第22話 入会テスト イージーモード
「テストを受けてもらう」
「ん?」
ニヤリと笑ったおっさんが、渋い声でそう言った。
「はあ、それは構わないが、内容は?」
「もちろん戦闘シミュレーションだな」
「ふむ」
まあ、入会しようとしている部門が戦闘を主目的としているところだし、当たり前っちゃ当たり前か。
「分かった。今すぐか?」
「いや、その前に必要事項を記入してくれ。そっちの子供は妹か?」
「むすめちゃんです、むふー!」
「はあ? む、娘?」
「あー、まあ、ちょっと訳ありでな。一応、俺の養女って事になる」
ルルが外に出て真っ先に暴走機関となっている間に、ちょっとそのままじゃまずいかもしれんな、と思い立ってアビゲイルとマヒロに
「まあ、この界隈で相手の過去を詮索するのはご法度だ、深くは聞かんが……子連れで仕事をこなすのか?」
「むしろ宇宙で一番安全な場所が俺の横だぞ? 何が問題だ?」
「……」
本心で言ったんだが、何か凄い痛々しい人物を見るような目で見られているんだが。
「大した自信だな。ほれ、これに記入してくれ」
胡散臭いとでも思われているのか、データパレットを投げ渡された。まあ、ここに入会する目的が、公的な身分の取得、つまりパスポートをゲットするようなものだ。別に認められようとられまいと、どうでもいい。
パレットにてきちゃっちゃと必要なことを入力し、それをおっさんに渡した。もちろん丁寧にテーブルへ置いて。
おっさんはさらっと流し読みすると、パレットを記録装置へ投げ入れ、席から立ち上がるとついて来いとばかりに顎をしゃくる。
やれやれ、こりゃあ確かに荒くれ者認定されるわ。こういう前時代的なノリって好きじゃねえんだけど。
俺は肩車したままおっさんの後についていく。案内されたのはどうやら訓練ルームのようで、凄い古くさい大型のシミュレータが数台設置されていた。
なんだろう、雰囲気が凄い、一昔前のゲームセンター臭い。薄暗くて、妙な電子音が響いているからそう思うのか。それともシミュレータがゲームの大型筐体にそっくりだからか。
「それぞれのシミュレータは軍用、大手シップメーカー、小規模シップメーカー、指定無しの汎用タイプと分かれてる。好きなのを使え」
ご丁寧にシミュレータの内装を変えているらしい。何て無意味な。使っているシステムの大本が同じなんだから、コックピットなんざパイロットの好みだろうに。
「ルルはるすば――」
「や!」
「いやな、ポンポツと――」
「やーの!」
「はあ、これって仮想重力発生機付いてないよな?」
「そんな高級な装置、軍隊でもなけりゃ手は出せん」
「ならいいか」
どうやらお嬢様は一緒にいたいらしい。なんでこんなに懐かれてるんだろうか。いや、昔っから小さい子供には無条件で懐かれやすいってのはあったけど、一目惚れしましたレベルで懐かれてるんだが。
それは一旦置いて、ちょいと確認をば。
「どれどれ」
どんなもんだかそれぞれのシミュレータを覗いてみる。どれも大差なかったのだが、一つだけ慣れ親しんだコックピットが用意されていた。
「これは?」
「ああ、それは
「れがりあ?」
「皇帝陛下専用の宇宙船のコックピットレプリカだ」
「ほーん」
これ使ったら面倒な気配がヒシヒシすんな。無難に汎用タイプでも使うか。
「んじゃ、こいつで」
「……分かった。中に入って準備しろ」
「へーい」
「よゆーっち!」
お嬢様、わざわざおっさんを煽らなくてもいいんだよ? ま、いいけどさ。
「大人しくしてるんだぞ?」
「ルル、いつもいーこ!」
「さっきの大爆走は?」
「ルル、わかんなーい」
「ほほう、都合のよろしい頭をしてらっしゃること」
「きゃっきゃっきゃっ!」
すっとぼけるお嬢様の頭をグリグリ撫で回しながら、汎用コックピットに乗り込み、俺の膝上にルルを乗せる。すっぽりハマった感覚が良かったのか、お嬢様は大変ご満悦なご様子でござる。
「ええっと、うへぇあ、ひでぇなこれ」
船のジェネレータを起動させる手順からだと思ってコンソールを確認すれば、酷く面倒くさい配置になっていた。これで汎用なん? 酷くねぇ?
ひたすら遠回りさせるような手順を踏んで、うっとうしい面倒な方法を取らされながらジェネレータを起動させる。
「ふむ、こっちは随分と素直だな」
操縦桿やらフッドペダルやらを確認するが、こっちはコンソールみたいなひねくれた様子はなく、かなり素直な感触で大丈夫そうだ。
『ではテストを開始する』
「はいよー」
「やふー」
何か舌打ちが聞こえたような気がするが、まあいい。すぐにシミュレータが動き出し、モニターに随分単調な動きをする敵船が写し出された。
「んー?」
いくら訓練だからって、こんな動きするヤツなんておるんか?
「とと様、くるー」
「お、あんがと」
フラフラ飛んで来るヤツを、とりあえずレーザーで狙い打つ。てか、こっちの武装って軽レーザーかよ。なんでこんなん主武装にしてんだよ面倒だな。
スケートで移動しながら、レーザー射ちっぱなしでシールドを割り、そこからチマチマ相手のエンジン部分を狙い続け、かなり時間を使いながら落とした。
『次』
「はいよー」
「はいほー」
それから続けて十回程度のテストが行われたが、面倒なだけで特筆すべき面白い事もなく、ただのシューティングゲームをやってるかのごとき状態でクリアーしていった。
「もういいか?」
「おわたー?」
『……テスト終了、最初の部屋に戻ってくれ』
「ほいほい」
「ふむふむ」
最後に聞こえてきたおっさんの声が、何やら神妙な様子だったが、なんだろね? ルルを抱っこしながらシミュレータから出る。
受付に戻れば、おっさんの様子が少し変だった。何だろな。
「んで結果は?」
「合格だ」
どうやらこれでギルドへ入会できたようだ。やれやれ、面倒くさかったな。
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