第285話 集う力 ②
ちゅーちゅーたこかいな。ふじやま、げいしゃ、さむらい、ちょんまげ、すーしにてんぷーら。ふはははは! おれはてんさいだ! かんぺきなてんさいなのだ!
はい! とプログラム完了っと。
「とりあえず、シェルファは戦場に出て貰おうかな。ミュゼ・ティンダロスの改修と呼ぶにはただのシステムバージョンアップだけども、あれだけでも何とかなるっしょ?」
カタカタと打ち込んでたコンソールから顔を上げながら言えば、妙にスンとした表情の人々ががががが……
「…………」
「あれれ? 沈黙が痛いぞー?」
シェルファもマリオンも、それこそ情報特化なメイドさんに軍人さんも、何故かじっとりした目を俺に向けてくる。なんでー?
「だから加減をしろ、ダゼ」
「加減したっちゅうの! 普通の人間の範囲内だっちゅうの!」
「お前のは人間のギリ上限限界値キワッキワを攻めてる、それを人間の範疇と呼ぶのは暴論過ぎる、ダゼ」
「いけるいける! 何とか逝けるって!」
「一部字が違ってるように感じる、ダゼ」
っかしーな。そんなに攻めた能力の使用をしてないんだが?
「……神になる免許をもらっちった。死んだ後に神になるらしい。あ、嫁達も女神コース一直線だって、嫌なら拒絶するとならないらしいよ。その場合は魂の離婚だって、この世界作った駄女神が喜ぶから注意してな……なんて頭が本格的にイッたのかと思ったけど」
「これを見せられたら、納得ですよねぇ」
シェルファが頭痛を耐えるように額を押さえ、マリオンが走っているプログラムに目を走らせながら苦笑を浮かべる。いや、シェルファさんや、頭が本格的にイッたってあーた?
「確かにこれなら、今の一級オペレーターでもシェルファ様並みの処理速度が出せますね」
「まさに神の領域を見る事になりそうだけどね」
「はは、はははは……はぁ……」
「ヤマダくーん! 座布団二枚持ってきてー!」
「ただいまー、ダゼ」
俺とポンポツのやり取りに、シェルファがじっとりとした目を向けてくるが、一番爽やかな笑顔をぷれぜんとふぉーゆー。
そんな俺の対応にシェルファは諦めたような、全てを悟ったような、そんなスンとした表情を浮かべると、端末に向かって言葉をかける。
「はぁ……マヒロちゃん、アシストお願い。多分、凄い振り回されそうだから、助けて」
「ヤーマイゴッデス」
「その呼び方はやめようか。私も死ぬまでの猶予を楽しみたいから」
「イエス、シェルファ。アシストはお任せください」
「うん、本当にお願いね」
シェルファはギラリンと俺を睨み付けると、おもむろに俺にぶちゅーとキスをし、ちゅぽんとマジで音を立てながら口を離すと、ぷはあーなんて声を出し、やったんぜ! と気炎をあげながら歩き去った。
「俺はエナジードリンクか何かなん?」
やだシェルファさん男前、きゅん。みたいな顔をしつつ呟くと、ポンポツが妙なロボットダンスをかっくんかっくん躍り、Cの字をした手をぱっくんぱっくんしつつ、心底驚いた様子で呟く。
「……凄いなお前の嫁、まだ人間なのに
「はぁっ!?」
シェルファさん!?
「あの程度なら多少運が良くなる程度だから問題ないが……いやはや、この夫あっての妻つうか、すっかり変態の夫に毒された進化しちゃった妻と言うか、ダゼ」
「どさくさに何を言っとる? おう? クソ上司」
ゲシリと胴体部分に爪先を叩き込むと、頭の部分が飛び出し、みょーんみょんと頭を揺らす。正体バレたら自重しなくなったなコイツ……まぁ、元から目立ちたがりの構ってちゃん野郎ではあったが。
「とー様、帝国近衛艦隊が戦列に加わったの」
「こっちはフォーマルハウトの防衛隊が参加しましたのん」
「ア・ソれんごうたいもきたーよ」
「ネットワークギルド所属のギルド員達も続々じゃな。それに特務艦隊、ガイツのところにミリュが加わったぞ」
俺が呆れた表情でポンポツを見下ろしていると、オペレーションシートで情報処理を行っていたルル達が報告をくれる。
「なんつーか、マジなんだな……」
スクリーンに視線を向ければ、ライジグスの国章を刻み込んだ国母艦仕様に改修された船に乗るアリアンちゃんに、わんわんおアリシア大統領、それにまさかまさかの神聖フェリオ連邦国のミリュ女王陛下と、いつの間にか嫁が増えてる事実に、頭痛が痛い……レイジ! 覚えてろよ!
「今さら三、四人増えても変化ないだろ、ダゼ」
「変化あるだろうが! 主に俺の負担が増えるやろがい!」
「結局、何だかんだで受け入れるタツローきゅんなのでしたまる、ダゼ」
「ぐぅっ!?」
そうなりそうな予感は既にあるんだ! やめてくれ! やめろー! その言葉は俺に効く!
「じゃ、私も行きますね。お願いされた事はしっかりやってきます」
「お、おう! 頼むわマリオン」
「はい! じゃ」
悶絶していた俺に苦笑を向けながらマリオンがニッコリ笑って走り去、ろうとして小走りで戻って来たと思ったら、シェルファと同じ事をして、やったんでー! と気合いの入った叫びを出しながら走っていった。
「お前の嫁、以下略、ダゼ」
「マリオン! お前もか!」
いやまぁ、あれで運気が上昇するなら別に構わんのだけども、もうちょいムードと言うかね? 気にしようよ。
「立場が逆、ダゼ」
「だーなー、物語なら男が景気付けに惚れた女に、って場面ではある」
元気な嫁さんの姿を見れただけヨシとしましょうかね。うん。
「アビィ、準備は?」
「ばっちりですのん! パピヨンとファルコンにも手伝ってもらってますのん」
「ルルちゃんやーい」
「あい! ななじゅっぱーせんと!」
「おお、凄い凄い。スーちゃんとせっちゃんは?」
「もうちょっと時間が欲しい」
「何で妾が一番難しい部分を担当するのじゃ!? うがーっ!」
「スーちゃんは慌てずにね。せっちゃんはお姉ちゃんだぞ! って自分から引き受けたんでしょうに全く」
さてはてこちらの悪巧みは順調と。さて、んじゃまぁ、まずは土足でアルペジオに踏み込んだエンガチョ集団を一掃しましょうかね。
○ ● ○
アルペジオでもっとも巨大な建造物であるセントラルステーション。つまりはアルペジオコロニー全てと繋がる巨大な駅なのだが、その駅を背にクラウド氏達は苦戦を強いられていた。
「リーダー! 住民の救助完了したよ!」
「レッド! 負傷者の治療も完了だ!」
自分と同じような感じでヒーロースーツに変身した連中が集まり、邪神眷属から住民達を守りつつ救助活動をしていると、いつの間にやらリーダーに祭り上げられていたクラウド氏は、だからリーダーでもレッド……着ているスーツは赤いけども! レッドじゃねぇ! と心の中で叫びながら指示を出す。
「ピンク隊は温存! ピンクのナノマシンシャワーヒールは保険で取っておきたい! ブラック隊はまだいける? グリーン隊の方はどう? ブルー隊のライパルサーのエネルギー残量のチェックはどうした?」
内心ではグチグチ言っているが、やってる事はしっかりリーダーをしており、それが自然とリーダーだのレッドだのと呼ばれているのだが、クラウド氏は気づかない。
「ブラック隊は疲労がヤバいかも。三交代で前線に出てもらってはいるけど、このままだと崩壊するかもしれない」
「グリーン隊の援護は順調だけど、やっぱり長時間戦いっぱなしだから、動きが鈍くなってきてる」
「ライパルサーのエネルギーは問題ないよ。軍用のエネルギーパックと交換できるからね。ただ、お手軽訓練しか受けてないボクらじゃ、重たいレイガンをずっと射ち続けるのは厳しい。フレンドリーファイアしそうでヒヤヒヤしてる」
仲間達の報告に、クラウド氏は唇を噛む。最初こそはヒーロースーツの性能に助けられて圧倒していたが、すぐにそれも陰りを見せ始める。
本来、エグゾスーツやパワードスーツと呼ばれる装備は、必ず慣熟訓練を受けさせられる。何故なら、体の延長線上の装備である以上、本来の肉体と合致しなければ真なる性能を発揮しないからだ。
ライジグスの大人達は、軍隊の訓練を受ける一応の義務があるが、それはお手軽訓練と呼ばれており、さすがにエグゾスーツやパワードスーツを着用しての訓練などは受けられない。せいぜいが護身用の体術と、射撃訓練、レーザーブレイドの扱い方や、緊急救命キットの使用方法くらいしか行われない。それとて年一回程度の参加で許される、かなり緩い義務だ。
「トラフィックは止まったまま?」
「緊急停車モードから復帰しない。そっち関係に強い人が頑張って解除しようとしてるけど……」
「無理だろ。一般人が政府中枢へハッキングとか不可能だって。情報処理の女神が関わってるんだぞ? そこらへんのプログラムに強いって奴らと比較するだけかわいそうなレベルだろうが」
クラウド氏の質問に仲間が答え、その答えに別の仲間がもっともな突っ込みを入れ、完全に場の空気を悪くする。
「困った」
邪神眷属は数を減らすどころか増えていっている。それに段々とこちらの攻撃に対応し始め、こちらの予想を越える行動を起こしたりして翻弄し始めている。
「本職はどうしたんだよ」
仲間の一人の言葉に、他の仲間達もうんざりした様子で、そうだそうだと同調する。
「動けないんだよ」
クラウド氏は周囲をキョロキョロ見回し、状況を確認しながら突き放すように言う。
「中央がこれだけ酷いって事は、他の区画も同じかそれ以上に酷いって事だよ。軍部と保安部の初動が遅れたと自分も思ったけど、そうじゃないって今なら分かる。自分が居た場所を守るのに手一杯になってる、絶対」
クラウド氏の言葉に、仲間達がはっと息を飲む。状況に対応する事に手一杯で、自分達以外の状況が見えていなかった事に始めて気がついたのだ。
「……すまん、さっきから八つ当たりみたいな事をしちまって」
刺々しく、一々キレッキレな反論を言ったり、状況に不平不満ばかりを吐いていたブラックスーツの言葉に、クラウド氏は首を横に振る。
「自分達は本物じゃない、借り物のヒーローさ。不満もあれば愚痴だって言いたくなる。たださ、せっかく憧れのヒーローになれたからには、見せたいじゃん?」
クラウド氏がくいっくいっと親指でセントラルステーションの入り口を指差す。そこにはかぶりつき状態で、声をがらっがらに枯らしながら必死で叫び、声援を送り続ける子供達の姿があった。
「彼らにとっては自分達こそがライライジャーなんだよ。ならヒーローとして見せないと、正しい事をしてるって背中をさ」
「「「「リーダー……」」」」
だからリーダーじゃないってば、クラウド氏は苦笑を浮かべながら、さてどうしようと考える。
『いやはや、しっかりヒーローやってんねー』
「……はい?」
何も妙案が浮かばない中、唐突に変身ブレスレットが起動すると、そこに国王タツローの立体映像が映し出された。
『すばらしー! 実に良いね! 君はこれが終わったら是非に政府の役職に就いてもらいたい。あ、名前と住所把握したから逃がさないよ? 大丈夫大丈夫、ちゃんと高給取りだから、何もシンパイイラナイヨー?』
ハイテンションに一気に煽るようにしゃべりきった国王は、急にキリリとした表情を作ると、コホンと咳払いをした。
『じゃ、やりますか』
クラウド氏を、変身した大人達を完全に置き去りにし、盤面をひっくり返す一手を国王タツロー・デミウス・ライジグスは繰り出したのだった。
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