争状態に突入してんだ! どう落とし前をつけるんだよ!』
ふっふっふっふっふっ、だからお前は馬鹿なのだ。さすがに今のような状況になるとは思っていなかったけど、落とし前という部分ではちゃんと用意してるとも! その為にずっとカタカタしてたし、ファルコンもフルスペックで動くためにアルペジオへ残して来たんだしな。
「ガタガタ抜かすな! お前はしっかり皆を纏めろ! 美味しいところは全部俺が持ってってやる!」
全くこの馬鹿親父はもぉ! と文句をぶつくさ言いながら、それでも実にレイジらしい笑顔で叫んだ。
『やってやらぁ!』
「その心意気やよし! しっかりやってくれ!」
息子焚き付けて俺が遊んでてもしょうもないので、カラドボルグを五つに分離させる。
「さぁ、もう一回ショウタイムだ!」
「あいあい、勝利をもたらす必殺の神槍、グングニルモード起動、ダゼ」
「うちほろぼすはひつめつのいちげき、たーげっとろっく」
「ロキの悪巧み、計算入りますのん」
「マヒロのアシスト、妾のアシスト、ファルコンの誘導、おうけいじゃ!」
「オージンの神槍完全起動完了! とー様いけるよ!」
「ポンポツ! 操縦頼む! ユーハブ!」
「へいへい、アイハブっと上司使いの荒い、ダゼ」
さあさあシューティングゲームがはっじまるよー!
俺の顔面に独自のホロモニターが浮かび上がり、そのモニターと五つに分離したストライカーモードグングニルと同調する。
それは見た目完全なるファーストパーソンシューティングゲーム、あれだあれ、一人称視点というヤツが映し出される。こうなると俺は操縦どころではなくなるので、そっちは俺の上位互換であるところの上司デミウス君の出番というわけだ。
「お前に君付けで呼ばれるとこう、ゾワッとするんだがな、ダゼ」
うるさいよ? 全くこいつはまた俺の心を読みやがってからに。
「いいから早くしろ、ダゼ」
「へいへい、シュート!」
どっかの宇宙的な世紀で見たような、きっと効果音をつけるなら、ちゅいんちゅいん鳴ってそうな動きで、真っ赤に発光する五つの槍が一斉に散らばる。
「まずはお前からだ! 鬼の巨人!」
マヒロとファルコンのアシストでロックオンされ、俺はその動きに合わせてストライカーに内蔵されているレーザー兵器を射ちまくる。ストライカー自体はロックオンと同時に自動で動いて、ガンガン鬼巨人を貫いて行く。
「完全にシューティングだこれ!」
いやまあ、そのように作ったのは俺ですがね。ここんところずっと生産ばっかりやってたから、ちょっとゲームに飢えてまして、これは実に良いですぞ!
「右翼の圧力が減少ですのん、レイジ君、立て直してですのん」
『了解! ガラティア様! きゃーきゃー言ってないで働け! メイド隊も働け! 第二・第三! そっちでフォロー入れ!』
『『了解!』』
何かレイジがキレてるけど、どしたよ?
「何かガラティアがアイドルを推し活するファンのように、熱狂的なタツローコールをしているようじゃぞ?」
「何やってんの!? いやマジで!?」
黄色い声の正体ってそれか!
「嫁達よ! 働けマジで! まだまだ余裕があるわけじゃねぇだろがいっ!」
シューティングゲームをして巨人の数を減らしながら叱りつけると、やっと黄色い声が消えた。マジでずっと、ふぁ! ふぁあああぁぁぁぁぁっ! 的な事をしてたのかよ……
『旦那様! ワゲニ・ジンハン殿達が! 助けて下さいまし!』
やれやれと呆れていると、クリスタが泣きそうな顔で懇願してくる。
「そっちは大丈夫だ」
『へ?』
アルペジオで暇をもて余していた人を引っ張り出したから、そろそろ合流してるんじゃないのかね?
○ ● ○
正気を失ってその巨体で暴れだし、無尽蔵に産み出される化け物達、それらになぶられルック・ルック達の命運は風前の灯火だった。
「巫女さんよ、そろそろ逃げなくていいんかい?」
ワゲニ・ジンハンという強靭な肉体を手に入れたのに、すでに満身創痍なルック・ルックは、紫色の血液を噴き出しながら、やはり自分とどっこいどっこいの重症なミチカに笑いかける。
「この状況でどうやって逃げれば良いか、むしろ教えて欲しいがな」
ミチカはシニカルに笑いながら、折れた左腕を押さえる。その様子にルックもそれもそうかと失笑した。
「随分と楽しそうだが、少しは手伝ってくれんかね?」
部下と偽装カーゴ
「もう尻の毛すらねぇよ」
ルックの乗るランサー3を模したワゲニ・ジンハンの擬態ランサーは、すでにその体の大半を失いルックと同じように紫色の血液を盛大に噴き出している。これで戦えとは随分と無理難題だ。
「部下の大半も逝っちまった、ここらが潮時かもしんねぇな」
ルックは朦朧とする意識でぼんやり周囲を見回しながら呟く。こうやってのんきに話してられるのも、三神将が獅子奮迅の活躍で襲ってくる化け物の圧力に抵抗しているからだ。しかしそれも、徐々に押し込まれつつある。
上手く働かない頭でその様子を見ていたルックは、よっこいせと体を引き起こし、ゆっくりと緩慢な動きでミチカに視線を向けた。
「……はぁ、しゃーねぇ。巫女さんよ、あっちの一番、敵の数が薄い場所で俺が自爆する。その隙にライジグス陣営に逃げ込め」
突然な言葉にミチカは驚きの表情をルックへ向ける。
「……ルック殿」
「異論は無しな。あんたはこんな場所で死んだら駄目だろ?」
この集団の中で誰を生かすか、そう考えた時に完全一択でミチカを選択するだろう。何しろ彼女は生きていて、自分達は仮初めの命なのだから。
「フランク」
「聞こえてる。そのランサーだけでは爆発力が足らんだろ。私も付き合うよ……さすがにこっちも限界だ」
フランクが全く貧乏くじだ、と愉快そうに笑いながら言う。
「お二方」
「おっとお涙頂戴ってキャラクターじゃねぇんだ、そいつは御免被るぜ」
「同じく。さて行きますか」
いつの間にか素早く部下達を纏めたフランクが先導するように動き出す。
「三神将! あんたらの巫女を逃がすぞ!」
「「「かたじけない!」」」
ルックも動き出し、暴れている三神将へ叫ぶと、彼らは呵呵大笑しながら感謝の言葉を叫び返した。
「よっしゃぁ! 最後に一花咲かせるぜ!」
「「「「おうっ!」」」」
残っていた仲間と一緒に一番敵影が薄い場所へと向かうルック。しかし、まるでそれを待っていたように敵の数がいきなり増加し、薄い壁が分厚い壁に化けた。
「っ!? くっそがっ!」
このまま突っ込み一か八かに賭けるか、それとも別の逃げられそうな場所を改めて探すか、そう逡巡した時、何かが化け物達を切り裂いた。
『こっちだよ! そっちの暴れてるの! あんたらもこっちだ! 早くしな! グズは嫌いだよ!』
敵を切り裂いたのは、タツローがせっちゃん経由で知ったセラエノ大図書館の次期主力戦闘艦計画で設計まで終わっていた船、シャンタックという名前の近接戦闘に特化したスピーダータイプの船だった。
それに乗るのはマドカ・シュルズベリイ、ミツコシヤのご隠居、元フォーマルハウト防衛隊総隊長だ。縁側でぼんやり黄昏て干物ババアロールかましていたのを無理矢理拉致り、時間加速装置の中へぶちこみ、徹底的に再訓練を施してバーサーカ化した逸品である。
『ちっ、あのクソ国王め、厄介な事をおしつけやがって……何を呆けてる! とっとと動きな!』
近くにいる鬼巨人よりも迫力のある顔で言われ、ルック達は一斉に動き出す。
『ヒソカ、殿はあたしらでやるよ!』
『はいはい』
そしてもう一隻のシャンタックが現れ、マドカの後方にピタリと停まる。ヒソカ・シュリュズベリイ、マドカの実の娘でありアルペジオのミツコシヤの店主である。
彼女もタツローに(以下略)
『ちゃんとあっちは合流出来たみたい』
『あの化け物を心配するだけアホ見るよ』
『お母さん……一応あの人国王よ?』
『人を拉致る国王なんか化け物で十分だよ』
タツローが送り込んだ助っ人のお陰で、ルック達は辛くも命拾いをするのであった。
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