第151話 お話を聞きました。(げっそり

 お義母様方が座り込んだのと同時位に、かなり慌てた様子のアネッサさんが走ってきて、お義母様方を見つけてこちらも座り込んでしまった。


「うぉぃ?! ちょっ?!」

「マイロード、マヒロにお任せください」

「おっおう、頼む」

「イエスマイロード」


 もう何でしょうこの空間。


 俺がひたすらオロオロしている間に、ロドム兄貴が素早くガラティアに連絡してくれたらしく、メイド隊の子がエレカ(空中に浮遊する電動自動車と言う感じの乗り物)を回してくれたので、とりあえずお義母様方とアネッサさん、嫁達はそれに突っ込んで中央区へ送った。


「あまり良い予感はせぬのぉ」

「嬉しそうな顔して妙なフラグ立てはやめようね? せっちゃん」

「むふー♪」

「むっふっふー♪」


 全く、この子達は……


 とりあえず商業区へ向かう予定を消化すんべと移動。ご要望のあめちゃんを補給出来て子供達の機嫌も上向いたので、物凄い重い足取りで中央区へ戻る事にする。余談だが、店番をしていたマドカさんには、また王様がほいほい外出して、と飽きられてしまった。


 あ、そうそうマドカさんで思い出した。レイジ、アベル、ロドム三名の円卓の騎士団血縁事情を一応確認したのだが、三人を連れてきたのがマドカさんのお父さん、バッツさんだったとかで詳しい経緯は聞いてなかったとの事。嫌な予感がして、他にバッツさんが連れてきた子供はいないよね? と確認すれば、ミィちゃんにフランちゃんはバッツさんが連れて来たと聞かされ、また妙なフラグが立ったような気分になった。


 なんちゅーか、色々引き寄せているようで怖いんだよ。どこかに厄落とし的な事をしてくれるような施設を見つけて、是非に厄落としをしたいのだが……無理かねぇ?


「陛下」

「ん? お、もう着いたのね」

「気が進まないのは理解してますが、ガラティア様から連れて来いとの命令が」

「うへぇぁ」

「「わっくわくわくわっく」」

「楽しむな! この可愛い幼女共め!」


 きゃーきゃー嬉しそうに騒ぐ二人を両脇に抱えて、ロドム兄貴の背中を追いかける。どうやら場所的には会議室に向かっているようだ。


 途中、遊んでいる妖精達に引っ付かれたり、散歩している妖精達に引っ付かれたり、休んでいた妖精達に引っ付かれたり、妖精に遊ばれながら会議室へと到着した。


「毎度思うが、何でそんなに好かれるんだ? 旦那様もそうだが、ルルもせっちゃんも異常に妖精達を惹き付けるよな?」


 全身、妖精まみれな俺達を見て、ゼフィーナが呆れたような感心したような、ちょっと微妙な感じで聞いてくる。それは俺も理由が知りたい。


「そりゃ、最上級で居心地が良い場所だもの」

「そうなのか?」

「タツローさんって守られてるって気が凄いするんだよ。だから引っ付いてると安心する。ルルは楽しい気分になって、せっちゃんは一緒に遊んでくれるって気分にしてくれる。だから見つけたらとりあえず引っ付くって感じ」

「ほーん、そんな事情が」


 両脇の幼女二人を見れば、顔面に張り付かれてふがふがしていた。これも毎度お約束のようにするよなぁ。


 妖精の体は頑丈ではあるけど、小さくて繊細な見た目なので、押し潰さないよう注意して二人を椅子へ座らせて、顔面に張り付いている妖精をぺぺいと引っ剥がす。


「「ぶはーくるちぃ!」」

「何で楽しそうなん?」

「「ようせい(妖精)ちゃんはあま(甘)いからっ!」」

「うえ? 君ら舐めてるの?!」

「違う違う、匂いがの、凄い甘いのじゃよ。フルーティーな感じもしての、息苦しくはあるんじゃが、気分は悪くないのじゃ」

「ほーん? ふがっ?!」


 そんな事が、と思っていたら、肩に座っていたサクナちゃんが俺の顔にべたりと張り付いてくる。あー、確かに甘い香りがするな。フルーティー、ってよりかはまんまサクラの匂いがするな。


「妖精香って妖精の体質なのよ。気を許した相手には、その香りを放出して精神を安定させる効果があるんだから」

「よっと、凄いなそれ。もういいよ?」


 サクナちゃんを引っ剥がし、肩に戻しながらヴィヴィアンの説明に感心した。


「あのーパパン? そろそろこっちに戻っておいで?」

「……居たのか、愚息よ」

「あなたが部屋に入ってくる前からいましたぞ? いつもの漫才、ご馳走さま?」

「毎度言っているが、漫才をしているつもりはサラサラないんだぞ? 愚息よ」

「はははははは、このパパン、ぬかしよる」

「「「「はいはい、親子漫才してイチャイチャするな」」」」

「「これとイチャイチャとかないわー」」


 いつも通りの日常風景を展開してしまったが、それを見ていたお義母様方が腹を抱えて笑いだしてしまった。そんなに面白いか? 今の?


「えーこほん。先に僕がアネッサさん経由で聞いていた情報を報告しますね」

「うむ、頼む」


 話が進まないと思ったのか、レイジ君が真面目な顔を作って、会議室の立体ホロモニターを起動しつつ説明を開始する。俺は俺で、大きな飴の瓶、ちゅーかこれもう巨大な花瓶サイズだな、それをテーブルにドンと置く。これで妖精達は飴に夢中になっていたずらしなくなるから安全だ。


「北部のゴタゴタの時のアレがあって、帝国もその機会にアリアン様が暖めていた改革案を進めようと動き、まぁ奴らも動くだろうと思ってたので、旧王家関係の派閥の監視をアネッサ長官にお願いしていたのです」

「ふむ」

「僕の予想では、せいぜいそれぞれの影響下の土地へ引き籠るか、それでもかつての栄光を忘れられず足掻くか、その二択かなとは思っていました」


 レイジ君がコンソールを操作すると、頭の痛くなる映像がアップされる。


「いやーまさか、土台ガッタガタの状態で独立宣言するとは思ってませんでしたよ、あはははははは」

「笑い事じゃねぇだろ」


 画像には西部辺境ジゼチェス・ファリアス連合王国、東部辺境オスタリディ王国のテロップがご丁寧につけられていた。そして集結している多くの艦船。完全なる戦争準備である。


「それで、お義母様方がアルペジオへ来た理由ってのは?」

「はっ! それはあた、わたくしから!」

「やめやめ、いつものノリで良いから。しゃべりにくいでしょ?」

「すみません、何とか出ない努力はしてんだけどね。育ちが悪くて」

「気にしないから、それで?」

「ジャミハム・ゲーブル・ファリアス、ファラ様の親父ですけどね? そいつがとんでもない事を言い出したのが切っ掛けで」

「ん?」


 アネッサさんが物凄く言い難い感じで、チラリとファラとファラそっくりなお義母様を見る。何かお義母様がしっくりしてきたぞ?


「アタシ、実の娘じゃなくなったらしいわよ?」

「はあ?!」

「アタシは、母さんがどこぞの誰ともしれない男との間に出来た不義の娘であり、ファリアスを名乗るには不適格な血を引いているらしいわ」

「はあぁぁぁあぁぁぁっ?!」


 え? いやちょっと待て? それマジで言ったの? 馬鹿なの? だってファリアスって女系じゃん。親父の血より母親の血の方が大切なんじゃねぇの?


「アンタでも分かるでしょ? それでもアタシの姫巫女の肩書きは揺るがないのに、それを堂々と公言して回っているらしいわよ?」

「馬鹿なの?」

「馬鹿なんでしょうね」


 いやまぁなんだ、残念な奴ってのはどこにでもいるけど、一番駄目なのはお前が娶った女を静かに泣かせてるって部分なんだがな。


「妖精達、頼む」

「「「「♪~♪~」」」」


 飴に群がっていた妖精に言えば、彼女達はすぐに俺が言いたい事が分かったのか、唇をキツく噛み、苦しそうな表情で静かに涙を流すファラママに群がる。引っ付いたり、撫で撫でしたり、彼女達の情愛でもって優しくファラママを慰めてくれた。


「私達はもっと凄いぞ」

「ええー、拾ってきた子供になってるようですよー」

「……」


 あー、段々と見えてきた。つまり、俺達の宣言の正統性にヒビを入れて、民衆に疑惑を持たせて、自分達こそが正しい旧王家の血統である、って感じに持っていきたいのかね、これって。


「無理筋すぎねぇ?」

「無理でしょうねぇ。だってパパン、エクスカリバーとヴィヴィアンちゃんとティターニアちゃん揃えて、さらには旧王家の象徴まで持ってる状態で、どうやってひっくり返せと? お前ひっくり返せ、って命令されたら、顔面に拳を叩き込むレベルで無理です」

「だよなぁ」


 何でこんな頭悪い事をしでかしたんだか。


 俺は呆れ顔でアネッサさんに視線を送り、話の先を促す。


「んで、お三方の身の危険が加速度的に上がったので、あたしの判断で連れてきました。いやぁ、ドッキングベイで姿を消された時は肝を冷やしましたよ」

「ああ、だからあそこでへなったのね」

「面目ありません」

「いやまぁ、気にしてないけど」


 なるほどねぇ。これはあれか?


「もしかして、お義母様方の正統性に疑い有り、みたいな形へ持っていって断罪するつもりだったのか?」

「あー、なるほど。やりそうな手口ではありますね……うーん、それだと身の危険がある人が増える可能性が……アネッサ長官、正妃様方の他の兄弟はどんな?」

「あ、そっちは大丈夫です。アリアン様とスーサイ様が事前に動いて帝国本星で保護されてますので」

「やるな、アリアンちゃん」


 なら安全だな。


 しっかし、なんちゅー空回りか。だってねぇ?


「別にいくらでも叫んでくれてもいいんだよな、俺達的には」

「「「「ですよねー」」」」


 前回の釘刺しはこっちにちょっかいを出してきたから、それ繰り返したら分かるよね? という脅しが目的であり、別に旧王家の血筋がどうこうは重要じゃないんだよな。だって、旧王家の名前を王様である俺が名乗ってないし、もう旧王家、嫁達の名前に頼らなくてもライジグスの事は浸透してきているからなぁ。


「とりあえずは静観ですね。むしろこれは帝国が解決すべき問題ですから、我々には関係ありません」

「うむ。お義母様方はこちらで保護するのは当然だとして、とりあえずアリアンちゃんとは密に連絡を取り合ってくれ」

「はっ、承りました陛下」

「アネッサさんもご苦労様。ナイス判断でした。引き続きお願いね」

「任された」


 とは言ったものの、これって絶対こっちに飛び火してくるよな。うわぁ、面倒臭い。


 はぁ、こういう動乱系はもうお腹一杯だっての。そろそろマジで何もないがある、みたいな日常を俺に送らせてくれっ!

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