第213話 怒涛 ③

 Side:エッグコアボーイズ@俺達だって恋がし隊プライベード通信チャンネル


 やあ、自分はエッグコア隊の一部隊で隊長をしている軍人さんだ。気軽にAさんとでも呼んでくれ。本名? それは勘弁してくれると嬉しい。


 そうそう、自分達の今回の任務は、ア・ソ連合体の代表ニカノール・ウェイバー氏からの要請を受けての出動だ。なんでも連合体で秘密裏に対処していたワゲニ・ジンハンという化け物がいて、そいつらへの対応が今回、ウィルス攻撃のあれこれが原因で対処仕切れない可能性が高く、大同盟のツテを頼って陛下に協力を願い出たとか。


 確かに我が国の軍事力は、ちょっとおかしいからね。ただ与えられて、ただ使っていただけの頃だったら、鼻ほじで馬鹿面晒して『ほーん』とか言ってお仕舞いだったろうけど、ちょっと上級将校を目指して勉強をし始めた昨今、自分達の国がどんだけ変態か客観的に理解出来るようになったよ。ははは。


 さて、で自分達は今、絶賛ワゲニ・ジンハンとかいう化け物と戦闘中な訳ですが……


『ちょっとアッシュ隊長エグいんですけどっ!』

『馬鹿野郎! 喋ってる暇あったら、隊長のケツをしっかり追えっ!』

『どうせ追うなら美女の方が良いっ!』

『『『『それな!』』』』


 はい、絶賛修羅場中です。


 アッシュ隊長からの通信は軍のオープンチャンネルで、ぎゃーすか騒いでるのは、自分達が自分達用に調整したプライベートチャンネルだ。


 自分達も色々と学んだ。初戦とフォーマルハウトでの戦いで、あまりに馬鹿な事をオープンチャンネルで喋りすぎた。そのせいで本国での自分達、エッグコア隊の風当たりが悪い悪い。特に女性からの視線がね……


 だからこそのプライベートチャンネルであり、仲間内で軽口を気軽に楽しむ社交場として自分達で作り上げた。これで自分達の印象もいずれ変化するだろうと期待している。うん、完璧だ。


 それはそれとして、アッシュ隊長、鬼である。最初のライジグス・アローは基本だから分かる、分かるよ、うん。自分達もあの編隊陣形は悪夢にうなされるレベルで叩き込まれたから、半分寝てても組める。だけどいきなりピラミッドって、しかも動けって、回避型ピラミッドをいきなり組めってあーた……


 しかもドンピシャで相手を狙える場所に位置取りするから、手を抜こうモノなら一発でバレるし、必死に食らいついて付いて行っても更なる要求に地獄を見るっていう……なんだよライジグス・アローからドラゴン・スケイルかーらーのーハニカム・ネットって……そういうのはマルトとかカオスとか、あのレベルの化け物に要求してくれよ、まぢで。


『さすがは宰相閣下推薦のエッグコア隊だ。まだまだ行けるな?』

「了解っ!」


 つか了解しか返事できねえっす! 貴方、何気に二等大翼士長じゃないですかやだー! 自分達からしたら雲の上どころじゃない天上人ですからっ! そんなお方の命令に、いやいや無理っす、なんて言えるわけがねぇっ!


『新型のエネルギー注入ミサイルを試す。陣形はスターリング。起点はレッド1、レッド2から続け』

「了解っ!」


 一番キツい場所っ!?


 スターリングとは、隊長艦を起点、スタートとして、隊長艦を横滑りのように追いかけ、巨大な動く円を維持し続ける陣形である。難易度的には起点が最も簡単で、二番手の入りが一番重要になる関係上最も難易度が高く、ついでどん尻が上手く円周運動に入り込むのが難しい、ライジグス航宙軍の難易度的には上から二番目くらいに難しい編隊陣形の一つだ。


ちなみに自分は二番手をやった事はない……あ、レッド2ってのが自分のコードネームっすって、アホかっ! 流れで返事をしちまったぃっ?!


『あー、失敗しても何とか食らいつくから、思いっきり行っとけ』


 この野郎、他人事だと思いやがって……


 いや、入りに失敗したとしても、三番手、四番手で修正は可能なんだけどさ。失敗してもしもだよ? もしもぉ、あの超激戦だった南部動乱を駆け抜けたアッシュ隊長に叱責されるなんていう事になったら……な、何て恐ろしい……


『カウント入れるぞ。さん! にぃ! いちっ! ゴーッ!』


 ちょ! は! 早いって! そこはさーん、にーぃ、いーち、はい! でしょぉっ?!


「こんにゃろっ!」


 ふへ、ふへへへへ、気合いじゃ! こうなりゃ気合いで行くっきゃねぇっ!


『うおまじかこいつっ!』

『勢いと根性だけで隊長に食らいついた、だとぉっ?!』

「うっせばーか付いてこいこんにゃろ!」


 うおぉぉぉぉぉぉっ! 慣性がががががっ!


「システム! Gキャンセラー!」

『Gキャンセラー起動シマス』


 アッシュ隊長鬼である再び。何だよその速度の起点はよぉっ!? ふつー陣形を作るまでは戦闘速度より二段くらい下で整えるでしょぉうっ!?


『マジかよっ?! システム! Gキャンセラー起動!』

『ぐげぇっ?! ジズデブ! グェギャンゼザーじどうぇっ!』

『うっそだろっ?! ぐぬぅおぉぉっ!』


 自分に続く仲間達も、もれなくアッシュ隊長の洗礼を受ける。つーかアッシュ隊長、何でこんな操縦上手いんですかねっ?! え? リア充だと全てが達人になるんです? ちょっと自分にも美人で気立ての良い女性を下さいよマジで!


『敵増援を確認。ミサイルの準備は良いか?』

「レッド2、エネルギーチャージ開始!」

『レッド3、チャージ開始!』


 おっと、またぞろ団体さんのお越しじゃないか。しかし、アッシュ隊長の無茶振りで余裕がないから気にしてなかったけど、こうして見るとワゲニ・ジンハンつーのは恐ろしい姿をしている。何より、なーんで生身で宇宙空間を生きて移動出来んだろう……つーか、宇宙空間を走って向かってくるって……あれは本当にナマモノなんだろうか……


「チャージ完了、チャージ完了。ミサイル発射準備完了シマシタ」


 おっと、今回のミサイル、エネルギーチャージちょっぱやじゃないか。前の奴より相当早いぞこれ。


「レッド2、エネルギーチャージ完了!」

『レッド3、こちらも完了!』


 仲間達のチャージも続々完了し、自分達は必死にアッシュ隊長を追いかけて、スターリングを維持し続ける。


『ターゲットロック』

「レッド2、レッド1のターゲットにリンク」

『レッド3、リンク』

『レッド4、リンク』


 編隊陣形スターリングの真骨頂、エネルギー注入タイプ、超威力ミサイルのターゲットリンクロックによる一斉射。この陣形をするなら、これをしないでどうする? という戦術だ。でも、こんな速度出してターゲットを合わせろって、システムの補助はあってもそれをシレッと要求してくるアッシュ隊長、鬼であるマークスリー……


『ミサイル発射っ!』

「レッド2、ミサイル発射っ!」


 ほぼ同一のタイミングでミサイルが発射され、そのタイミングで編隊を解除。各々がその場で反転し、ミサイルから距離を取る。


『うおっやっべっ! 今の俺達かっけーっ!』

『わーかーるー、ビジュアルディスクの戦闘パイロットモノっぽかったっ!』

『こういうシレッと高度な操縦技術を扱えるのに、どーして女性は俺らに冷たいのか』

『『『『それなっ! マジでそれなっ!』』』』


 いやまぁ、メイド隊にいる幼馴染みに聞いた話だと、鼻息荒く自分達を見ている様子は、どう控え目に見ても変態にしか見えないとバッサリ切られた。いやまぁ、レイジ宰相とかアベル司令とかの、スマートかつ紳士的な女性への対応とか見ちゃうと、確かに自分等は下品だろうさ。


 ん? 陛下? 陛下はー分類すると、どっちかってぇと自分達寄りだけど、あの方はお嫁さんが出来てる人しかいないっていう勝ち組筆頭だしなぁ……比較するのも烏滸がましいっていう。


『ミサイル着弾』


 おっと、新型のミサイルが爆発した――なんじゃこりゃぁっ?!


『なぁ、これって爆発っていうより消滅じゃねぇの?』


 エッグコアのコックピットは全周囲モニターで、パイロットスーツのまま宇宙に浮いているような感覚になるくらいに、全周囲を見回せる作りになっているんだが、ミサイルが爆発した方向をチラリと見れば、空間が捻れて抉れたように見えたんだけど……


『技術開発部にも困ったモノだ、ははははは』


 いやいやいやいやいやいやっ! 何!? そのやんちゃな子供でもたしなめるような口調!? やんちゃどころか暴れん坊だよっ!? 暴れてるつーか暴走してるよっ!?  そんな爽やかに笑うとこじゃないっすよっ?! アッシュ隊長っ!


『リア充の余裕よ』

『それで済ませて良い話か? これ』

『レイジ宰相閣下の頭の血管が心配です』

『でも最近、レイジ宰相も開き直ったというか割り切ったというか、どっちかつーと陛下に似てきたよね?』

『リア充の余裕だな』

「そればっかりだな、おい」


 アッシュ隊長の指示で、再びライジグス・アローの陣形を組む。だから速度が早いっちゅうねん!


『アベル司令からの指示があった。一旦我々も本隊へ戻る。連合体の守備艦隊も完全に離脱完了したようだ。気を抜くなよ』

「了解っ!」


 はぁ……綱渡りが終わった……これならまだシミュレータ空間で、クローンAI師匠達にみっちりしごかれてる方がまだ優しいぞ……


『……なぁなぁ、これ、やばいんじゃねぇか?』

「あん? 何がよ」

『うへぇ……マジかよ……レーダー確認してみ』

「レーダーって――」


 一区切りで一息という感じに弛緩していた自分だったが、仲間達の指摘にレーダーを見て絶句した。自分達が倒した数以上の追加増援が、まだまだオーゥ・ジ星系の方にひしめいていた。




 ○  ●  ○


 調査船団の艦橋、調査用の高性能観測機器によって観測されたデータに、アベルは厳しい表情を浮かべていた。


「多いどころの話じゃない。これは軍勢というより、エデンの波のようなモノじゃないか……」


 数があまりに膨大過ぎて、本来ならば一体一体表示されるものが、敵性反応が多すぎてレーダー全体が真っ赤に染まっている。


「どうしますか? 本国に連絡を?」

「……そうだな。これは自分の能力以上の状況だ……すまない、本国へ連絡を頼む」

「了解しました。現状と合わせた報告を本国へ回します」


 アベルは大きく息を吐き出し、力を入れすぎて地味に痛む眉間を揉みながら、戻ってくるエッグコア隊に視線を向けた。


「こちらの兵装に問題は無いが……問題は、調査船団の船には自衛用の武装しかないのがなぁ……」


 アベルが乗艦している旗艦は、あくまでも調査を目的とした船であって、この船での戦闘は想定されていない。いや、やろうと思えば出来なくはないが、軍艦のような運用は不向きである。だからこそエッグコア隊を連れて来たのだが……このままでは彼らの負担が雪だるま式に膨れていくのが目に見えている。


 本国からジャンプで一瞬だが、それでも戦闘をするには準備をする時間が必要だ。それにこっちへ来る前にだって準備段階は必須であるから、連絡をいれました、来ました、とはならない。本国からの増援が来るまで、こちらで何とか戦線を維持しなければならない。


「戦略はレイジみたいに出来んぞ……」


 調査船団の一番から三番までのデータと、連れてきているエッグコア隊のデータ。エッグコアのドッキングパーツのデータ等々、ありとあらゆるデータを睨み付け、アベルは迫ってくる軍勢にどう対応するか唸る。


『よーよー、手伝いは必要かい?』


 必死に頭を回していると、まるでこちらの苦労を見ていたように、ニヤニヤとムカつく笑顔で通信を入れてくる義兄弟、レイジがモニターに写し出された。

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