第117話 ぽくぽくぽく ちーん

 ちょっと資材の原材料を回収出来て、なおかつ帝国にまたまた恩を売れるじゃん、と楽勝モードで来たんだが……


「これ、どうすべ」


 実に困った状況に直面している現在。俺は頭を抱えている。


 トリニティ・カームみたいな特殊宙域での行動は、生存に特化したシステム回りの設定に、ガッチガチに固めた安全装置は必須、というのが基本である……と思っていた。


 いやね、アリアンちゃんに確認して通信ぶち切ったら、アルペジオに凄い数の抗議の通信が来てたらしくて、シェルファからどうにかしてくださいと叱責を受けたんだ。んで改めて通信を繋げて、謝罪と色々確認をしたんだけども。


『そもそもの話。トリニティ・カームのような危険宙域を航行する物好きは存在しないから、そこで活動するための手段なんて確立しているわけがないでしょ?』


 とキレられた。そして、もう色々敬うのが面倒臭いとぶっちゃけられてタメ口へと進化した。ん? この場合は退化なのだろうか?


 というわけで、物語で良く使われる名言の代名詞、広大な砂漠で小さな宝石を見つけるようなもの、を現実でやるハメになった俺は絶賛悶絶中である。


「とと様、だじょぶー?」

「だじょばない」

「そっかー、かえるぅー?」

「そうしたいのも山々なんだが、そうもいかないんだよねぇ」

「そっかー、たいへんねー」

「本当にねー」


 ストレス軽減の為、ルルちゃんにはお父さんの安心毛布状態になってもらっているが、これでもストレスを感じている。いやもう、あいつ放っておいて帰るってのもアリな気もしないでもない。


「うぬぬ、現実的な手段としては、やはりトリニティ・カーム全体へ向けてスキャンが現実的かのぉ」

「だーなぁ」


 せっちゃんの頭脳で計算をしてもらって、色々と考えてはみた。


 その一、奴からのSOS信号を待つ。これはアリアンちゃんに確認したら、その手の装置を動かす知識が無い事が発覚。必須事項を全く習得してないとかアホの子どころかそれ以上だった件。見つけ出したらぶん殴る事が決定した瞬間だった。


 その二、人手を増やしてトリニティ・カーム全域をしらみ潰し。却下。これをした場合、帝国がライジグスの属国になっても恩を返しきれない事態になりかねないと、ゼフィーナが反対した。というか帝国なんて病んだ大国を抱え込むのは御免被ると、リズミラがキレた。さもありなん。俺も嫌だし、面倒見たくない。


 でその三、遠距離からの超出力増幅波によるトリニティ・カーム全体のスキャン。超重量、超磁力、電磁パルサーに負けない増幅波をブッパして、それを高性能な受信機で受け止めてスキャンしてしまおう、という方法。これが一番現実的ではないか、という結論に達したのだが……


 そもそもの話、危険宙域とは言っても、確かな準備とそれなりに熟達した腕さえあれば、危険の八割方を排除し、残り二割もあるかないかの事故率程度であったわけで、突入さえしてしまえば、レーダーなんぞ使わなくても資源がゴロゴロ転がっている状態の場所であり、誰もこんな場所でレーダーを使うという発想すらしなかったわけで、つまりそんな装置を作った事がない。


 となると、全くのゼロから作るって事になるわけで、そんな事をここでやろうものなら、確実に年単位で時間が必要になるわけで……と手詰まり状態なのだ。一旦、国に持ち帰ってそっちで、となっても半年は必須だ。しかも、一発成功なんてする訳もないのだから、完全に開発プロジェクト扱いの国家事業となってしまう。これまた帝国属国化の話がチラホラする。却下だ。


「ウェーイ、連レテ来タゼァ、ダゼ」

「来ましたわん」

「お呼びですか? マイロード」

「おー、すまんね」


 ちょっくらライジグスまでファルコンとマヒロを回収してくるように頼んだのが、今到着したらしい。


「んで?」

「「「「来ちゃった(てへっ)」」」」


 その後ろにいる嫁数人。つか、正妃がほいほい動いていいんかよ。


「いや、それを言うなら旦那様は国王だぞ?」

「だから心を読むなと」


 ゼフィーナは俺の横に座り、うんうん唸って演算中のせっちゃんを抱き上げて、嬉しそうに抱っこする。最近のお気に入りらしい。


「で、どうするの?」

「一応な、超出力の増幅波をブッパして、トリニティ・カーム全域をスキャンするって方法が現実的だ、っていう方針は立てた」

「……そんな凄い装置、製造してたんですか?」

「まさか。準備と訓練さえしっかりしてれば、ほとんど無傷で安全に作業できる場所を、わざわざそんなレーザー使ってなんて方法をするって発想すらしなかったもん。あるわけないじゃん。物好きな過酷環境を開拓するのを楽しんでた集団もいたけど、目視で

どうとでもなるって言ってたし」

「相変わらず、こう、斜め上方向に突き抜けた知り合いが多いのだな、旦那様は」


 お茶ですの、とかしれっと給仕するガラティア他メイド達……じっとりとした瞳で見ると、ポッと頬を染めて照れる。ちがうちがう、そうじゃそうじゃなぁいぃ。


「まさかゼフィーナの船で来たんじゃないだろうな?」

「今回もナノの船です!」

「……何人で来たんですか? お嫁さん達?」


 ゾロゾロ姿を見せる側妃及び才妃のお嫁さん達。え? 今、アルペジオごっそり人いない感じ?


「何、レイジが留守番をしてくれているし、解放した他のコロニーも駐留している艦隊もある。問題はないさ」

「だからナチュラルに心を読むなと」

「分かり易いんですよー」


 きゃっきゃうふふとまるで女子高のようなノリで、嫁達が楽しそうにしているのをぼんやりした瞳で見ていたせっちゃんが、プラプラさせていた足をピーンと伸ばし、くわっと瞳を見開く。


「そうじゃ! タツロー、こんなのはどうじゃ? ファルコンとマヒロも計算してみて実現できるかチェックじゃ!」


 女子高って意外と不潔だって聞くなーなんて雑な知識に現実逃避していると、ずっと考えていたせっちゃんが妙案を思い付いた。


 今現在、嫁達が乗って来た船、ナノのムーンライト、ガラティアのスカーレティア、そしてアイアンハンマーのチェックという名目でブルーエターナルがある。それらの船をトリニティ・カームの外周域に、計画的に配置をし、その状態でトリニティ・カームの中心域に俺の探査船を置く。その状態で、外周域の船から増幅波をブッパして、中心の探査船に増幅波を拾わせる。これなら正確ではないが、それなりのスキャンは可能ではないか、とせっちゃんは思い付いた。うわょぅじょかしこぃ。


「そうですね……マイロード、受信する装置をもっと強力な物へアップデートする事は可能ですか?」

「あん? まぁ、今回の探索で色々素材をゲット出来たから、まぁ、可能だな」

「それなら成功率を上げる為に、お嫁さん達の船の装置もアップデート推奨ですわん」

「あらやだ、解決の糸口だわ」

「とと様、あびぃみたい」

「やめろくださいしんでしまいます」


 ファルコンとマヒロの演算もあり、実現可能な形へ落とし込みがスムーズに進む。


「どうじゃ! これがセラエノ断章の力じゃ! むふー」

「「「「むふー!」」」」

「いや、君らも来たんかい」

「「「「遠足!」」」」

「さいですか」


 最近、嫁達が年少組の面倒を見るようになったんだが、どうやら彼ら彼女達も連れてきたようだ。まぁ、まだ学校って年齢でもないし、勉強なんて実際端末一つあれば出来てしまうから、実経験とか体験学習であるとか、そういった意味では良いんだろうけど……一応、ここってこっちの宇宙で最も危険な宙域なんですが……


「そこはホラ、ライジグスの技術は宇宙一って言ってたじゃないアンタ」

「言ってない言ってない。そんな台詞は言ってない。というかそんなに顔に出るか?」

「もう諦めましょう? 私達としましては、隠し事のないタツローが大好きです」

「隠し事が出来ないの間違いじゃねぇか?」

「いいじゃないですか。常にオープンですよ?」

「いいのかそれ」

「愛する人の事はなんでも知りたいんですよ」


 なんだかわちゃわちゃしてきたが、まぁ解決出来そうな感じになってきた。後は、過不足ないように、それなりの量の資材を確保しつつ、作戦へ移るって感じかな。


「うおぉぉっ! せっちゃんは宇宙一ぃぃっ!」

「「「「宇宙一ぃぃぃっ!」」」」

「お前らか、それ」


 締まらないのも俺達らしくていいのかもね。ぼちぼちそれなりに急ぎながら進めますか。


 俺達は作戦に向けての準備を楽しみながら進めるのであった。

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