第198話 やって来たぜ! ア・ソ連合体
暴君と文化の中心地グヴェ・トゥリオ帝国。信仰と規律の神聖フェリオ連邦国。商売と混沌が支配するバザム通商同盟改め、学術と知識の集積地フォーマルハウト。そして、なんだかよく分からないア・ソ連合体……観光ガイドにはそう書かれている。
「実際のとこどうなん?」
旅の途中で仕入れた情報サイトの知識を喋りながら、隣に立ってるおっさんに聞くと、おっさんはすんげぇ迷惑そうに返事をする。
「……だから、なんでお前はそう、ほいほいと身軽に動き回る」
お久し振りのトイルのおっさんが、こちらを呆れた表情で見ながら、かなーりわざとらしい溜め息を吐き出す。
「いや、俺だって技術開発系のお仕事をモリモリやってたんだけど、色々へし折る気ですかって怒られて、んで追い出された」
「……」
酷いよねぇ、基幹となる技術の改良案を考えろって言われたからさ、思い付く限りにガンガン提出してたら、もう来んな、だよ? やれって言ったのそっちじゃん、いくら温厚な国王でも激オコですよ?
「はあ……百歩、いや一億歩譲ってお前が来たのは、納得……ぐぅ、納得するしかねぇ……納得するが、そっちは?」
「「「「何か不満でも?」」」」
ギャンと音が鳴りそうなくらいに鋭い視線を向けられ、おっさんかなり及び腰になりながらも、それでも根性で反論する。
「……不満つーか、どうしてうちの商会の制服を着てるんですかっていう話だ……つーかいつ作ったよ? 大人用の制服なんざ二三着しか無かったのに」
俺の両隣には、クリスタと愉快な仲間達、イーリス、ネレイス、タリムがおっさんの商会で使用している制服をきっちり着込んで立っている。
「そんな事ですの。もちろん、貴方の嫁経由で仕入れましたの」
「あは、あははは、ご、ごめんね?」
「……いやまぁ、確かに断れんよなぁ、そりゃぁ……」
商会が大きくなる途中で、ちゃっかりフォーマルハウトに残していた幼馴染みのティアンヌ・ロックスっていう超美人の出来た女性と結婚したおっさん。彼女はうちの嫁達に良く御用聞きに来るから、そん時にお願いされたんだろう。
「もういい、それも納得した。うん、うちの嫁は悪くない……んで? 何でそっちの子供達がうちの見習いの制服着てるんだ?」
「「「なにかーもんだいでもー?」」」
せっちゃん、ルル、ブルースターの三人がクリスタ達の真似をするように、可愛くぎゅいんと効果音を口で出しながら、にこにこーとおっさんを見る。
「もうええっちゅうねん! もう! なんやねん! お前らおう、ぐぅっ! い、一族は毎度毎度おちょくりおってからにっ!」
「本場の突っ込み入りましたー!」
「やっかましーわっ! しばき倒すぞっ!」
という訳で、ライジグスの表向きの顔は調査船団にお任せし、国に居てもこれと言って仕事の無い国王様は、おっさんの商会員としてア・ソ連合体へ遊びに来ました。一応、視察である。
「いやでも、ティアさんには許可取ったよ?」
「……」
さすがの俺でも、おうこら乗せろよこらおう視察だこら、ってな感じで強引に押し掛けるような事は出来ませんからね。これでも国を代表するような人間になってしまったので、醜聞っちゅうのは避けないと……いやなんか、一部の国民にはそれでこそ国王とか喜ばれてるらしいが……いやいや、礼節は大切でごわす。
「私は楽しいかなーって……ほらトイル、絶対反対するし」
「……相談くらいはして欲しいんだが?」
「相談するのと同時に、アルペジオから出航したでしょ?」
「……」
色々読まれてますなぁ。俺はつい嬉しくなっておっさんの肩を叩く。
「なんだよ?」
「ようこそ! かかぁ天下の世界へ!」
「……否定できねぇ……」
「「「「失礼なっ! ちゃんと尊重してるでしょっ!」」」」
嫁が強い、と夫婦として尊重してるっていうのは、うん、ちと違うんだよ。まぁ、それが悪い事だって話じゃなくて、それで上手い事回っているんだから良いんだけどねって言う話なのさ。
「とと様ー、おひさまーとまぶだちーのつるぎーのはたー」
「お?」
そんな馬鹿話を繰り広げていたら、ここア・ソ連合体中枢都市コロニー、ウェイス・パヌスの最大宇宙港へ我が国の調査船団が入港してきた。
「なぁ……なんかシルエット違くねぇ?」
「最近、技術革新が激しくて、新しくて高性能で高品質な物があるんだから、使わないと勿体無いよね? って事でガンガンアップデートにヴァージョンアップも繰り返しています」
「……本当、最初からだけど……デタラメな国家だよなぁ、ライジグスって」
「そこのご用商人として儲けまくってる奴がぬかしよる」
「……」
工作艦も改良に改良を繰り返し、ハンマーシリーズからマルチツールシリーズへと進化しまして、専門の施設を使わなくてもマルチツールシリーズが大規模ドッグの代わりになるようにしたら、船の改修が進む進む。かつての面影が残る船ってほぼ駆逐されちゃったし、まぁ前回のような不測の緊急事態を体験しちゃうと、それでも不足してるんじゃないかって思うんだけど。
「船団の代表はアベル兄なんじゃな?」
船から顔を出したアベル君を見て、意外だとせっちゃんが呟く。まぁ、以前のアベル君だったら絶対やらんだろうからなぁ。
「前回の戦いが本当に堪えたらしくてね、必死に足掻いている最中っぽい。まぁ、あの子にはミィちゃんが付いてるから心配はしてないんだけどね」
随分と不甲斐ないって自分を責めたようだけど、そこはミィちゃんを筆頭にした嫁達が上手く誘導してるようだ。まぁ、アベル君の場合、何気にクソ真面目なのが悪い影響を出してるとは思うんだけど、開き直るにしても受け入れるにしても、やっぱり経験と体験が必要だろうからね。今回の船団代表も自分から名乗り出たし、頑張っているよ。
「ア・ソ連合体の代表は、ニカのおじちゃんじゃないんです?」
「船団に同行してるよ。だから彼が代表代行なんだろ」
スーちゃんは何気にニカノールさん大好きだったりする。ニカノールさんもスーちゃんにでれっでれだったし。それはそれとして、ライジグス船団を迎えたのは熊獣人。アニメっぽい感じじゃなくて、完全にリアルより野獣丸出しっぽい外国ケモナー大歓喜なタイプ。
「なぁ、何か殺気立ってないか?」
「……ああ、多分あれだ。俺達の国の問題にくちばし突っ込んでくるんじゃねぇ、他所もんがっ! っていう勢力」
「ん? ウェイバーの旦那の独断だったんだろ?」
ケモケモしい熊たんが、かなり物騒な殺気を放出している。おっさんもこれを分かるレベルで修羅場を体験してるんだね。ちょっと感心。
「ニカノールさんを補佐して長いらしいから、彼のやりそうな行動バレバレなんじゃね?」
俺がのんきに返事をすれば、おっさんはなるほどと納得した。
「ああ、確かにブラウン・アラバマ・クマーつったら脳筋アニマリアン(獣人系統の宇宙人の総称)でも知性派で有名だしな」
「……あらばまくま?」
それ絶対クマが関わってるだろ?
「アラバマ部族のブラウンさん。クマーは開祖クマから名誉称号として貰う感じだな」
その部族名考えたの奴だろ絶対っ! ツキノワとかヒグマとかポーラーとかプ……さすがにそれは不味いって避けるかな? そんなん付けてるだろアイツっ!
「あ、いっぱいーきたー」
一人脳内突っ込みをしていると、船団からアベル君を先頭に、調査チームの精鋭達が彼の脇を固めるようにして一つの塊となって歩いて来る。場の殺伐とした空気を感じ取ったのか、アベル君にしては珍しく目付きが鋭い。うん、良い面構えをしてる。問題なさそうだな。
「んじゃ俺らはウェイス・パヌスを見学すっかね?」
「え? 見ないの? アレ?」
俺がよっこらせとルルを背中に乗せ、両腕にせっちゃんとスーちゃんを抱えて持ち上げて言うと、おっさんがアベル君達を指差しながら首を傾げる。
「ははははは、見る必要もない。問題にもならんからね」
ルルが背中は嫌だったらしく、よじよじ登って自分から肩車の形に持っていくのを感じつつ、俺が苦笑混じりに言えば、おっさんは本当かよと視線をアベル君達へ向けた。
「っ?! くっ! つぅぁ……」
アベル君達の方を見た瞬間、アベル君達が一斉にアラバマんとこのブラウンさん達へ、挨拶返しとばかりに威圧した。その余波を食らったおっさんが、青い顔で唸りながら膝から折れていく。
「しっかりしなよ。子供達すら大丈夫なのに」
「お、お前んとこの一族と一緒にすなっ……くぅぅ」
しょうがないからおっさんの盾になる形で立てば、おっさんが脂汗を流しながら、ぜぇぜぇと息を整える。ちなみにティアさんはしれっとうちの嫁達がガードしていた。
そうこうしているうちに、クマたん達がばったばったと倒れて行くのが見える。
「おーおー、向こうは向こうでだらしない」
「……あれ、気絶してんのか?」
「みたいだね。ニカノールさんが凄いアベル君に平謝りしてるな。アベル君は気にしてないって感じか」
いきって殺気を飛ばしてたクマさん達は、全員泡を吹いてぶっ倒れた。周囲の、多分クマさん派閥の人間だろう奴らも青い顔してへたってる。先に喧嘩を売って、逆にガン飛ばされてやられるって、あいつらお笑い集団か。
まあいいや、あっちはアベル君の仕事。俺はちゃんと視察をせねばっ!
「さて、こっちは都市見学に行こうや」
「お前、本当にブレないな」
膝に付いたホコリを払い落としながら、まだちょっとだけ顔色が悪いおっさんが、心底羨ましい感じに言ってくる。俺はニヤリと笑ってフフンと鼻を鳴らす。
「楽しめる時に楽しむってのが、最近の座右の銘なんでね。それでおっさんはどうする? 仕入れ?」
「いや、そっちは弟子達に任せてる。ワイらは新開拓出来そうな品物がないか、市場へリサーチだな」
「なるほど、じゃ、ご一緒しましょう。ティナさんの護衛代わりにうちの嫁付けるよ」
「……過剰戦力すぎるわ、ぼけ」
「はっはっはっはっ、軽犯罪者は滅殺」
「せんでええわっ……はぁ、行くで」
「「「「はーい」」」」
妙に疲れた様子のおっさんを先頭に、俺達はウェイス・パヌスの市場へと向かうのであった。がんばれおっさん! フォローはしないけどなっ!
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