第229話 津波 ⑧
「おいおいおいおいおいっ! マジかよっ!」
リーンのおっさんから観測データが来て、そのデータを使ったスキャンを行ったら、さぁ大変! これでドジョウが出てきてこんにちわ、でもしてくれれば平和だったんだが……
「惑星その物を要塞化、なおかつそれを動かしてるって……しかも三つもって……技術的に可能なんです?」
スティラ・ラグナロティアのフルスクリーンに表示された状況を呆然と見ながら、レイジ君が悪夢にうなされているような口調で聞いてくる。
「可能か不可能かで言えば、可能だね」
「……マジですか」
レイジ君にしては珍しく、かなり顔が強張った状態で俺を見る。うん、残念ながら可能なのだよ。
そもそもの話、惑星開拓も広義の意味なら惑星改造だ。その事に気付かない技術者ってのはまずいない。
やってみたらわりかし簡単にやれてしまうのだが、最大の難所が惑星中枢にジェネレータを仕込む事、ここが技術的に難しいだけで、惑星を宇宙船に見立てる方法いうのはかなりお手軽に出来てしまう。実際、うちのクランでも複数の移動惑星宇宙船というカテゴリーの船は存在する。こっちには来てないのは確認済みだけどね。
一応、惑星宇宙船の定義、というのもあってだね。
・素体となる惑星は、自然環境が整った惑星である事
・惑星自体への改造は惑星中枢へのジェネレータと惑星を守護する外壁のみにとどめる事
・ただし、外壁を支える惑星地表に設置する支柱は惑星本来の環境への介入からは除くが、これも自然環境に配慮しなければならない
・推進力関係は、惑星を守護する外壁部分に設置する事
・改造後の使用により、元から生息している自然環境が死滅しない工夫を行う事
・惑星には兵器類を設置せず、あくまで外壁に兵器類を配置する事
みたいな決まり事はあったな。いやまあ、一時期惑星その物を爆弾に見立てて、敵対クランへ特攻を行うっていう所業が大問題になった時期があって、上位クランでこういう取り決めをして守ってれば、下の奴らも無茶しねぇべ、みたいな流れだったかな確か。
ただお手軽簡素に改造しただけだと、まず必ず自然環境が対応できずに死の惑星へ一直線、そこをまずクリアーしないとそれを惑星宇宙船とは呼びません、って感じにして宣伝しまくったら誰も建造しなくなったけども。
まあ、惑星爆弾系の事をやってた奴らはそれでも、元から死の惑星というか岩の固まりである小惑星に改造だったら文句ねーだろ、って感じに舵を切ってたけど、そっちはそっちでア○シズごっこが流行るきっかけというか、新しいコンテンツを産み出す結果になったなぁ……
一時期作りまくったなぁ、蛍光グリーンのやたらキラキラ輝く粒子を吐き出すT字型の謎装置。しかもそれ単体で宇宙空間を飛ばせとかって無茶な要求もあった。運営が悪のりしてアイテム枠で製作出来たから、エクスカリバーみたいなでっち上げは必要なくて楽だったけど。
「出来るんだ」
「残念ながら」
俺の説明にレイジ君の瞳からハイライトが消える。
だけどねぇ……スクリーンに映ってる移動惑星だけど、俺から見ても本当に謎しかないぞアレ。
俺らのルールみたいのは適応されないだろうから、その視点を除いても意味不明。まず惑星の反応が普通の惑星の反応。つまり大出力のジェネレータも無ければ、惑星を動かす推進力も存在しない。まるで惑星が巨大恒星に引っ張られてるように自然と動いてる感じだ。それならそれで死の惑星一直線だろう、何せ環境は絶対に激変してるハズだし、だが見えている範囲で自然環境はバッチリ守られている……訳分からん、何あれ?
「そこら辺は後程検証するとして、まずはあれらの対応を考えねばなるまい? 宰相レイジ! どう対応すべきか!」
「っ!? は、はいっ! し、失礼致しました!」
ゼフィーナが涼しい顔でこっちの困惑をバッサリ切り捨て、呆けてるレイジ君を一喝してこちらへ戻す。いやぁ、何だろうこの貫禄、本当に俺が技術開発部で遊んでいる最中、彼女達は何をしていたんだろうねぇ……
「提督リーン殿の艦隊が対応している惑星は、リーン殿にお任せしても大丈夫です。残りの二つが問題で、アベル艦隊近くにある惑星は、第二艦隊と第六艦隊を増援に出せば何とか。問題は……」
「このウェイス・パヌスに急接近中の惑星か」
「はい」
三つの移動惑星はそれぞれ、ポイント・ジーグ、アベル君の名も無き宙域、そしてア・ソ連合体の領宙域内部に存在している。
幸いにして、と言って良いかどうか、二つの宙域でうちの艦隊が、ガッチリ対応出来ているから残り一つをぶっ叩けば大団円、勝ったな! 風呂入ってくる、っていう感じなのだが……連合体の領宙域にいるのが、ちょっと難しい。
ポイント・ジーグにしても、名も無き宙域にしても、一応名目上はライジグスへワゲニ・ジンハンの軍勢が喧嘩を吹っ掛けた、という大義名分がある。もちろんコジツケなんだが、連合体代表ニカノール・ウェイバー氏のお墨付きがあるので、そのコジツケを押し通せるから、うちとしてもガンガン自国の大戦力を投入出来ている。だって俺達の庭への不法侵入だもん、ぶっぱして当然やん、って暴論がまかり通る。
だがア・ソ連合体の領宙域はそうも行かない。現在の名目は、不測の事態が発生し、ライジグスが無償提供した生命維持装置の故障への点検作業、という感じでガラティア達は動いている。ウェイス・パヌスへ向かったルブリシュ艦隊も、ニカノール・ウェイバー氏からの要請(緊急エマジェンシーコールを体よく利用)を受けての人道支援であり、武力介入をしている訳じゃないのだ。コロニー内部に入っての敵性生物の排除も、名目上は人道支援、コロニーの正常化を目的とした作業であり、戦闘行為は行っておりません、っていう体を守っている。
んじゃなきゃ、まだまだ見習いの見習いにすらなってないクマっこ達を導入したりしない。彼女達の戦闘方法が、完全に掃除にしか見えないからこその導入であって、俺だって最後までそこは反対してたのだ。
優れた道具、優れた装備、整った身体強化調整、全てを万全に整えてはいるけど戦闘に絶対は存在しない。ましてや彼女らはまだまだ半人前にも至っていない、いわば訓練生だ。俺としては忸怩たる思いでしたよ、ええ。これが政治の世界だったら、日本人最強の激オコ証明、必殺の遺憾の意を発動していただろう事間違い無し。
「ニカノール氏の状態はどうだろうか?」
「ガラティア様が直に向かわれて、現在、アビィとパピヨン、ファルコンによる治療が行われております。命の危機は脱したようですが、蓄積した疲労が予想以上に深刻であるらしく、ガラティア様の命令で身体強化調整の導入を進めています。外見年齢の引き下げに繋がりますので、ラサナーレ様もついでにやっちゃえって感じに動いてるようです」
「つまりはまだまだ目は覚めないか」
「はい、肉体的疲労はどうとでもなりますが、精神、神経系の疲労は医療ポットで一発解決とは行きませんからね」
「うむ……」
そこまで医療ポットで解決できてしまうと、必ず無茶をする輩というのが出てくる。うちで言えばクルルなんかが一番真っ先にやりかねん。徹夜、医療ポット、徹夜、医療ポット、徹夜みたいなループをしてでも研究を続けるだろうなぁ、アイツ。だから、安静にする事で解決するモノは、あまり研究を進めていないんだよなぁ。緊急時に使用する事を限定的にして、みたいな事をしても使う奴は出るだろうし……
ゼフィーナとレイジ君の話し合いを横で聞きつつ、俺は俺でア・ソ連合体の領宙域の
「なぁなぁレイジきゅん」
「はい?」
俺の呼び掛けに、レイジ君が面倒臭そうな顔で、すんげぇおざなりに返事をする。いやもう、君の俺に対する扱いの酷さよ……まあ、いいけどさ。
「ア・ソ連合体って面白いよなぁ、領宙域とか言ってるけど、所々に所有権を放棄してる場所が点在してんだぜ」
俺はニヤニヤ笑いながら、
「はい? このクソ忙しい時に何――へ? マジですか?!」
レイジ君が慌てて
「くっそ! 確認作業怠ったっ!」
まるでサッカーワールドカップの試合中、格下相手に技ありゴールを食らい、膝から崩れ落ちるサッカー選手のような姿で叫ぶレイジ君。そこまでか? とも思わなくはないが、まぁ彼もクッソ真面目やからね。
しばらくどこぞの劇団の、獅子が王になっちゃう系な叫び声を出していたレイジ君だったが、さっくり気持ちを切り替えたのか、何事もなかったように立ち上がり、オペレーターへ指示を飛ばす。
「アベル艦隊への第二、第六艦隊合流後、プラティカルプス大隊とメビウス大隊がお役御免となるので、その二つをまず先行させます。ポイントは連合体放棄宙域アギ・ロック」
「了解、そのように」
「第四艦隊と第五艦隊も準備が整い次第アギ・ロックへ」
「了解、コロニー『エリシュオン』から直接ジャンプを行わせます」
いつもの調子で指示を飛ばすレイジ君の後ろ姿を、腕を組んで分かりみおじさんっぽく、うんうん頷いて見ていたら、ゼフィーナがバチコンとウィンクを飛ばしてきた。何だろう、ナイスフォロー的なサムシングだろうか? フォローってかちょっとした気付きのプレゼントふぉーゆーだったんだけどね。
俺が苦笑を浮かべてゼフィーナへ肩を竦めて見せると、それを見ていたレイジ嫁の一人が、レイジ君の脇をドゴン! と激烈な音を発生させるような勢いでつついた。いやちょいとお嫁さん、レイジ君、悶絶しとるがな……
しばらく悶絶していたレイジ君だったが、何でという表情で嫁を見上げると、その嫁が般若が如き表情でレイジ君を一瞥し、くいっと男前に俺の方へ顎をしゃくる。その意図に気付いたのか、レイジ君はゴホゴホと苦しげに咳き込みつつ、俺に深々と頭を下げる。
「げほげほっ! こ、国王陛下、先ほどは無礼な態度をしてしまい申し訳ありませんでした」
「いやいや、別に気にしてないから。それよりも大丈夫かい?」
「鍛えてますので」
苦痛に相当顔を歪めながら、ふへへへへとニヒルに笑う我が義理の息子。なんつーか、ライジグスの男ってのは、嫁の美尻に敷かれる宿命にあるのかしらん?
「レイジの案で進める。我ら近衛は現状維持。ただし状況は切迫している、我々近衛も第二種戦闘配備で待機続行」
「了解、通達を徹底させます」
「頼む。という事でよろしいか?」
きりりと凛々しい表情で、おどけたようにゼフィーナが確認してくる。いやもう、俺から言う事はありませんぜ。
「ゼフィーナに任せるよ。指揮に関しては、もう俺より上だろ?」
「うふふふふ、どうだろうな?」
綺麗な笑顔を見せる嫁に、俺は肩を竦めながら苦笑を浮かべ、レイジ君の指示通りに動き出した味方の様子を眺める。
「皆、命大事でなー」
そんな願いを口に出しながら。
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