第8話 伏魔殿 ゲームの全てをそこに置いてきた


 秘匿ステーション『ロックロック』は、俺らのクランの全てが詰まった場所だ。

 クランがこれまで築き上げた技術、技能、知識、宇宙船、武器等々本当に俺らの全てがそこに収蔵されている。


「アソコニ行クノカダゼ?」

「嫌そうだな」

「行クノカダゼ?」

「本気で嫌そうだな、おい」

 ブリキ様の雰囲気が変わるのが分かる。どんな機能積んだよこれ。分解していいかな? ちょっと中身を確認してぇ。


 ゲームではクランとクランは戦える仕様で、VSクランだと本当に根こそぎ全てを奪えてしまう仕様でもあったので、各クランも自分達の財産を秘匿しまくった。

 うちのクランも全力で秘匿した。うん、したのだが、悪のりしたんだよねぇ、凄い全力で全勢力を使って全労力を用いて。


 何に悪のりしたのか? ステーションを管理する中枢AIに拘ったのだ。


 マヒロちゃんみたいなAIは、明確な人格を設定してプログラムを組むと、とんでもなく高性能な能力を獲得する。


 このAIを考えた人物がちょっとね……


 我がクランにはTOTOという名前のおじいちゃんがいる。このおじいちゃん、凄い紳士で凄い穏和なお方なのだが、ちょっと困った性癖というか嗜好というか……まあ、変態紳士なんだよねぇ。


 秘匿ステーション『ロックロック』の中枢制御AIのデザインが、その変態紳士で、まあ、あー、うん、す、すげぇんだわ。


「行クノカダゼ?」

「そんなに嫌か?」

「行クノカダゼ?」

「うん、分かった。お前は頑張ったよ、うん。でもな、行くぞ?」

「……ウィ」

 君の気持ちは分かる。だが、行かねばならぬのだよ。


「マヒロちゃん? 今の状態ってステルス?」

「イエスマイロード」

 いやあ、すっかり忘れていたけど、俺が作った船なのに機能を理解してない俺ガイル。

「このままステーションに向かいつつ、近場の小惑星帯に寄り道できるルートを算出してくれるかな?」

「ステルスは続行ですか?」

「うん。とっととここから立ち去ろう。また絡まれても面倒だ」

「了解しました。微速で移動、その間にルートを算出。そのまま移行でよろしいでしょうか?」

「それで」

「イエスマイロード」

 優秀だ。俺と違って。


 自虐はさておき、マヒロの設定してくれたルートは完璧で、問題なく進めた。途中の小惑星帯で目的の物資を回収しつつ、スムーズに『ロックロック』へたどり着けた。


「帰リタイ、ダゼ」

「いや、どこによ?」

 ポンポツがどんよりした雰囲気で呟いた。うん、気持ちは分かる。分かるよ、うん。

「マイロード、『ロックロック』より通信が来てますが?」

「お、おお、うん、あー、回して」

「イエスマイロード」


 全周囲ライブモニターに物凄い濃いケツ顎の美丈夫がドアップで表示された。


『おう、ごら、どこのクランの回しもんじゃい、あ"?』

 高いようで低く、低いようで高い、いやもうなんだろうすんごく良い声なのは間違いないんだが、インパクトが酷い。


「や、やあ、アビゲイル。俺だよ、タツローだ」

『あらやだん、あたくしったらついうっかり識別IDの確認を忘れてましたわん』


 全周囲に逃げ場無く、凄いマッシブなピチピチ全身レザースーツの巨漢が、物凄い女性らしさを感じる所作で恥じらう。具体的には、色々な部分がクネクネ動く。


 うちのおじいちゃんTOTO。ユニセックスというか、おネイさんというか、まぁ、そっち方面を専門にしている残念な変態紳士なんだ。つまり、こいつのデザインはTOTO。


「ジジイ、次会ッタラ助走ツケテ殴ル、ダゼ」

 それは全力で同意するが、何か穏やかに笑いながら逃げる気がしてならない。


『あらん? デミウス様? ん? デミウス様にしては瞳とおぐしが少し変ですわん?』

「あ、外面はこうだが中身はタツロ……ん? 髪?」

 アビゲイルに言われて自分の髪を引っ張って見ると、毛先の方が少し黒く染まっていた。なんだ? 医療ポットが変な作用でもしたのか?


『まあまあ、不可思議な事もあるものですわん? と言う事はサクナもおりませんのん?』

「あーサクナ、そういやどこいったんだろうな、あの子」


 SIOプレイヤーには一人一人に妖精ちゃんと呼ばれていたチュートリアルからずっとついてくるマスコットがいる。サクナというのは俺のアバターについていた妖精ちゃんだ。


 ゲームの最後の記憶が曖昧だし、どうなったんだろうな。無事だといいんだけど。


『ま、いいですわん。ステーションをご利用ですわん?』

「ああ、早急にやらないといけない事ができたんでな」

『興味はありますのん。ですがそろそろステーションのエネルギー残量が心もとないですわん』

「それはちゃんと用意してきた。ちょっと無茶な事をしないとならんからね」

『それは助かりますわん。自動誘導装置を使いますわん?』

「ああ、頼む」

『畏まりましたわん』


 何とか乗り切ったぜ。そう思ってポンポツを見れば、なんかぐったりして口からうっすら煙を吐き出していた。


「だ、大丈夫か?」

「ガガガピピピピ」

「いや、自分でその音言うんかい?」

「モウ、嫌ダゼ」

「あー、なー。何となく自分の中で削れちゃいけないナニかが削れる気分だもんな」

「アレハ神話生物ダゼ」

「SAN値かよ」

「アビゲイルから誘導波来ました」

「お、おう、よろしく」

「イエスマイロード」


 何かグダグダになってしまったが、これで何とかなるかもしれない。どこまで大丈夫になるかは俺次第ってところだけど。


 それからステーションのドッキングベイに格納され、しばらく待たされた後に船を降りるサインが来る。


「ポンポツ? 残るか?」

 すっごい見本のような角度で、OTLの状態をしているポンポツを気遣うが、ちょっとわざとらしい感じでよろめきつつついてきた。

「いや、来なくてもいいんだぜ?」

「行ク、ダゼ」

 何を考えているんだか、まあいいか。


「マヒロ、精製したルヴァイド結晶を全部ステーションへ納品してくれ」

「イエスマイロード」


 途中の小惑星帯で採掘してきた物資、精製したエネルギー結晶体をマヒロ経由でアビゲイルへ渡す。


『みーなーぎーるーぅ!』


 頭が痛い。だが、これで全ての準備は整った。後は俺がやりきれるかどうかだ。

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